37-2 美月との宿題


 「もう良いのか? まだ美術館とか動物園とか急げば間に合うぞ」


「うん、全部行ったらお兄ちゃまと次にいく場所が減っちゃうから、また今度でいいの」


「そうか……」

 国立科学博物館はとにかく広くそしてマニアックだった。

 さすがの美月も石が大量展示されている所では、持ち前のうんちく能力は発揮できずにただただ見て回っていた。


 途中ラウンジ(ほぼ食堂の様な休憩所)でお茶とケーキを食べてゆっくり見ていたら夕方に近い時間になってしまった。


 そろそろ出ようとなり、今公園の噴水前のベンチに座っている。

 目の前にいる鳩が餌を求めてなのか、こちらに近づくのを眺めつつ美月が喋りだす。

「はあ~楽しかった、こんなに楽しい夏休みって初めて……」


「そりゃ良かった」

 こんなに大変な夏休み初めてだけどな、でも……楽しいか……


「あのねお兄ちゃま……美月お兄ちゃまとお姉ちゃまと一緒に暮らして、凄く楽しいの……でも楽しいだけじゃダメなんだよね……」


「何で?楽しいんだからいいだろ?」


「うん、でも今美月は現実逃避をしているだけ……学校から逃げてるだけなの」


「逃げるって……」


「うん、美月は逃げてるだけなの、お兄ちゃまなら分かると思う、傷つけたくない、傷つきたくないから逃げるの」


「…………」


「美月は弱いんだよね、お兄ちゃまの様に強くなれないの」


「そんな事……」


「あのね……、美月は今3つの選択肢があるの、弥生ちゃまと相談してそのどれかを選ばないといけないの……」


「3つ?」


「昨日お姉ちゃまには話したの、お兄ちゃまと相談してって、多分美月の事を一番理解してくれているのは……お姉ちゃまだと思う」


「栞が?」


「うん、お姉ちゃまと美月は同じだから」


「同じ?」


「そう……同じなの……」


「よくわからないけど……栞と話せばいいんだな?」


「うん……ごめんね変な宿題出しちゃって、でも今日1日何でも言う事を聞いてもらえるんだよね~~」


「刑の執行中だからな……まだ腑に落ちないけど……」

 俺は無実だ~~~~!


「…………宿題の答えを聞いたら美月一度安曇野に帰るね……ちゃんと弥生ちゃまと話さないといけないから」


「そうか、そうだな……分かったよ、栞と話してみるよ」


「さて、言いたいことはそれだけ、さあお兄ちゃま時間はまだあるんだから、もっとお願い聞いてもらわないとね」

 まだ聞くの?……こういうのって1回とかじゃないの?


「次はね~~お兄ちゃまプリクラ撮りに行こう!」


「またか……ハイハイお姫様抱っこでもほっぺにキスでも何でもやりますよ」


「お姫様抱っこ?」


「前に栞に騙された」


「へーーお姉ちゃまがお兄ちゃまを騙すなんてするんだ~~意外~~」


「そんな事ないぞ、部屋にそっと入って人の物漁るってのもある意味俺を騙してるって事だし、今まで自分の気持ちをずっと隠してるってのも俺を騙してるって事だしな」


「へ~~お姉ちゃま可愛い」


「可愛いのか?」


「うん可愛い、そして……悲しい……人を好きになる気持ちを隠さなきゃいけないって……とても辛いと思う……そうか……やっぱりお姉ちゃまは私と同じなんだな~~」



「なんだ? 美月も好きな人が居るのか?」




「は?……はあああああ?……お兄ちゃま?……なにいってるの?」


「え? 美月は好きな人がいるんだって……」


「えええええええ!! 本気?、お兄ちゃま本気で言ってる?」


「え?」


「うわーーーー引いた、美月人生で一番引いた……」


「そ、そこまで!!! な、何で?」


「ちゃんと羽田空港で告白したでしょおおおお」


「えっと……ああ、美月に大好きって言われたけど、あれって告白だったの??」


「そーーのーーまーーえーーーにもおおおおおお、お姉ちゃまと一緒で私とも付き合ってって言ったでしょ」


「えーーーー、だって妹とは兄妹として付き合うって言ってるし、そもそも今の立ち位置的には、元彼女って位置だし」


「あああああ、もうややこしい兄妹の妹になっちゃったああああ」

 美月が頭を抱えてる、なんでも分かる美月にしては珍しい光景だな……


「本当にお兄ちゃまは天才過ぎて、美月の予想の斜め上を行くよね」


「天才って言葉を簡単に使うんじゃありません」


「今回は紙一重って意味だよーーーーだ」


「そこまで言わんでも……」


「お兄ちゃまの鈍感、無神経、僕念仁!!」


「酷い!!」


「酷いのはお兄ちゃまの方!! 美月がお姉ちゃまと戦う為にしていた努力は一体なんだと思ってたの!!」


「え? 栞をライバルとして見てたって事じゃないの?」


「ああ、お兄ちゃまの事を好きな皆に同情する……お兄ちゃまは、多分分かってない……」


「え?」


「お兄ちゃま! 女の子が好きって言うのは物凄く勇気が要るんだよ!、男の子が言うより何倍も勇気と覚悟が要るの!! 簡単に考えてるでしょ!! あ~~俺の事を好きなんだ~~って感じで!!」


「えっと……そこまでは思わないけど、まあ……はい……」


「酷い……お兄ちゃま酷すぎるうううう、可哀想、みんな可哀想、お姉ちゃまも、美智瑠ちゃんも、麻紗美ちゃんも、そして美月も!!!」


「えっと、え? 美月って俺の事?」


「だーーーーかーーーーらーーーー言ってるでしょ、昔からずっと言ってるでしょーーー」


「えーーでも好きって他のいとことかにも言われてたじゃん、それに子供の好きって誰にでも言うし……」

 美月も最後に会ったときは2年生だったし、今でも大人と子供の中間みたいな認識だし……


「ああ、駄目だ……帰ってからお姉ちゃまと会議だ……、私もお姉ちゃまも、他の人達より一歩進んでると思ってたけど……ひょっとしたら一歩所か二歩も三歩も遅れてるんじゃ……お兄ちゃまとお姉ちゃまの関係が進まないはずだ……」


 美月は突然スマホを取り出し凄いスピードで打ちはじめる……妹かよ……


 直ぐに返信が来た……はええな……てか、何? 何するの?

 その画面を見た美月が俺の方を向き少し泣きそうな顔で言った


「……お姉ちゃま………お兄ちゃま! 美月今から行かなきゃいけない所が出来たの! だからデートはここまで、帰ってから続きをするから夜お部屋に来てね!!」




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