karma14 敵の手の中
桶崎が一方向へ逃げていく。ヴィーゴは飛びながら追いかける。
桶崎は後ろに目をやり、ヴィーゴがちゃんと追いかけてきていることを確認する。
ヴィーゴはスピードを上げた。ほんの数秒、ヴィーゴの飛行速度は
桶崎は横に逃げる。放射時間内、青いレーザーの光を隠れ蓑にするように、
その時、ヴィーゴの尻尾の先にある6つの爪型の花びらがいきなり回転した。
ヴィーゴへ向かっていた電撃はヴィーゴの目の前で軌道を変えたかと思えば、青い電撃が桶崎へ鋭く飛んできた。青い光は烈火とも言える火花を咲かせる。
まさに槍。青い槍は桶崎の左肩を突き刺した。
桶崎は地面に背中を打ちつける。顔をゆがめ、体を起こそうとする。
ヴィーゴはすでに棒を振り切っていた。湿気を裂く飛ぶ打撃は桶崎の体の中心を圧迫する。内臓が収縮されたような痛み。桶崎はせり上がる酸味を吐き出した。
ARヘルメットのシールドモニターの内側が薄く赤に染める。桶崎は痛覚を無視して、乱れ撃ちの飛鳥の打撃を根気だけで避けた。
桶崎の口周りは赤く汚れたままだった。温かい血が肌に乗っているのを感じながら、ヴィーゴの攻撃から逃れていく。
シールドモニターは極薄の黒い膜の上に赤い薄膜が重なったような視界になってしまった。この視界をクリアな状態に戻すためには、一度シールドモニターを上げなければならない。
しかし、シールドモニターを上げてブーストランをすれば、顔の皮膚が空気圧に押し負ける。最悪の場合、
つまり、シールドモニターを上げるためには、ヴィーゴの目を誤魔化し、落ち着ける時間を取る必要がある。ヴィーゴがそれを許すわけもない。目下、標的は桶崎ただ1人である。
司令室では、桶崎が放った電撃が返ってきた原因を解明しようと動いていた。
「強力な磁力を観測しました。おそらく、電撃を返したのはそのせいでしょう」
オペレーターは自分のデスクの前にある透明なディスプレイを見ながら淡白に説明する。
「それが尻尾の先端にできたものの正体」
斎藤司令官は片耳のインカムの外装部の操作ボタンを押していく。司令室の大きなモニターの1つに『Warrior Lab.』の文字が表示される。
「木城室長、至急見てほしいものがある」
「はいはい、さっきから見てるわよ」
木城の気だるそうな声が斎藤司令官のインカムに入ってくる。
「君の意見を聞かせてほしい」
「意見って、電撃を返されたのは超強力な磁力のせいっていうので合ってると思うけど?」
木城は野暮なことを聞かれてうんざりといった口調で話す。
「そちらではない。これから行う作戦について効果があるかどうかを確認したいんだ」
「ふーん、どんなことをやるつもり?」
木城は室長室の黒い椅子の背に体を預け、足を組んで不敵に笑う。
「作戦案は3つ。電磁銃による一斉射撃。指向性の電磁パルス攻撃。物理的な火器の集中銃撃」
「どれも効果的な作戦とは言えないわね」
斎藤司令官は険しい表情で口を結ぶ。
「最初のは当然論外。一斉射撃して、全部返ってきたらゲームオーバー」
「そんなバカなことが……」
斎藤司令官の言葉を木城が食い気味に
「そんなバカみたいなことをやれちゃうのがヴィーゴよ。戦力を一気に失いたくなかったら、最悪の可能性も考慮しなくちゃね。3つ目の作戦は電気を使わない弾だから反射されることはないと思うけど、また地上戦に持ち込まれるだけよ。2つ目の作戦は試してみてもいいんじゃない? ヴィーゴが発している強磁場を打ち消せれば、電撃を返せなくなるでしょうし。まあ、保証はできないけど」
「分かった。EMPプレッサーを手配させる」
「あら、素人の言うことを鵜呑みにしていいの?」
「アメリカ国防総省、
「ふふふっ、司令官に覚えてもらえて光栄だわ」
「また助言いただくと思います。室長」
「はい、いつでもどうぞ」
斎藤司令官は通信を切り替える。
「こちら司令室だ。花巻市エリアKにて行われているヴィーゴとの戦闘において指示を出す。EMPプレッサーの使用を命ずる。諸々の障害を避けるべく、手配をしておく。準備ができ次第連絡を。他のヴィーゴの戦闘をしているエリアにも手配をしておけ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます