【連載凍結中】美形に転生したので異世界でヴィジュアル系バンドを組むことにしました

黒岡衛星

0.LAST GIG

 ステージの上で「ありがとう」と一言だけ残して、五人組ヴィジュアル系ロックバンドPoisson d'avrilポワソン・ダブリルは解散した。


 ホールを出ると、雨が降っていた。世界が泣いているみたいだ、って歌っていたな、好きだったな、って、全部過去形になってしまうのが悲しかった。

 出逢いは中学二年の頃だった。眠れない夜になんとなくテレビをつけたら、当時の新曲である「brick」を演奏していた。

 衝撃、なんてもんじゃなかった。人生が人生になった瞬間、なんて大げさだろうけど、間違いなく、俺の人生を決定づけた映像だった。

 rinの印象的なギターリフ、mayaの艶のあるヴォーカル。華やかなyuuのキーボード。ベースという楽器を初めて意識したのはこのバンドで、fanが弾いていたからだし、kiritaがドラムを叩く姿に憧れた。

 思い思いに染めていた髪は当時やっていたRPGのキャラみたいで現実だとは思えなかったし、男が化粧してもいいんだ、って思った。

 何より、カッコよかった。

 次の日の放課後、あわてて近所のCDショップで「brick」のシングルを買って、本当は置いてあるCD全種類欲しかったんだけどお金がなくて、結局別の店でレンタルして繰り返し聴いた。

 Poisson d'avrilの音楽が、見た目が、全部が好きだった。ヴィジュアル系、っていう言葉はなんとなく知っていたけど、特に意識したことはなかった。「そんな女々しいバンド聴いてんの」と言われて友達とケンカもした。そいつとは縁を切った。

 それから半年ぐらい経って、初めて生でPoisson d'avrilのライブを観た。テレビで、PCで観るよりも全然カッコよかった。圧倒された。あとから、昔、歌謡曲の時代は、アイドルのコンサートで卒倒するファンがいた、っていう話を聞いて納得した。

 中学を卒業して、高校、就職してからも、ずっとPoisson d'avrilばかり聴いていたし、観に行った。他のバンドやアーティストを聴いたりすることもあったけど、必ずPoisson d'avrilに帰ってきた。

 だから、解散する、と聴いたときには呆然とした。

 冗談だろ、って思った。バンド名の由来であるエイプリルフール、に解散すると言い出して、いやこれはバンド側の冗談だ、って信じようとした。

 最後まで、ライブ会場には半信半疑で入った。普段やらないような初期の代表曲とかもやっていて、これはもしかしたら本当に解散するのかも、いや、解散するんだ、って確信に変わっていった。

 涙が勝手に出て、乾いた。「ありがとう」、なんて、そんなことを言うキャラじゃないだろう。客電が点いて、最初は悲鳴みたいだった客の声も諦めたように落ち着いていった。最後まで声を上げていたのは、俺と、もうひとりだけだった。

 警備員に半ば追い出されるように会場を出た。

自分の人生の、だいたい半分ぐらいを捧げて、ほとんど半身といえるぐらいのバンドが、解散してしまった。

 まだ、呆然としていた。だから、目の前に黒いのが現れて、自分に何かを言っていたとしても、気づけなかった。

 いま思えば、あれは死神だったのかもしれない。

 ぼうっとしたままそいつを無視して歩いた俺は、蓋の開いたマンホールに落ちて死んだ。

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