第17話刺しても飽き足らない

同日、別室。


智香は、私服警官に付き添われるように泣いていた。瞳を赤く腫らして、両膝を震わせている彼女――。


「ちょっと席を外してもいいですか?」

「ええ、構わないけど」


私服警官は言った。そのまま智香はリビングを通り、トイレへと駆け込む。しっかりと扉に鍵で施錠して壁へと背を向けた。


「アイツ、死んでくれて良かったわ。ほんと、アイツのせいであたしの人生、滅茶苦茶にされる所だったわ」


智香はゆっくりと携帯電話を取り出した。アイツとの関係を怪しまれないように内容に写真やパソコンのデータを消去出来た。


するとメールが届いた。友達の友里ともりからだった。あたしの指示通り、パソコンのデータを消去してくれたと書かれていた。


すると電話が鳴り響いた。


「それで処分できたの?」

「……写真はね。ただパソコンが問題かな?パソコンって削除しても復元出来るって言うでしょう」


智香は考える。


「それ、聞いた事あるわ」

「だから、佐々木が持って帰って処分する事になったの。それより、大丈夫なの?警察が周辺をウロウロしてたよ。聞き込みとかしてた」


「…ごめんね、友里。

こっちは大丈夫だから、心配しないでね」


すると友里ともりは言葉を続けた。


「他は大丈夫、だよね。携帯のSDカードは処分したし、メールも全て削除したし……あとは……」


すると智香は閃いた。


「あれは…どうかな?ほら、同窓会の写真!あの写真さ、あたしとアイツが映っているんだよね。大丈夫だと思うけど……」


すると、友里の声が小さくなる。


「同窓会の写真か!あれ、幹事の山口が、SNSにアップするとか言ってたじゃんか!そこにアイツ映ってるよ……」


智香はうなだれるように、乱暴に髪を振り上げる。ほんと、死んでも面倒くさいヤツだ。どうして死んでも、あたしを困らせるのだろうか。


何度、刺しても飽き足らない。


「どうしよう。困ったわ」


「あの、智香ともかさん。その正当防衛とかにはならないのですか?」


友里ともりがそう、提案を始める。でも足音が近づいて来て、智香は慌てた様子で電話を切り上げた。ノック音が響く。


「大丈夫?智香ともか


トイレの扉の入り口付近には、少年と制服姿の由香先輩が立っていた。あたしは「大丈夫です」と言うと扉を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る