第61話
ソラノに作ってもらったドラゴンテイルはそのまま工房に持って行って最終強化した。そのあと独りで少しモンスターに試し斬り?殴り?をした。初めて使う為、使い勝手がよくわからなかったので、ヤマトに使い方のコツでも教えてもらおうと連絡しようとすると、すでにログアウト済みだった。俺もある程度明日の準備をした後、急いでログアウトした。
VRゴーグルを外すと真っ暗だった。防音段ボールを外してくれてない……。やっぱご機嫌斜めは継続中か。
意を決して段ボールを外す。
眩しさに目が慣れるまでに少しかかったが、いつものPCデスクには桜が座って、つまらなそうに残りのピザと食べていた。桜は俺と目が合ったが、すぐに逸らしてモニターに目を向けた。なんなの……さっきカレンと居た時はそこそこ機嫌戻ってたでしょ。
「とりあえずモーニングスター作ってきた」
「そう」
こっちも見ずに言う。
「使い方わかんなかったから聞こうと思ったんだけど、ログアウトしてたからびっくりしたんだが」
「ふーん」
桜はそう言ってもう一本あった未開栓のコーラをぷしゅりと開けて飲む。俺は続けた。
「それでログアウトしたんだけど」
「別に私に合わせる必要ないやろ」
「いや、いつもあんたが先にログアウトするなとか言うから」
「……」
桜はやっとこっちを向いた。目は赤眼じゃないおかげで幾分か迫力は落ちる。じっとりと俺を睨んでいる。片手にはピザ。
「じょあたそにモーニングスター作ってもらったなら、そのまま一緒に動画観るとかして練習すればよかったやろ」
「作ってもらったあとは最終強化自分でしたし、そのあとすぐ別れたし」
「じゃあカレンさんとしたらよかったやん。作戦会議もしたんやし、続きすればよかったやん」
「……いつまで機嫌悪いんだよ……」
「別に機嫌は悪くないっ」
そう言って持っていたピザを一気に頬張る。
いや、悪いでしょ。もう何言っても聞いてくれない感じだ。流石に俺もどうしていいかわからない。謝ればいいのか?
「なんか、ごめん」
「なんで謝るとよ」
「なんか怒ってるっぽいし、俺がなんかしたのかなと思って」
「怒ってないし!わかってないなら謝らんでよ」
心当たりがないわけではない、でもその心当たりを言ってもたぶん桜はこんな感じで怒るだろう。はぁ、ていうか俺、なんでこんなに気を遣って喋ってるんだろう。
「すまん……」
だからすまんしか言えなかった。
「だいたい、私がこの環境でやらせてあげなかったらじょあたそともあんなに仲良く話す事なんてなかったのわかっとる?」
「わかってるよ」
「わかってない!」
もう疲れてきた。これ以上気を遣って喋る必要あるか?
「見られなかった雷天黒斧を手にできた事とか、本当のインフィニティの世界を見せてくれたことには感謝してる。でも、それって俺が頼んだことじゃない。勝ちたい気持ちはあったけど、別にこんな風にあんたと言い合いしてまで勝ちたい訳じゃない」
思わず言ってしまった。そして、言って気が付いた。俺が青王杯を勝ちたいと思ってる理由。でもそれ以上に言ってはいけないことを言ってしまった。
「じゃあ、来なきゃいいじゃない。別にこっちも頼んで来てもらってるわけじゃないから」
訂正しようとは思った、でもその前にその言葉を聞いてしまったらこっちも収まりはつかなくなってしまう。どちらも頼んでもない。頭に血が上ってる状態だったらもうそれだけで十分だ。
「わかった……じゃあここに来るのは今日までにする」
言ってしまった。言ってしまったが取り消そうとは何故か思わなかった。
桜はそれを聞いて少し押し黙る。
「信用ない人間が毎日他人の家に上がり込むのもおかしな話だったもんな。今日までありがとう。楽しかったし、いろいろ勉強になった。明日は家で頑張ってみるわ」
「……それだと、明日、勝てないよ」
「かもな」
「そ。なら、さよなら」
桜は俺から目を外して、手を雑に振った。
俺もそれを合図に桜の部屋を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます