16 その夜の白井先生


 「ああああ、わたし、なにやってんだろーーーー」


 白井里美、通称ジャ……(そろそろクレームが怖い)は家に帰ってお風呂に入り今日の事を思い出す。


 独り暮らしの里美は、お風呂好きな為、普通の小さいユニットバスではない、ちょっと良いホテルのお風呂の様な大きさのこの部屋を気に入り、ここに決め住んでいた。


 まあ、彼女の身長からすると、小さいユニットバスでもある程度手足は伸ばせるだろうが


「言っちゃった、言っちゃった、言っちゃった、でもやっぱり気が付いてなかった」

 今日の昼の事を思いだし、頭を抱えて身もだえる。


「入学式の翌日に教室で私を見た時にびっくりしてたから、てっきり気付いているかと……」

 顔を湯船の中に浸けてブクブクする、暫くブクブクして、息苦しくなり里美は上を向き体を伸ばす


「でも、なんで言ってこないのかなー、照れてるのかなー、って思ったらやっぱり気がついてなかったのか」


「変わらずに、可愛かったなー、ゆう君……」


 上を向いたまま、力を抜き、浴槽をつかんでいた手を離し、首だけ縁に固定して身体を湯船にプカリと浮かせる。


「え?私なに考えてるの、彼は生徒よ、そうよ生徒よ、生徒はみんな可愛いのよ」

 特定の生徒への特別な思い入れは、教師にとって、最もやってはいけないと本人は自覚している。

 これまで、我慢していたのは公私混同をしてはいけないという思いだった。


 しかし生徒会長から、今回の件を自分も含め4人でこなすのは不可能です、との意見を受け、誰に頼むか考えた際、真っ先に浮かんだのは、長谷川 栞

 彼女の人気、頭の良さはこの1ヶ月半の間で思い知らされていた。

 そして、栞を思い出すと当時にその兄、長谷川 裕の事を思い出していた。



 里美は裕との一件で教師になりたいと思った、子供に対して何も出来なかった、今度は何かしたいと


 最初は小学校の先生をしようと考えたが、当時の教師に伝えると


「えっと、もうちょっと年齢は高めの方が、その良いかと思うわよ、どっちが生徒かわからないって言うか、年齢が幼い小中学校の生徒だとその、友達感覚になっちゃうって言うか、回りの先生方に生徒に間違えられちゃうっていうか、迷惑っていうか……」

 よくわからないが、必死の説得で高校教諭を目指す事に


 裕は、私を教師にしてくれた人、何か一緒にやりたい、一緒にいたい、自分に気付いて欲しい、今度は何かしたい、様々な気持ちが我慢出来なくなり彼を誘って見ようと思った。


「はあ、でも泣いちゃったからなー、まさかあんなに泣くとは」

 はずかしぬうううう


「変な女って思われたよね、というか生徒の前で泣くなんてあり得ない、どうしちゃったんだろ私」


「私、彼に意識してる? そ、そんな訳、でもなんかそう言うのあったわね確か、少女愛とかなんとかコンプレックスとか、ああ、でもあれは男性だからあてはまらないわ」

 ちなみに里美はオタクではないので、この手の話しは疎い、ツインテールも高校の時からやってるだけ、自分を紹介する際、前に生徒から言われたテレポートって言うと受けるよっていうのを聞いて、実際言うと大爆笑されるので使っている。

 とある何かのアニメに自分が似ているとは言われたが、実際見たことは無いので、テレポートの意味もよく分かってない。ちなみにショタっていう言葉も里見は知らない。


「私と裕君っていくつ差なんだっけ?、8歳か9歳位?最近じゃあこれくらいの差はそれほど珍しくないよなーってなにを考えているの私!!」

 見た目はあなたが年下です……


 里美はバシャバシャと浴槽で顔を洗う。


「ああ、どうしよう裕君の顔を見れない、恥ずかしい、生徒なのにどうしよう、しかも来週から放課後にも会うって……嬉しい?、あ、いやえっと」


「駄目、彼は生徒よ、私は教師、彼は生徒、教師、生徒、こころ、みづうみ、雪の日、高校教師、言葉の……ナラター……」

 国語教師の為に、今まで読んだ、教師と生徒の本が頭に浮かぶ


 そんな事、現実にあるわけがないと、浴槽の縁に寄りかかると、自分の顔が正面の鏡に映る。

 

 その自分の顔を見てぽろっと一言呟く


「しのぶれど、いろにでりけりわが恋は、ものや思ふと……、か」


 自分の顔が鏡に映っているのを見た時にふっと思い出してしまった、百人一首、平兼盛の短歌、耐えて忍んで隠している恋、でも、そんな顔をしていると分かりますよ、という歌。


 赤く火照ったその顔がお風呂のせいなのか、それとも……




 そして、さらに気になったのは、今日の栞の事


「栞さんが怒った所初めて見た、クラスではあんなに皆から慕われ、笑顔を絶やさない彼女が、お兄さんの頭を触っただけで……、仮に撫でたとしても、あの怒りようって」

 自分と裕以上の危険な香りがしたが、そんな事を考えてはいけないと頭を振り


「葵会長と、裕君と栞さん、3人共繋がりみたいな物があったのね」

「あの3人なにかあるのかしら、なんか裕君、葵さんの事怖がっていたし」


 自分の事、葵の事、裕の事、栞の事

 頭がぐるぐる回る回る回る~~~~



「あああああ、のぼせたああああああ」


 お風呂に入りっぱなしで数時間考え、裕の事で頭に血が回ればそりゃのぼせる


 里美は、必死に風呂場から出て、裸のままでずりずりと部屋に這っていく


 「こんな姿、誰にも見せられないよ~~~~!!」














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