第4章 魔王やら巨大モンスターやらで西も東も大混乱……? 『トウキョウ』編!

第93話 『オオイタ』からの帰還

 およそ一週間の観光を終えた俺たちは行きと同様にワンさんの加護ギフトを使うことで、『ウツノミヤ』まで送ってもらえることになった。

 帰り際、ワンさんに「まさか、殺人ギルドが『オオイタ』の、中にあるとは思いません、でした。成敗、ありがとうございました」と妙に癖のある日本語でそう感謝を表したが、あまりその表情は笑っているようには思えなかった。

 まあ、素直に感謝できない気持ちも分かる。俺がクレハに放った最後の一撃で街を壊しちゃったわけだけど、どうやら、ワンさんの家がその被害範囲に入っていたらしい。

 すぐに家自体は魔法で元に戻ったが、細部まで完全に修理ができていないのだそうだ。

 俺たちは『オオイタ』救ったとかなんとか言われてるけど、自責の念がハンパないです。


 俺が肩からお土産の詰まった大きなバッグを背負うと、ミリアは出発の指揮をとった。


「帰るわよ。あんたたち! 忘れ物とかないでしょうね?」

「無いと思うぞ。それより俺はミリアが心配だ。だってお前何にも持ってないだろ?」

「よくぞ聞いてくれたわね! 私は大丈夫なのよ! だって私の加護ギフトは【固有空間マイルーム】! 旅行の荷物は全てそこに閉まっているわ!!」

「はあ!? 何それ、ずるくない!? 俺の荷物も一緒に仕舞ってくれよ…………」


 ミリアは鼻を高くし、自身の加護ギフトの利便性を誇示する。

 ミリアの加護ギフト、【固有空間】は【召喚サモン】のおまけで固有加護であると聞いていたが、おまけどころかそれ単体でも相当に便利な加護ギフトみたいだ。四次元ポケットじゃんそれ。

 俺は、ふとクレハとアイリをみると、どうやら彼女たちもあまり荷物を持っていないことに気付く。

 彼女たちも一応俺と一緒にお土産とか買ってたし、女の子の方が旅行で荷物が多くなるのは世の常の気がするんだけど、今、俺の経験の真逆の現象が起きている。まさか……


「ミリア、もしかして俺以外のみんなの荷物は仕舞ってあげてたりする?」

「まあ、そういうこともあるわよね。気にしないで転移しましょ」

「なにそのスルー!!? なんで俺だけダメなんだよ!」


 俺のツッコミが彼女に届いたと思った途端に俺たちの体が光で包まれる。

『ウツノミヤ』から『オオイタ』へと転移した時と同じ感覚だ。

 光に包まれる中、クレハはわざとらしく俺の左腕に抱きついて胸を押し付けてくる。

 それを見たミリアは少しムッとした顔になって「絶対荷物持ってあげないんだからねっ」と舌を出した。


 *


 強い光が収束し、俺はゆっくりと目を開ける。

 どうやら、行きに使った地下温泉についたらしい。

 全体的に薄暗く、足を踏みしめると砂利が音を立てた。

 狭い石階段を上って行くと、前方に光が差し込んでくる。

 更に進み、俺たちは……ついに地上へと到達した。

 木造の建物の茶色く暖かい内装がなんとも落ち着く。

 ガラガラと出口の扉を開くとよく見知った、スーツ姿の男……フクダさんと他、何名かが俺たちの帰りを歓迎した。


「おかえりなさい、タケルくん。『オオイタ』の旅行はどうだったかな?」

「はい。随分と満喫させていただきました。フクダさんの言う通り、向こうのとり天は絶品でしたね。なんかもう食べてばっかりでした」

「そうだろう、そうだろう。……っと、どうして私は他のギルドのことを誇らしげに語っているのだろうね。私は『ウツノミヤ』のギルド長だというのに」

「あはは……そうですね」


 苦笑いで俺はそう返す。

 フクダさんの気持ちはおれもよく分かる。感覚としては、美味しいお店を見つけて他人に自慢したくなる心理に近いものだろう。俺も元の世界に戻って、オススメの観光地を聞かれたら、九州の方を薦めてしまうかもしれない。

 俺とフクダさんの話が途切れたところで、ミリアは一歩前に出る。


「フクダ、ちょっといいかしら?」

「なんだね。ミリアくんもお気に入りにお店を見つけたのかい?」

「違うわよ! あんたたちは全く食い意地ばっかりね! 『ウツノミヤ』について聞きたいのよ。あんたのとこの国、最近何かなかった? 大事件というか……いえ、事件というよりもっとおめでたいことよ」

「おめでたいことなら……そうだね、無かったと言えば嘘になるだろう。しかし、それはミリアくんたちにとって良いことになるか定かではなくてだね」

「そう、分かったわ。とりあえず『トウキョウ』に連れ去られた人達が戻ってきたようで良かったじゃない。それは間違いなく良いことよ。素直に喜びなさい」

「っ!? ミリアくん……知っていたのか」


 フクダさんは目を丸くして、ミリアを見た。

 俺も正直今の話のどこらへんから『トウキョウ』のワードに繋がったのか分かってない。

 俺が説明を彼女に乞うと、呆れたように答えた。


「簡単なことよ。魔法少女は『ウツノミヤ』の方は任せろと言ってたわね。では、どうすれば『ウツノミヤ』が『トウキョウ』と戦うことをやめてくれるのかを考えなさい。そうすれば自ずと答えは見えてくる」

「『ウツノミヤ』が『トウキョウ』に敵対する理由…………ああ、それで連れてかれた兵士たちが戻って来れば、ということになるんだな」

「その通りよ。タケルも中々頭が回るじゃない」

「いや、ミリアがヒントを出してくれたからだって。俺はそもそもそのことについて考えようとも思わなかった。ミリアがすごいよ」


 俺がそう言って、彼女を褒めると頬を少し赤くしてそっぽを向く。ミリアは自分で自慢げにすることが多いけど、褒められるとそれなりにこっぱずかしくなるらしい。めんどくさい性格してるなぁと思った。

 俺は確かに頭が回る方なのかもしれないが、それだけだ。お題が与えられれば考えられる。でも、世の中の大半がそう言ったことは出来るものだと思う。本当にすごいのは思考対象を自分で見つけて来れるミリアのような人間だろう。

 俺とミリアの会話を聞いてフクダさんは顎を触り何か納得したような様子だ。


「魔法少女……なるほど。君たちは魔法少女リリに向こうで遭遇したのだね。遭遇という言い方は少し失礼かもしれないが。そして指名手配中のミリアくんが、彼女に出会ったのにも関わらず生きてここにいるのであれば、こちらも自ずと答えは見えてくる」

「察しが良くて助かるわ。そう、私達は『トウキョウ』の仲間になった。仲間になる時にここのギルドの話をして、今に至るわ」

「それは……ミリアくんには感謝しても仕切れない。『ウツノミヤ』の国長として、最大級の感謝の意を捧げよう。もちろん、ほかに望むことがあるならば、それも出来る限り叶えさせてもらう」


 そう言って、フクダさんは深々と頭を下げる。

 上辺だけの感謝などではなく、心からの感謝をしているように俺は感じた。

 まあ、ギルドの主戦力が帰ってくるというのはそれだけのビックニュースなんだろう。


「借りを作れたと思っておくわ。兵士たちが戻ってきて、今頃飲んで食べてのお祭り騒ぎってところかしら。あんたも体に気をつけなさいよね。そこまで若くないんだろうし」

「お気遣い痛み入るよ。その通りだ。『ウツノミヤ』はここ最近イベント続きで少し怖くなるよ。十数年分の幸せを一週間に濃縮して体験しているようだ。それもこれもミリアくん達のおかげだがね」


 そうして、俺たちは無事に再開を果たし、一度『ウツノミヤ』に行こうという話になった。

 ミリアはこう言ったお祭りごとが大好きだし、すぐにでも参加したいらしい。

 あいつは『オオイタ』でも食べて飲んで寝て温泉入ってを繰り返してたし、絶対太ってる。

 失礼すぎて言えないし、言ったとして宝具ぶっぱなされそうだから言わないけどね。ミリアは俺の加護ギフトを知ってるから、ツッコミの加減をしなくていいことを知っているのだ。

 フクダさんが持ってきて来れた馬車に乗り、彼のギルド……いや国まで向かう。

 一週間しか離れていないというのに、密度の濃い時間を過ごしたからか、どこか懐かしい感覚を覚えた。

 国に入ってしばらくすると馬車が止まる。俺たちがそれから降りた際、フクダさんは思い出したかのように口を開く。


「そうだ、1つ話忘れていた。ミリアくんがもう『トウキョウ』と敵対していないと言うから問題はないだろうが一応話しておこう」

「もしかして、国に『トウキョウ』の人が来てるんですか?」

「その通りだ。彼もお祭りごとが好きなようでね。流れで参加している。相当な酒豪のようでね、国のお酒がなくならないか心配だよ」


 フクダさんは冗談交じりに笑いながらそう言った。

 あまり笑うことのない人の印象があったが、『ニッコウ』の救出、連れ去られた兵士の帰還と肩の荷が降りているのだろうか。なんだかこちらまで嬉しくなる。


 お祭りの会場へと向かうミリア様一行。

 もう何を話してるのか分からない奇声に近い複数人の声が重なり響くその中で、一際目立つ一角があることに気付く。

 そこの中心には青い髪で大きな斧を携えた、およそ人間のように見えない巨大な体躯の……


「フジミヤゴウケン……!?」

「…………お父様っ!?」


 俺とアイリは共に驚きを隠せない。

 何十本の酒瓶に囲まれた巨人は、俺たちを見つけると憂らしげな表情を浮かべるのであった。

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