第78話 不可侵の輝剣

 リリと観光を済ました後、俺はクレハ、アイリと順番に観光を続けた。

『オオイタ』に来たんだから温泉まんじゅうを食べようという話になるわけで、俺は何故か三回も饅頭屋に行くことになるのだった。

 唯一救いだったのは、饅頭屋さんがこのメインストリートだけでも相当な数あって、3人とも違うお店に入りたいと言ってくれたことだ。

 結局、三店舗並列していた、饅頭屋行列を制覇することができたので、個人的には満足度の高い観光になったような気がする。

 クレハが「あーんして!」と言いながらナイフで饅頭を刺し、俺の口に突っ込もうとした時には肝を冷やしたが、概ね満足だ。

 そういえば俺の【世界の加護ギフト】は口の中にまでしっかり効果があったんだと思い出すのだった。


 ミリアが『時渡り』を始めておよそ6時間。

 時刻は既に2時になっていた。

 予定だとそろそろ戻ってくるはずなんだけど、ミリアはまだ起きてこない。

 おそらく1番彼女の帰還を待ち望んでいるクレハは我慢しきれず、声を漏らす。


「ミリア…………まさか死んでたりしないよね……?」

「死んでは無いだろ。今頃過去の旅を満喫してると思うぞ」


 そうは言って見たものの、先程からリリが頬をつついても、脇腹をくすぐってみても全く反応がない。

 魂が過去に行ってるんだから、そんなことして起きるわけないんだけど、全く反応がないのは少し不気味さを感じる。

 俺も少しいたずらするかと、ミリアへのおみあげとして買っておいた温泉まんじゅうを彼女の口元に近づける。

 すると、それが原因か、横たわるミリアを中心に青い魔法陣がブワッと広く展開された。


「うわっ! 急になんだ!?」

「ミリアが戻ってくるのかも! タケルくん離れて!」

「お、おう!」


 俺がその場を離れようとした瞬間、その瞬間を見計らったかのように急にミリアの体は状態を起こす。

 まだ彼女から距離の置けてなかった俺の鼻っ面に、彼女の頭突きがクリーンヒットした。


 あまり痛くないが、俺は自分の鼻をさすりながら、動き出す彼女を見守る。

 上体が起こされてから少しして、彼女の瞼がゆっくりと開かれた。

 瞼が開かれるのと連動し、周囲に広がった魔法陣は収束していく。


「………………ただいま。今戻ったわ」


『時渡り』をする前の彼女と同じ少し鋭い声音でそう言った。


 地面に座っている彼女に手を差し伸べると、彼女はその手を取って立ち上がる。心なしか、彼女の表情が以前より良くなっている気がする。

 俺が最初に彼女に出会った時と同じ、自信に満ち溢れた金髪碧眼お嬢様だ。

 お嬢様は、周りを見渡し、リリを見る。


「魔法少女リリ、準備はいいかしら? 私の力を試しなさい」

「起きてすぐでいいの? 少し休憩してからでもいいんだよ?」

「何を言ってるのよ。私はもう一週間も休みを頂いてるの…………今は溜まりきった自分の力を出しきりたくて、ウズウズしてるわ」

「………………分かったの」


 リリは、声のトーンを落としてミリアの要求に応える。

 急に塩らしい彼女の態度に、少し疑問を抱く。

 いつもなら少し馬鹿にしたような無邪気な対応をしていただろうに。


「タケルくん、今のミリア……凄いね。あれなら最強の魔法少女にも勝てちゃったりして」

「マジか。俺にはどこらへんが変わったのか分からないんだが」

「だってタケルくんは魔力を感じないんでしょ? だったら分からないよ。私、初めてミリアが怖いって思っちゃった」

「アイリも、ミリアの変化に気付いてるのか?」

「は、はい。もちろんですわ。感覚を強化しなくてもしっかりミリアさんの魔力の膨らみが感じられますの」


 女性陣2人の表情が少し強ばっている。

 魔力の膨らみ……確か真実を導く光玉リア・ファル使った時には彼女から若干魔力的なものを俺も感じる時があったけど、それに近い状態にミリアはなっているんだと思う。

 常時真実を導く光玉リア・ファル状態って感じか。それはすごい。


 リリは目の前に扉を作り出すと、ノックし、その扉を開ける。

 以前、俺を転移させた時と一緒だ。


 ミリアがまず、扉をくぐり、俺たちもそれに続いた。


 *


 白い光が俺たちの視界を一度埋め尽くす。

 そうして、扉をくぐった先に広がるのは広い、広い草原であった。

 前に彼女に転移してもらったシロツメグサの草原ではない。

 一面緑色の広がるその場所に俺たちはポツンと立たされる。

 リリの転移が最後に終わったところで、リリは扉を消す。


「始めようなの、剣の人。準備は出来てるんだよね」

「もちろんよ。それと…………私を剣の人と呼ぶのはやめて頂戴。私はミリア」

「呼ぶのはリリがあなたを認めてからなの」


 ミリアはリリに一歩詰め威圧、リリは逆に挑発をしてニヤリと笑う。

 ピリピリとした俺は2人の気迫に気圧され、俺は思わず後ずさりをしていた。


「おにーちゃんたちは下がっててなの。あそこの木の影に隠れてて」

「お、おう」


 俺はリリに言われるままクレハたちを連れて木の影まで走る。

 走る途中で、俺はあることを思い出し、振り返る。

 そして、手に提げた袋から、茶色い饅頭をミリアに投げる。


「お土産の饅頭! お腹空いてるだろ! それくらい食っとけ!」

「……ありがとう、タケル。これで戦えるわ……!」


 気持ちいい食べっぷりで、大きめの饅頭にかぶりつくと、ミリアは自信に満ち溢れた表情で格上の相手へ向き合う。


「行くわよ、魔法少女…………3度目の正直よ」

「2度あることは3度ある、なの。サクッと倒しちゃうからかかってこいなの」


 2人はその後距離を取る。

 そして、ミリアは手で空を切り、自身の加護【固有空間】へのアクセスをするための裂け目を作った。


「【召喚サモン】…………!」


 彼女はそう叫び、空間の裂け目から2つの輝く剣を召喚する。

 瓜二つのそれらの剣を両手に持つと、リリの表情が一瞬引きつったのが分かった。


不可避の輝剣クラウ・ソラス…………不可侵の輝剣クラウ・ソラス・アナザー!」


 彼女の叫びに呼応して、彼女を光の粒子が包んだ。

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