第6章 円香と美凪(1)
僕らの食事が終わる頃には、既に半分の人は自室に戻ってしまった後だった。
残っているのは一志と悦子、弘二に彬、文子、奈々、そして江里子と守屋だけだった。
僕はほとんど同時に食べ終わった美凪と部屋を出る事にした。
部屋を出る時、こ馬鹿にしたような目で一志が僕らを見るので僕は一志に軽く会釈だけしてそこから逃げるように飛び出した。
「待って! わたしも…」
部屋を出てすぐ、後ろから円香が追ってきた。
「あの…お父さん達が……ごめんね」
「いや、円香さんが悪い訳じゃ」
「そーだよ。何で円香ちゃんが謝るの?」
俯いてしまった円香に、僕と美凪は慌てて近寄り、そう言った。
僕らがそう言うと、円香はやっと顔を上げた。
「ね、二人共もう寝ちゃうの?」
「え? いやまだだけど…」
美凪が取り出した携帯を覗き見ると、まだ九時過ぎだった。寝るには早い時間だろう。
「ねえ、じゃあお部屋で話さない? 駄目?」
「う…ん。僕は部屋で、ちょっと事件の事について考えたい事があるんだ…」
「あ、あたしも…」
僕と美凪が揃って言うと、円香は今度は淋しそうに俯いた。
「…そうよね…。遊びに来てくれた訳じゃないんだものね」
「あ! じゃあさ~」
美凪が何か思い付いたのか、いきなり大きな声を出し、手をパン! と叩いた。
「じゃあさ、円香ちゃんの部屋で一緒に寝ない?」
「え? わたしと美凪さんが?」
「うん。そうしようよ」
美凪の提案に、円香は嬉しそうに笑って頷いた。
「ぜひそうして! じゃあ、わたしお母さんに頼んで、お布団運んでもらうわ」
「やったね! 後から行くからさ。――で、秋緒も一緒に寝るゥ~?」
にんまりと笑う美凪を、僕は肘で突いた。
「……馬鹿!」
一時間もしたら、部屋に行くと言って僕らと円香はそこでわかれた。
そして僕は、美凪を部屋に入れるとカバンの中からメモ帳を取り出した。
美凪は部屋の中央に座布団を引き寄せると、そこに足を崩した楽な姿勢で座る。僕もメモを片手に美凪の目の前に座った。
美凪に聞きたい事があるからだ。
「で、どうだった?」
「彬君の事?」
「…それ以外に何があるんだよ? 何か聞いてくるって、お前張り切って出掛けたじゃないか」
「それなんだけどさ~」
美凪は崩した足を僕の方に突き出し伸ばしながら、昼頃一緒に出掛けた彬の事を話出した。
美凪は彬の、あの青いスポーツカーに乗って、江ノ島まで出掛けたそうだ。
車の中ではたわいない話をしたらしい。
学校の事。家や家族の事など。主に美凪の事ばかり話したという。
海の近くで車を停めて、カップルや家族連れの人ごみを避けながら、海沿いの道すがら彬がぽつりぽつり自分の事を話し始めた。
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