17話 5つの難題。それっぽく言ってファンタジー感出してみる!

 は、はろー。息も絶え絶え琴音ちゃんだよ……。人の噂って怖いよね。あっという間に広がっていっちゃうんだから。もう私にはどうしようもないよ……お手上げだよ。覆水盆に返らずだよ……。


 とは言え人の噂も75日と言うし、周りが落ち着くまでそーっとしておくのがベターなんだろうなぁ。ははっ。辛み。


 さてさて、そんな精神衛生的には超絶最低な私様ですが、今ってテストの最中なんですよね。おい、余裕ぶっこきすぎな!って?はいそりゃ余裕ですよ。なんてったって、テスト開始10分で終了しちゃったんですから。見直しも完璧です。わからないところなんて一つもなかったし、抜けもなかったよ。正直こんなに簡単だったっけ?と拍子抜けである。相当なブランクがあるから厳しいと思ってただけに尚更だよね。


 おかげで私は今暇を持て余しているわけだ。横目にクラスの様子を見てみれば必死にカリカリとやっているようだ。テスト中なので大っぴらに周りは見てないから全員がそうであるかまでは確認できないけどね。折角調子良さ気なのにカンニングだー!ってなって水の泡に帰すのはあまりにも間抜けだもの。


 うーん、にしても暇だなぁ。何をしようか。流石に寝るのはあかんよね。男の子だったらそれやってもいいんだけど、今の私は女の子。更に言えば理想の姉を目指す淑女。そんな子がテスト終わったからって寝ていられるか。


 でも残り20分もあるのに黙ってテスト用紙眺めるのも辛い……めちゃ辛い。どちゃんこ辛い。そろそろ問題用紙と答案用紙がゲシュタルト崩壊しそうだよ。


 あ、そう言えば。回収するのって答案用紙だけよね。つまり問題用紙は回収されない。だったらアレができるんじゃない?


 思うが早いか私は問題用紙の空白にシャーペンを走らせる。何をするかって?落書きだよ!RAKUGAKI!前世でもこうしてテストで余った時間はよく問題用紙にイラスト(笑)をよく描いたものだ。前世との違い、それは全てを終え余裕があるということだ。前世では「わかんねっ」って匙投げて絵を描いてたからね!……最低だね!!え?今も淑女らしからぬ行動だって?ばれなきゃいいんすよ、ばれなきゃ。偉い人だって言ってたじゃないですか。ばれなきゃ犯罪じゃないって。つまりレッツ完全犯罪!


 私はシャーペンをシャッシャッと細かく動かしイラストを描き上げていく。今描いてるのは、前世で小説を書こうと思った際に出来上がったヒロインのリズリットちゃんだ。銀髪に躑躅色つつじいろの瞳。真祖と天使のハーフとかいう中二前回のキャラクターだ。アンニュイな表情が良く似合いそれなりに深ーい闇を抱えた幼女なのだけれど……うん!私の性癖Maxでやばいね!でもそれがいいと思ったんだもん!仕方ないやん!


 流石に色を付けれないのでモノクロになってしまうけれど、銀髪感はシャーペンの艶出しで何とかそれっぽくできる。そして明暗をしっかりとつけてあげればそれだけでちょっとしたイラストの完成だ。


 残り5分。カリカリと必死に問題を解く音が少なくなってきた時、私の力作は完成してしまった。


「おうふ……」


 うん。力入れ過ぎたよ。なんか割と広く取られていた余白がリズちゃんで埋まっちゃったよ。色々小物を入れたりしてたらすんげーのできちゃったよ……勿体なくて消せない……。


 本当は書き終わったら消そうと思っていたのだけれど、予想以上の完成度に消すことが躊躇われる。ていうかこんな可愛い子を消すなんて……!そんな!そんな残酷なこと私にはできないよ!だって今にでも動き出しそうなんだよ?!ここから飛び手てきて「こんにちは」ってしそうなんだよ!?仲間になりたそうにこちらを見つめているんだよ?!!私だったら速攻で「はい」を選ぶね!そこにはぐれメ○ルがいてどっちかしか仲間にできないんだとしたら、私はリズちゃんを選ぶよ!!


 キーンコーンカーンコーン……


「はいやめ。答案用紙を後ろから回せー」


 私が消すか消さないかで葛藤しているとテスト終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。それと同時に教師から答案を集める声がかけられる。


 私は急いで問題用紙を裏返しにし、後から回ってきた答案に自分の答案を合わせ前の席の人に手渡す。危ない危ない。思いの外葛藤し過ぎていたようだ。結局証拠隠滅することは出来なかったけど、私は後悔していない!リズちゃん消せないもん!可哀想!


 消せなかった以上は他人に見られるわけにはいかないので、これまた急いで問題用紙を鞄の中に仕舞う。それとほぼ同時に真が私の机までやってきた。また来るのかいっ!!


「琴音どうだった?」

「ん?まぁぼちぼちかな」


 ありきたりなセリフを言うが、自信満々だ。100点とか余裕ですわ。でもそれをひけらかす私じゃないよっ。それに万一真に負けたらと思うと、ね。負けないけどね!!


