先生が邪魔でした


 どうも、藤堂です。藤堂一花とうどういちかです。私立サイコ学園の一年生です。

 ちなみに合唱部です。

 よく、一花いちかは合唱部に見えないって言われるんですよ。

 自分、髪は短いし、色は黒いから体育会系だよね、って言われちゃいます。

 歌うのは結構好きです。歌を聴くのはもっとすきです。

 

 もちろん、一番好きなのは、ソフィア先輩です。


 あれ? 聞いてないって?

 自分、思ったことすぐ言っちゃうんですよ。


 この間、ソフィア先輩に告白しちゃいました。

 結果は、撃沈です。先輩には好きな人がいるんだそうです。誰かって? 聞くの忘れました。


 泣きながら、その場を逃げ出しちゃいました。ちょー気まずいです。泣いてるところを、先輩の友達にも見られちゃいました。もう、最悪です。


 もちろん、諦めません。前進あるのみです。まずは、恋愛経験豊富な人に相談することにしました。うちの学校で恋愛経験豊富な人といえば、じゃこるんです。あ、「じゃこるん」とは白姫先生のことです。下の名前が、蛇子じゃこだから、自分が勝手に呼んでるだけです。

 なんで、じゃこるんが経験豊富ってわかるのか? 根拠はないです、はい。

 

 さっそく、保健室にやって来ました。ガチャ! ドアを開けて入ってみます。

 

「えっ、藤堂さん!?」


「じゃこるん、相談があります」


 いきなりため口きいちゃいました。じゃこるんの目が点になってます。

 

「あのね、藤堂さん、部屋に入るときはノックしてって言わなかったかしら? あと、いつから私、じゃこるんになったの?」


「てへっ」


「可愛くない」


 じゃこるんに怒られました。

 

「それで、相談ってなに?」


 じゃこるんの向かいの丸椅子に腰かけて、先輩に告白して振られたことを説明しました。ソフィア先輩のことは、わからないようにS先輩としました。

 

「ふんふん、S先輩には好きな人がいるのね。でもS先輩とその好きな人はまだ付き合ってないんでしょ。付き合ってる人とは言わなかったんだから」


「……」


「だから、まだ、可能性があるってことよ」


「てへっ」


「可愛くない」


「じゃこるん、S先輩が私を好きになる魔法ありますか?」


「ない」


「帰ります、さようなら」


 トントン、保健室のドアがノックされました。「はーい」じゃこるんが返事すると、見覚えのある女の子が入って来ました。ソフィア先輩の友達、確か川本さんだったはずです。

 

「あれ? 藤堂さん!?」


 そうだ、先輩に振られて泣いてるところを見られたのでした。うう、記憶を消す魔法を唱えたいです。じゃこるん、教えてください。

 

「あら、二人は知り合いだったの? ちょうど良かったわ」


 いや、ちょうど良くなんかないです。川本さんも困ってますよ。


「さっきね、人を好きにさせる魔法は無いって言ったじゃない、あれね、本当はあるんだよ、ただ、ちょっと副作用があるの」


「ああ、この間言ってた……」


 川本さんは、知っているようです。


「そう、ひとつは効果が一時的であること、もうひとつは、魔法が解けると前より少しだけ嫌いになっちゃうこと、どう微妙でしょ」


 微妙と言うより、だめですね、それ。


「それでね、先生いろいろ調べてみたら、お互いになんとも思っていない相手同士で、同時に魔法を掛け合うと、解けても嫌いにならないことがわかったの」


 うーん、それって必要な魔法ですか? 片想いの相手を振り向かせたいのに、どうでもいい相手同士で好きになるとか、まさにです。


「これを応用すれば、片思いの相手に使える魔法を発見出来るかも知れないわ」


 そうですかね、なんか怪しいのですが。


「せんせー、すごーい!」


 どうしました? 川本先輩? あなた詐欺にあうタイプですね。


「と言うわけで、川本さん、藤堂さん、おめでとう! 二人がモニターに選ばれましたー、ぱちぱちぱち」


 詐欺ですね、典型的な手口です。


「わーい! やったー」


 だめだ、この人。川本先輩はダメな人です。

 

「でも先生、その呪文は確か、魔法力が10,000必要じゃないんですか?」


 川本先輩のつっこみが入りました。しまったと言う顔をするじゃこるん。

 

「そうだったわ。藤堂さんあなた、魔法力はおいくらぐらい?」


「先月、魔法測定で測った時は、7,500でした。足りませんね」

 

「仕方がないわね、一時的に私の魔法力を供給します」


 そこまでして実験したいのですね、じゃこるん。参りました。

 

 魔法力供給のため、自分とじゃこるんが手をつなぎます。魔法をお互いにかけ合う自分と川本先輩も手をつなぎました。これで準備完了だそうです。

 

「アモー、アモー、アウァールス、カーリタース」


 うわわわ! 来てます。じゃこるんの手からビンビン伝わってます。これが魔法力ってやつですか。心なしか頭がぼーっとしていい気持ちです。

 

 さて、改めて川本先輩と向かい合います。ふーむ……、特に変化はないようですが。そういえば手をつないだままでした。……もう少しこのままでいていいですか。いや、じゃこるんは離してください。なんだか嬉しくなってきました。だって、川本先輩と手をつないでるんですよ。邪魔しないで下さい。先輩、ぎゅって握ってもらっていいですか? きゃっ!

 

 もう少し、側に来てほしいです。肩が触れるくらい……恥ずかしくて顔が見れません。

でも、見たい。そおっと先輩の方を向きます、どきっ! 目が合っちゃいました。先輩の顔も真っ赤です。もう、じれったいです。抱きしめてほしいです。ああっ!、いつの間にか先輩の顔が目の前に来てます。

 すごくきれいな瞳、吸い込まれそうです。とうとう鼻が触れました。先輩が鼻の頭をこすりつけてきます。くちびるがほんの少しだけ触れます。

 先輩、ねえ先輩、す……きで……す。

 

「デーシネ、ファータ、デウム!」


 じゃこるんの声です。

 

 突然身体が動かなくなりました。高揚していた気持ちが少しづつ収まっていきます。

 

「あななたち、やりすぎよ」


 まだドキドキしてます。手をつないだまま床に座り込んでしまいました。

 

「でも、実験は大成功だったみたいね」


 じゃこるんは満足げでした。自分たちを実験台にしてひどい話です。それにしても強力な呪文です。これならソフィア先輩も攻略できるかもしれません。

 

「ありがとうございました」


 じゃこるんにお礼を言って保健室を出ました。

 さあ、ソフィア先輩待っててくださいよー、自分頑張りますので! 

 なんだか勇気が湧いてきました。実験に付き合ってくれた川本先輩のおかげです。川本先輩は、じゃこるんに話があるらしく保健室に残っちゃったので、お礼を言いそびれました。

 次、会えたらお礼をいいます。そのうち会えるでしょう。機会があれば……

 

 ――いやです! 絶対にいや。

 

 保健室から少し離れた廊下の柱にもたれ掛かって川本先輩を待つことにしました。

 

 まだ魔法が解けてないのでしょうか? それとも……

 

 

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