~継がれる想い、繋がる心~・2

《取り込み中、か……手短に説明しろ、デュランダル・ロッシェ》

「はっ、はい!」


 デューはモラセス王に促されるまま、ミレニアの封印された過去から作り出されたらしい幻で見た光景と、それによって彼女が今にも負の感情に取り込まれそうだという話をした。


《……そうか、ルセットが……》


 一瞬漏れた吐息に万感こめられているようにデュー達が思えたのは、モラセスがルセットの夫だと知っているからか。


《おいデュランダル、この通信機をあの馬鹿孫に投げつけてやれ》


 沈んだ思考の端に飛び込んできた言葉に、反射的に「は!?」と返してしまったのは仕方のないことだとデューは思った。


《直接ぶつければ俺の声も届くだろう》

「なんの根拠が……」

《意思が弱ければすぐにでも魔物の仲間入りをしてしまうところ、少なくともまだ完全に呑まれていない。ということは、ミレニアも抗っている。ならば後押ししてやるだけだ》

「……あ」


 靄に纏わりつかれ苦しげにもがくミレニアが、助けを求めるように右手をこちらに伸ばした。


「う……ぁ……」

「ミレニア、こいつを受け取れ!」


 その頼りないくらい小さな手のひら目掛け思いっきり投げた通信機は、どうにか受け取って貰えた。


(頼むぜ、王様……!)


 デュー達の祈りに呼応するように、通信機に飾られた石が仄かに明滅する。


《……まったく、この馬鹿者が》

「なん、じゃと……?」


 ぴく、とミレニアの眉が動き、微かだがルビー色の瞳に光が戻る。


《事情を聞いてみれば……俺の方がルセットとの付き合いは長いが、あいつがお前を恨むような奴じゃない事くらいお前にもわかるものだろう》


 モラセスの言葉に弾かれるように握り締めた通信機を眼前まで引き寄せる。


「そ、それとこれとは別問題じゃ! 恨んでいなくたって、わしのせいでおばあさまが……!」

《山が……魔物の出る場所がどれだけ危険かも、お前よりルセットが知っていたはずだ。それでも、守れるつもりでいたんだろうな。その結果、お前を危険に晒した》


 保護者失格だ。


 そう言われればミレニアの手が、よりしっかりと通信機を握る。


「おばあさまは悪くは……」

《お前を庇ったのも、責任を感じての行動……でないとしても、自然とやっていただろうな。ルセットはそういう奴だ》


 一言一言はぶっきらぼうでバッサリしているが、それが次第にミレニアの意識を引き戻しているのがデュー達にもわかった。


 モラセス王らしい、強引なやり方だ。


「てっきり、奥さんとは不仲なんだと思ってたぜ……」

《カミベルのことがあったからか? 確かに、しばらくは引き摺っていたがな。俺に前を向かせたのは他でもないルセットだ。妻というより、ケンカ友達みたいなものだったが》

「げ、聞こえてた」


 距離がある上に通信機越しで聞かれているとは思わず、デューが肩を竦める。

 ふふん、と遠くマーブラム城で王が笑う気配がした。


―そいつを擁護するつもりか? いくら言っても祖母を死なせた事実は……―


 正気に戻してなるものかと、魔物は尚も囁こうとするが、


《……現実を見ろ、ミレニア。お前の非を全ては否定しないが、今ここでお前が負けたら、それこそルセットも浮かばれん》

「おばあさまが……」

《お前には“未来”がある。前を向け。立ち止まるな。お前はルセットの……最強の孫だ!》


 ぐ、とミレニアの拳に、四肢に、力が入る。


《今だ、やれ、デュランダル・ロッシェ!》

「! いくぞ、水辺の乙女っ!」


 言うが早いか剣を手に駆け出したデューは水のマナを纏わせたそれを構え、ミレニアを囲う霧を一閃のもとに払う。


「すまん、手間をかけさせたのう……来い、焔!」

『待ちわびたぜ、相棒ォ!』


 契約者の呼び掛けに応じた火精霊が光の玉となって彼女の中に飛び込み、次いで巻き起こった炎が散り散りになった穢れを完全に消し去った。

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