第9章 屋根裏の犯罪者(14)
からり。
と襖を開けると、湿気たような臭いに混じって、線香の香りが漂ってきた。
部屋の中は、相変わらず薄暗く、僕は明かりを点けた。
「大きいね…」
東郷正将の仏壇を見て、美凪が独り言のように呟いた。それは僕も、初めてこれを見た時思った事だった。
仏壇に近づき、東郷正将の遺影を手に取る。
白黒の写真の中から、あの厳しい顔が、僕らを睨みつけている。
「…なんだか怖い感じ」
「怖かったよ」
遺影を見ながらそう呟く美凪の後ろから、間髪入れずに奈々が言う。
奈々の言い方は素っ気無く、祖父に対する愛情も尊敬も感じられなかった。
「秋緒。どう、あった?」
「……いや」
どういう訳だか、そこには正将以外の写真が無かった。
音をたてないように、僕は仏壇の奥の方に手を入れる。
掃除を殆どしていないのだろう。手を動かすたびに、白い埃が舞う。
「…あ」
「あったの?」
「……」
菓子の袋の裏から、一枚だけ紙のような物があったのだ。それを引っ張り出して見る―――が。
「なーにこれ?」
「写真だけど……困ったな」
「小さいよ~」
僕と美凪と、奈々の三人が額を寄せ合って、その写真を見つめる。
いかにも昔の、白黒の写真だった。
小さい―――あまりにも小さい写真だ。まるで証明写真のようだと僕は思った。
その中央に、見知らぬ女性―――と言っても四十代くらいだろう―――が写っている。一言で言えば柔和な顔つきだ。だが、きつく結ばれた口元は、優しいだけではなく、この女性が本当は芯の強い人間だと象徴していた。
「誰だろう?」
「……おばあさん…かな?」
「うん…」
そう考えるのが妥当だろう。
「あのさ…」
美凪が僕に囁いた。だが僕も、美凪が言いたい事がわかっていた。
「わかるよ」
「秋緒も、そう思ったの?」
僕は頷く。
「これ……この人って、円香ちゃんに似てるよね?」
「ああ」
そう言って、僕はもう一度写真を見つめる。
小さいものだから、はっきりとはわからない。だが、これは円香の母親だと言われたら、たぶん信じただろう。
雰囲気だけではない。
目元、口元―――顔の全体が、どこか円香に似ていたのだ。
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