先生、動画見ましたか?
「ねー、見た? 凄かったらしいよ?」
「うん、見た見た! まじ恐いんだけど」
俺のクラスでは、生徒たちが昨日見た動画の話題で持ちきりになっている。職員室でも、学校の近くで起こった超常現象と、それを記録したネット上の動画が話題になっていた。
「山田先生も、見ましたか? 例の動画。 いやー、恐いですよねー、たまたま誰もいないビルに落ちたからよかったものの、学校に落ちてたら大惨事になるとこでしたね」
「そ、そうですよねー、不幸中の幸いでしたー」
心配そうに話す教頭先生に話をあわせる俺。
数日前、学校近くの廃ビルに巨大な雷が落ちた。ビル全体が燃え上がり破壊された。幸いビルは使われていなかったし、付近にも人がいなかったため、犠牲者は出なかった。
不思議なのは、誰もその落雷を見たものがいなかったことだ。落雷で発生したと思われる火災が一瞬で鎮火したことも不可解だ。
しばらくして、落雷の現場を撮影したと思われる動画がネット上に投稿された。少し斜め上からのアングルで撮影されてるが、俺が知る限り付近に撮影出来そうな高い建物はない。撮影者の正体を特定出来そうな情報も動画には入っていなかった。
固定されたカメラの中央に写し出されているビルに、突然、光の束が突き刺さる。一瞬にしてビルが巨大な火球にすっぽりと包み込まれたかと思うと、まるで蒸発したかのように炎は消える。この間僅か数十秒の短い動画だ。
ビルに落ちた光の束は、雷というにはあまりにも異様だった。人間界で一般的に観測される放電現象としての雷と違って、一直線で太い光だった。
俺は、動画を食い入るように何度も見た。間違いない! これは、エヴァとルシファーがいた、あの廃ビルだ。さらにビルを襲った光の正体は、
動画が拡散されると、大魔王の復活が近いことが世界中に知れ渡たるだろう。アスタロト派、ルシファー派、両陣営の攻防が激しくなり天使たちも黙ってはいないはずだ。せっかく目立たないように進めてきた計画もこれでは水の泡だ。
くそっ、あのドM魔王にお仕置きしてやらねば。
ソフィアは学校を休んでいる。詳細は不明だが、グレヴィリウス家の系列病院に入院しているらしい。あの場所でいったい何があったのか? 動画は誰が何のために投稿したのか? 謎は深まるばかりだ。
ソフィアの病院にお見舞いとして行き事情を聞くか、川本さんを通じてアス様にコンタクトをとるか、はたまた、エヴァと話をする機会を探るか、選択肢はいくつかある。
こんなときは、出来る事を一つづつ実行していく。それが俺の信条だ。
まずは、ソフィアの病院からだ。俺ひとりだけだと警戒される可能性もあるので、後輩の藤堂を連れて行くことにしよう。藤堂は
道すがら、近況について尋ねてみる。
「藤堂、お前最近、川本さんと仲いいみたいだな」
一瞬、動きが止まる藤堂。
「な、な、仲がいいって何で分かるんですかー?」
「この間、芝生広場に一緒に座ってたろ、見たぞ」
「川本先輩は、私の先生になったんです!」
「先生? 何の先生だ?」
思い出し笑いをしてニヤける藤堂、気持ち悪いぞ。
「なんでも相談できる、人生の先生なんです」
「そうなのか? 俺にも相談していいんだぞ」
「あ、間に合ってます」
即答する藤堂。地味に傷つく俺。
そんな、どうでもいいような話をしているとソフィアの入院している病院に着いた。うわっ、デカい! さすが、グレヴィリウス家の病院だけある。ピカピカの近代的な施設で敷地も広い。受付でお見舞いの受付を行う。
「セキュリティのためご本人確認を行います。身分証の提示をお願い致します」
更に警備も厳重なようだ。いくつものセキュリティゲートをくぐり抜けて、ようやく病室へ到着する。ソフィアの病室は個室になっていてしかも広い。廊下にはサイボーグのような警備員が配置されていてちょっと怖い。
「山田先生、藤堂! 来てくれてありがとう」
ソフィアの右肩は大きなギプスで固定されている。幸い、顔色は良さそうだ。ベッド横の椅子に腰かける。
「具合はどうだい? 肩を怪我したのかな?」
「すいません、家で魔法の練習をしていたら、石がぶつかっちゃって、肩の骨を折っちゃいました」
「痛みますか? ソフィア先輩」
心配そうな声で藤堂が尋ねる。
「うん、最初は物凄く痛かったけど、今は大分ましになったよ」
とりあえず、元気そうで安心した。しかし、魔法の練習中にというのは嘘くさい。少し揺さぶってみるか。
「川本さんも、一緒に来ればよかったかな。あ、もしかしてもう来た?」
「……、かすみはもう来てくれました」
返事に少し間があり、わずかだが表情が曇った。やはり何かあったようだ。
「えー、川本先輩来るなら、私も誘ってくれればよかったのにー」
その後、合唱部の友達の話やそれぞれの家の話など無難な話が続いた。
「そう言えば、ソフィア先輩、例の動画見ましたか?」
突然、核心に触れる質問をする藤堂、ナイスアシストだ。
「例の動画って?」
「ほら、学校の近くにあるビルにすっごい大きな雷が落ちたところを撮影したやつですよ! 先輩知らないんですか? ちょー話題になってるんですよ」
ソフィアの表情が更に曇った。
「私、動画とかあんまり見ないから……知らない」
その話題はそれ以上盛り上がることがなく終了し、俺たちは病院を後にした。
「なんだか、元気が無かったですねー、先輩、やっぱり痛かったからかなあ」
藤堂が気付くくらいだから、明らかに様子に変化があったのだろう。ソフィアはあの現場にいたのではないか? 肩の怪我はその時に負ったものではないのか? 俺の感じる疑念は大きくなる一方だ。
次の日、再び川本さんを談話室に呼び出し話をしてみる。
「川本さん、この指を見てもらえるかな?」
「はい?」
パチンと指を鳴らす。さあ出てこいアス様。
「え、何ですか? 何かの手品ですかー?」
なんで? 出てこないの? あのドМ野郎、役に立たねー。
「は、はは、そうなんだよー、文化祭で手品やろうかなーってね」
「もう、せんせー。文化祭はまだまだ先ですよー。おっちょこちょいなんだから」
ならば、作戦変更だ。
「ソフィアさんの、お見舞いに行ったんだけど、川本さんも行ったんだって?」
「そうなんですよ、ソフィアって頑張り屋さんだから無理な練習したみたいで、もー超心配しました」
動揺して……ない。ならば。
「川本さんは、あの動画みた? 雷が落ちるやつ」
「見ましたよー! 何なんですかーアレ? 投稿したの先生だったりして、はは」
完璧だ。本当に知らないと思わせる説得力がある。
やはり、エヴァと一度話をするしかない。名探偵メフィストの苦悩は続く。そういえばあのビルにいた猫、大丈夫だっただろうか? 今度様子を見て来よう。
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