「そんな真こそどうなの?」

「ん~、まぁ俺もボチボチだな。思った程難しくはなかったけど自信ないとこはあったな。ほらあそこ、えーと文章問題の4番……問題用紙見た方早いわ。琴音問題用紙貸して」


 は?今ここでそれ言う?私の問題用紙問題しかないから見せれないんだけど。


「禁則事項です」

「は?いや、だから問題用紙ーー」

「それは許されていません」

「意味わからんから。別に問題用紙くらいいいだろ?」

「それは乙女にスカートめくって見せてって言ってるのと同じだよ?セクハラだよ?」

「なんでだよ!」

「それは許可されていません」

「お前はロボットか!」

「よく聞き取れませんでした。もう1度マイクに向けて話しかけてください」

「なんの真似だよ!しかもマイクどこだよ」

「山〇電気にて2120円で販売されております。商品情報を表示致しますか?」

「だからなんの真似だよ!表示できんのかよ!」


 何ってSi〇iちゃんだけど?あ、そっかこの時代ってまだスマホが無かったんだね。忘れてたよ。ていうかPCOSもこの時代だとVistaとかXPか。そうするとSSDとかもないわけで……あ、あの高速起動を味わってしまった身からするとめちゃ不便ですよ……。


「だから、早く問題用紙をーー」


 キーンコーンカーンコーン……。


「予鈴だね♡お戻り?」

「あ、くそ。お前後で答え合わせするからな!」

「問題用紙は自分のを用意してね?」

「はいはい」


 ふぅ、なんとか危機は脱したかな。とは言えテストが終わった後答え合わせをするとなると、私も問題用紙を出さざるを得ないわけで……。もしやるとしたら放課後学校に残ってではなくて、一度家に帰った後に集合というのがベストかな。それなら「問題用紙忘れちゃった♪テヘッ」となっても不思議ではない。うん、これでいこう。


 国語、数学、理科、社会、英語の順でテストは行われた。テストは4クラス一斉に行うので、監督者はクラスの担任となる。凩先生は割と自由人なのでテスト中は何かしらの雑誌(?)を読んでいることがほとんどだ。とは言えサボっているわけではないようで、時折鋭い視線をクラスに向けたりもしている。


 ま、カンニングなんてするほど落ちぶれてもいないので、正直その辺は割とどうでもよくて。ただ、どの教科もやっぱり簡単で多少の差異はあれど10分程度で終わってしまった。そうすると暇になるわけで、やることと言えば今日の晩御飯の献立を考えたり、人間観察くらいしかやることがないんだよね。


 落書きはどうしたって?私気付いたんですよ。どうやら、前世で得た技術っていうのも継承されるらしくて、今の私になってしまっても前世で培ったものが反映されているんですよね。それがさっきのイラストだったわけなんだけれども。つまり私は今の歳にして、既にそれなりの画力を有しているわけになるんですよ。つまり、自分でもそれなりに見れる、可愛いと思える絵が描けちゃうんです。なので、下手に力作でも出来てしまおうものならさっきみたいに消せない事案が発生するわけであります。消せないとどうなるかというと、放課後の答え合わせで使える問題用紙が少なくなります。私がRAKUGAKIをする度に問題用紙を家に忘れてこないといけなくなるのだ。それはよくない。よくないなぁ。


 本当は凄く描きたいんだけどねー。こーゆー空き時間使って絵の練習もしたいんだけどねー。時間の有効利用ってやつ?私効率厨なので無駄な時間って意図的に作ってる時以外は凄い嫌なんだよねぇ。まぁ、仕方ないか。


 結局、テストは私にとって退屈な時間を過ごすだけになってしまった。解いている間はそれでもワクワクとしていたのだけれどね。終わってしまうとただの地獄だったよ……。


「よし、じゃあこれから答え合わせだ」


 真はフンスと自信ありげに言った。その周りには私、みーちゃん、澪ちゃん、一馬、誠治がいる。皆それぞれ不安そうだったりどうでもよさそうだったりと様々だ。勿論私はニコニコしているよ。いつも通りだね。


「それなんだけどさ。一旦家に帰ってから学習センターでやらない?」


 私は事前に用意していた提案をする。そう、これが上手くいかなければ私は力作を披露することになってしまう。それだけならまだいい。見せることにより私はテストを真面目に受けていないダメな娘として認定されてしまう。それは理想の姉としてはよろしくない。ブラザーズだって姉が学校ではダメな娘と言われてたりしたら最悪でしょう。私だったら……いや、ダメなお姉ちゃんありかも……こうふわふわしたタイプならだけど。


 じゃなくて!どうせならしっかりした姉を目指したいの!ちゃんとブラザーズが困った時に力を貸してあげれるような、支えてあげられるようなお姉ちゃんになりたいの!なので、私の力作を披露することは私の理想を遠くすることに繋がるのでそれだけ避けなければいけない。


「学セン?あぁまーいいけど。お前らは?」

「ん〜いいよ〜。澪ちゃんもいくよね?」

「うん!ちょっと質問したいとこあるし、私は助かるかな」

「俺も今日なんもねぇからいくわ」

「暇だしオッケー」

「よし!なら決まりだな!時間は……そうだな、4時頃なら問題ないか?」

『了解!』


 計画通り。


 全ては私の計画通りだよ真くん。君が盤上でくるっくる回ってくれたおかげで私は失態を一つ消すことができたのだからね……くふふふふふふ。


 それにしても、こうして大勢で放課後に集まるのはいつ以来ぶりだろうか!正直、失態を隠す為のカモフラージュだったはずが、集まることの方がメインになりつつあるよ!いやぁ、楽しみ!!皆で集まってこーゆーことやつっていいよね!!青春だね!!私の青春息してるよ!!前世なんて灰色だったのにね〜!!……やめよ?悲しくなるから。


 私はスキップでもしそうなくらい浮かれながらみーちゃんと帰路につくのだった。

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