karma4 遠征
少しずつ世界が変化しようとしている。痛みの声を聞けど、世界の恩恵に
この先、どんな未来が待ち受けようとも、生きるために力を尽くすことに際限はない。
カモメは
一方、夏風に乗って飛行するカモメより少し上空では、クジラを思わせる銀色の2機の機体が泳いでいた。
空を漂う白い雲は機体が通るたびに形を変え、勇敢な戦士を乗せた流星ジェットを見送っている。
普段の任務で活躍することの多い流星ジェットだが、今日は巡回のためでも緊急出動のためでもない。
私服姿の氷見野たちがブレイクルームで談笑する姿を見れば、流星ジェットの行き先がいつもと違うと推測するのは当然だろう。
「今年はジャマイカかぁ。美味しい食いもんにありつけるだけじゃなく、綺麗な街並みも拝める」
東郷は楽しげに声を弾ませる。
「すっかり旅行気分ね」
つぶらな瞳をした子犬のキャラクターは9×9の盤上を移動し、指定されたマスに到着する。そのマスにはリンゴがあった。子犬は舌を出して喜ぶと、ムシャムシャと強調された咀嚼音を出して食べていく。
子犬は後方宙返りをして喜びを表現した。
傾斜になっている盤上の端にはスコアボードがあり、子犬の満腹ゲージが上昇を見せた。
「お前も旅行気分で楽しんでるように見えるんだが?」
「私は仕方なく付き合ってあげてるの」
3Dボードを挟んでいずなの隣でうーんと唸る藤林隊長は、次の手を決めかねている。
涼しい身なりをした丹羽は、浮かれ気分を帯びてクスクスと笑う。
「いいじゃないか。ずっと気を詰めても疲れるだけだし」
「ですよね! 他国の防衛に借り出されるんですから、ちょっとくらい期待しても
ずっと興奮しっぱなし四海も、普段の地味めな格好ではなく、マリンブルーを基調とした南国の絵が描かれたシャツに身を包んでいる。
それぞれ温度差はあれど、誰しも新天地に向かうとなれば、胸が高鳴っても仕方ないはずだ。また氷見野も、緊張を覚えながら未知の外国へ行くことを楽しみにしていた。そして何より————。
氷見野は向かいの席でボードゲームに興じるいずなに目を留める。スコアボードの総合得点はいずなの方が少し上回っている。盤上にいる動物キャラクターは、青い爪と赤い爪を持つ動物に分かれて競い合っていた。
数匹の青い爪を持つ動物は気絶している。
元気いっぱいの赤い爪を持つ動物に対し、青い爪を持つ動物はみすぼらしいなりをしていた。
ルールは分からなかったが、いずなはもどかしそうに首をひねる藤林をニタニタとあざけり笑っている。
いずなとこんな風にどこかへ出かけること自体、久しぶりだ。任務以外の時くらい、なんてことない平穏な時間を過ごしてほしい。氷見野はいずなたちがいる光景を見渡し、微笑んでいた。
日本との時差は14時間。氷見野たちが向かう土地の名はジャマイカ共和国。緑美しい森林と雄大な山脈が国を形づくっていると思えるほどに、自然
ジャマイカの発展は首都キングストンを筆頭に目覚ましく、近年の人口増加も著しい。『カリブの宝』と敬愛され、周辺諸国から移住者が殺到していた時期もあった。
増加した移住者により発展を極め、国として注目されるのは必然。盛んに交易が行われ、資源開発にも余念がなかった。観光業を始め、水産業、農産業の
人工産出に力を入れ、国内で生産される食料の値上がりは、過去40年間なかった。
しかし、ブリーチャーたちの出現により強固な産業に影が見えた。
一時は衰退も懸念されたが、国際機関WSSC——World Safety Shield Coalition——に要請し、衰退は一時的なものとして収めることができた。
世界の脅威と認定されたブリーチャーへの対応は、各国の課題として常に挙がる。対処できる防衛力を持ち合わせている国は問題ない。だが、まだすべてのブリーチャーに対処できる力がない、もしくは長い戦いの末、防衛力の衰えが著しい国は、自衛だけでは難しい状況に陥っていた。
そこで、安全保障理事会の直轄機関
WSSCは国際問題となっている危険生物の排除に苦慮する国に対し、救援要請の窓口となり、派遣登録する国に応援を行う仲介機関である。
今回は派遣登録していた日本に順番が回ってきたため、
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