第3話 鍵
家に帰ってからも、頭の中は手紙の事でいっぱいだった。
食事をしていても、好きなバラエティを見ていても卯月の影がちらついた。
ネットで5年前の記事を探した。
新聞やニュース番組のログがヒットした。
そしてそのどれもが卯月の事故を、普遍的な、不運な事故として処理するのみだった。
「………まぁ、そうだよなぁ」
昨日までは俺だってそう思っていた。
今だって俺以外はそう思っているだろう。
それに、事故じゃないという証拠が出た訳じゃない。
卯月がそんな事をするとは思えないが、卯月の悪ふざけだった可能性も無いとは言い切れない。
悪ふざけで遺書を書いたら、それが本当になってしまったとか。
「……それは無いか」
悪ふざけで書く遺書にしては文面が特殊な気がする。
いや、遺書に詳しい訳じゃないから何とも言えないのだが、『悪ふざけ』の一言で片付けてはいけないような気がするのだ。
返して欲しいの一文や、鍵についてだってそうだ。
「……鍵………!!」
そうだ。鍵だ。
金色の鍵の方はともかくとして、もう1本の銀色の鍵。
「確か、ロッカーの鍵って書いてあったよな」
『よく知るロッカーの鍵』、『本当の事が知りたくなったら開けてほしい』、か。
この鍵の先に、本当の事を知る術があるのだろう。
「本当の事……………」
やっぱり何かあるんだ。
卯月はここまで予見していたのだろうか。
自らの死が何者かの故意によって引き起こされる事、それを不慮の事故として処理される事、そして、
…それは誰にも相談できない事だったのだろう。
だからこうして遺すしかなかった。
自身の死の直後には見つからないように隠し、そこに真相への手がかりを残した。そして事態が風化した後に俺へと届くように、
俺へ宛てられた事にも意味があったのかもしれない。
信頼できる友人や、大切な家族ではなく、恋人である事を除いても、俺へ宛てられた理由があるのかもしれない。
「………なら、俺がやるしかないだろ…!!」
突き止めてやる。
5年前に守れなかったものを、
5年前には知り得なかったものを、
5年間経った今だからこそ、掴めるのかもしれない。
机の引き出しから古いレザーのネックレスを取り出し、そのチャーム部分を金色の鍵と取り替え、首から下げた。
「………待ってろよ…俺が全部暴いてやる……!」
「ライラ。反応があったというのは本当か」
その部屋は、壁1面を多い尽くすように何枚ものモニターが並べられていた。
男は部屋に入るなり、モニターの前に座る少女に問いかけた。
「……はい」
男の問いに、少女は弱々しく答える。そして、弱々しく続ける。
「…反応は、ありました。でもまだ励起状態にないようで、とても微弱で、位置を判別するところまでは………」
「そうか……」
男は表情を変えないが、どこか少し残念なようだ。
「…その、方角くらいなら……恐らくで良ければ…」
「それでいい。教えてくれ」
「…多分……ここから、北西方向……距離はそう遠くないかと……」
少女はそう言って、モニターに写されたマップを指差した。広角で表示されるマップにおおよその範囲を示したとされる赤い円が表示されている。その円の端あたりにある「とある街の名前」を見て、男は微かに口の端をつり上げたかのように見えた。
「よくやったライラ。充分だ。やはりお前は優秀だよ」
男は少女の小さな頭をその手で撫でた。褒められるような成果ではないと思っていた少女は、不思議そうにしている。
「場所の見当はついている。全員を召集して伝えてくれ。
『バエル』はすぐそこだ、とな」
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