karma3 救助活動
福岡エリアFは激戦の真っ只中にあった。脆弱な建物にしか避難できなかった民間人が多数おり、予断を許さない。
特殊機動隊、初動防戦部隊と連携しながら民間人を保護し、急いで現場から離れていた。
軍用の移送車で送ることができればよかったが、広範囲を移動している猶予はない。また電波塔がなぎ倒されたり、破壊された住宅の瓦礫で道が塞がれている地点もあり、そう易々とはいかなかった。
自衛隊のヘリによる救助も考えられそうなものだが、10メートル以上ある触手がヘリに当たれば、共倒れの危険性がある。残された方法は関係者以外立ち入りができない下水道、電話やネットの回線ケーブルを敷いた地下通路を通るくらいだ。
地下ならばブリーチャーも侵入できないと思われたが、小さな種類もいる。実際に下水道を通って陸へ侵入したと断定された事例もあり、必ずしも安全を保証できる方法ではなかった。
もし下水道や地下通路で戦闘を行った場合、どうなるか……。想像にかたくない。狭い空間における戦闘は、小さな体格の生物に有利だ。すばしっこいミミクリーズなんかと遭遇してしまえば絶望的である。
しかも狭い土管を通れるのは軽装備の人間だ。
地上を徒歩で移動するのも相当なリスクが付き纏うが、贅沢を言ってられる状況ではない。生島隊長、栗畑、羽地がそれぞれ要請があったグループと同行し、民間人の護送を手伝っていた。
近くで物騒な音が聞こえる。時々怖がった様子を見せたが、ウォーリアがいるという安心感とないまぜになった心境は、民間人に冷静さをもたらした。
氷見野は羽紅と一緒に福岡エリアIを一緒に回っていた。
比較的この辺りはブリーチャーたちによる混乱は少なかった。建物への被害はほとんど見当たらない。
しかしまだ見つかっていないブリーチャーたちがいる可能性も捨てきれなかった。現に隣接エリアでブリーチャーの発見報告が相次いでいる。
大群を擁して一気に
映像で見聞きする紛争地域のようだと、戦地に置かれた住民は口を揃える。地鳴りとも似る大きな音に目を奪われる民間人は、護送車に乗るよう自衛隊員に促される。音の発生源を正確に捕捉できはしないが、大きな音は不穏というウィルスを
氷見野たちから直線距離で2キロほど。音の発生源ではブリーチャーたちとの戦闘が行われていた。
またすぐ近くではカリヴォラが暴れており、志部が対応している。
建物から出られなくなってしまった小型犬が不安そうに見守っていた。飼い主は社屋の中で頭を打って倒れている。
民間人が近くにいる以上、流れ弾や余波による被害を出してはならない。常に民間人に被害が及ばないよう立ち回る必要があった。
油断も隙もなかった。カリヴォラは志部と闘っていたにもかかわらず、社屋ロビーの大窓に突っ込もうとする。飛翔した青い電撃はカリヴォラを吹っ飛ばす。
交差点手前の道路に転がるカリヴォラに追撃をかける。
今のところ侵入は防げているが、これが複数体なら間違いなく犬の命もなかった。
すばしっこく動き回るカリヴォラに苦渋を舐める志部は、気にかけていた社屋に視線を投げる。到着した
「
「はい。それより、保護対象の護送をお願いします」
「了解」
ひとまず安心し、目の前の敵を討つことに集中する。
志部の右腕外側の銃は腕内部に自動でしまわれる。
志部は右手を前に出す。青緑の盾は右手の指先について回り、白い体毛を生やしたカリヴォラに照準を定める。
「
志部は微笑み、シールドモニターが照準をロックしたと表示する。
光の盾は一瞬で輝きを増す。光を増した盾の少し前で、光は一点に
光源は直線的に伸びるレーザー光。電撃の速度など比べ物にならない。レーザーが空気中に放たれたことで、衝撃波は道路と歩道を分かつ植木の葉を取り払おうとする。
すさまじい音を聞いた羽紅は、眉をひそめて遥か遠方に視線を向ける。
大きな建物が
「羽紅さん」
羽紅は薄い膜を張ったかのようなシールドモニターに氷見野を捉える。
「民間人の引き渡しを完了したわ。志部君と一旦合流しようと思うんだけど」
「分かった」
氷見野は志部と通信を試みる。
「こちら氷見野。志部君、応答願います」
「はい、こちら志部」
「まだ取り込み中だった?」
「いや、ちょうど終わったところだ」
志部はカリヴォラの下半身だけ残った道を見下ろしながら報告する。
「そう。エリアIにて、司令室から民間人の救助要請はないわ。だけど、もう少し捜索してみようと思う」
「おっけ。あと探してないのはどこだ?」
「えっと……」
他のことが気にかかり、いつもより集中できていなかった。自分がどこを回ってきたかド忘れしてしまい、返答に困ってしまう。
「あとは
羽紅が代わりに答える。
「よし、んじゃ上三緒周辺を調べよう。現地集合でいいだろ?」
「ええ。気をつけて」
「そっちもな」
通信は切れ、氷見野は羽紅に笑顔を向ける。
「さっきは助かった。ありがとう」
羽紅は仏頂面で氷見野から視線を逸らす。
「……お礼を言われるようなことはしてない」
羽紅は素っ気なく返し、走り出した。
羽紅とは入隊当初に勝谷といざこざもあって壁を感じるが、さっきの羽紅の言動からは少なくとも敵意は感じられなかった。
氷見野は羽紅の態度に今までと違うものを感じながら後を追った。
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