第51話

 今日はログアウトすると五分だけしか待たされなかった。五分だけって思うところが王様に調教されちゃってる感あるな……。「お、今日は五分でええんか」って思ったあたりヤバい。

 VRゴーグルを外すと、防音段ボールは外されていた。それはいつもと同じだったが今日は違うところがあった。

 「おかえりなさい」

 目の前に桜が立っていたのだ。

 「お、おう……」

 やっぱり突然のおかえりにはどもってしまう。

 「じょあたそのユニーク武装はなんだったの?」

 「やっぱり」

 「やっぱり!?やっぱりってなんよ」

 桜は頬を膨らませて赤面。お、かわいいぞ

 「いや、あんたの事だからどうせ聞きたがるだろうなと思って」

 桜はコントローラーやらを外す俺をしばらく睨んだ。

 「じゃあもういい!」

 「もういいの?」

 「……」

 悔しそうにしている。お?珍しく俺が上になってるぞ?叛逆だ!

 だが、これからやり取りを楽しもうと思っていたのに、桜はほんとにもういいらしい。残念。PCデスクに座ってしまった。

 「ほんとにもういいのか」

 「うん、いい、性能は見当はついてるし」

 「ほう」

 俺はコントローラーなんかを全部外して所定の位置に置きつつ言う。

 「あれはどう見ても聖剣型、私やあなたみたいな古代兵器型みたいな派手なギミックがあるんじゃなくて、永続的に効果が続いたりするようなモノ」

 「例えば?」

 「切れ味が落ちないとか、永久にデバフを受けないとか?だいたいそういう効果が複数あるかな」

 なんじゃそら、地味に頭おかしいし、仮に切れ味が落ちないとかだったりしたらソラノが持てばまさに鬼に金棒じゃないか。

 「ま、じょあたそが出し惜しみしてくれてよかったね」

 口を尖らせて言ってる。何かご不満らしい。ん?俺に負けて欲しかったの?いや、これは違うな!自分が戦いたかったんだ!!!さすがバトルジャンキー!!

 「……なんよ」

 俺がニヤニヤして見ていると桜が膨れながら返す。

 「いいえ、別に?とりあえずシャワー浴びていいか?汗が相変わらずヤバい」

 そう言うと桜はどうぞという感じで手で脱衣所を示してコーヒーを飲んだ。

 

 

 シャワーを浴び終えると俺は脱衣所で服を着ていた。やはり女の子の家のシャワーを借りるというのはどこかむず痒い。だが、一つ気になることがあった。

 洗濯物が籠に溜まっている。こいつまとめて洗うつもりなんだろうか……。四日分くらい溜まっている気がする。つーか、洗濯機どこだよ。

 俺は籠を持って脱衣所を出た。

 「おい、洗濯機どこ?」

 「……」

 桜はマグカップを持ったまま固まって俺を凝視していた。まぁ洗濯物が溜まってるとこなんて恥ずかしいよな。

 「なんしよると……」

 「洗濯しようかと……」

 「余計なことせんでいいと!!!!」

 桜は乱暴にマグカップを置き、籠を奪おうとしてくる。

 「洗濯物溜めすぎなんだよ!!俺が洗濯してやる!!」

 「いいの!もうちょっと溜めたら洗おうと思ってたんやから!!」

 「もうちょっと溜める気だったのかよ!!汚え!!!」

 ダメだこの金持ち!

 「汚いってなんよ!!」

 桜は赤面しつつ籠を無理矢理掴む。

 「汚いのは汚い!!ていうか、いつも着てるタイツどうしてんだよあれ洗えるようになってるだろ!」

 「そんなもんスプレーでシュッシュやろ!!」

 そんなもん俺に着せてたのかこいつ!!!

 「きたね!!!きったねぇ!!!お前のタイツも出せ!!一緒に洗う!」

 「よかって言いよろうが!!!ていうかお前ってなんね!!桜たい!!!」

 もう方言すごい。女子が言ったらかわいい方言ランキング上位の博多弁も実態はこんなもんですよ……。ていうか力つよ……。そんなに引っ張ったら零れる!!!

 「ああ……」

 そんなこんな格闘していると、桜が籠を奪ったが、バランスを崩して籠を盛大にひっくり返した。おかげで制服のブラウスやらスカートやらなんやらが床に落ちる。

 「……」

 桜は黙って床を見ている。

 「まったく」

 俺が母親みたいに言って一つ一つ拾っていくと、桜が急に加速して何かをいくつか拾っていった。びっくりしたー。まだゲームの中かと思ったわ

 見るとそれを必死に腕の中に抱いている。

 「それも洗濯物だろ出せよ」

 「いいから!私が洗うからもう帰って!」

 「いやいや、いつ洗うんだよ」

 「大会終わったら洗うから!」

 ダメだこいつ早くなんとかしないと。

 「じゃあ、その持ってるの以外洗うから、洗濯機どこ」

 「……」

 なんだよその人形を必死に抱える幼女みたいな仕草は。ちょっとかわいいだろ、身体は幼女じゃないけど。

 「ほら、どこだよ。干せるならとりあえず洗濯機回すだけで帰るから」

 このくらい金持ちでいい家具持ってる家なら浴室乾燥とか洗濯機に乾燥機能くらいついてるだろう。とりあえずこいつに洗う最初の第一歩を出させたい。タイツにずっと除菌スプレーだけとか絶対許せん。

 「一階……」

 桜はほんとにさっきとは打って変わって小声で言った。何が恥ずかしいんだか。

 「一階ね」

 俺はそう言って籠を持って部屋を出るとエレベーターを呼び出す。

 するととぼとぼと桜もついてきた。

 エレベーターに乗って一階に降りるとすぐ斜め前に一階の脱衣所があった。ここが家族で使われていたんだろう。灯りを点けるとほとんど新品の様なドラム式洗濯機があった。ほんとに使ってんのか?こいつ。

 俺が洗濯物を入れてポチポチと操作していると桜が乱暴に何かを洗濯機に叩き込んだ。

 ん?

 見ると色とりどりの下着が入っていた。あー、なるほどね。

 「見るな!変態!」

 この王様は……せっかく洗濯してやってんのに……。これが母の気持ちなのかしら……いや、専業主夫やってる父の気持ち?

 「んじゃ、乾燥機ついてるし、終わったら取り出して畳んどけよ」

 最新式の洗濯機だし、縮んだりもしないだろ。最近では自動で畳んでくれる洗濯機って言うのもあるらしいしそれ買えばよかったんじゃないのか?滅茶苦茶高いけど。

 「はぁ……」

 桜はめんどくさそうに溜息を吐きつつ頷いた。

 「じゃあ、俺はこれで帰るから」

 そう言って俺は玄関へ向かう。チラリとリビングを見たが電気も点いておらず、無駄に広いせいで殺風景だった。

 靴を履くと玄関のドアに手をかけた。

 「ありがとう」

 桜はぽしょりと言った。

 「いえいえ、このくらいはどうもないから。明日はインする前に掃除するからな」

 「しなくていい!」

 「それは言うこと聞きません。王様」

 「あなたまた王様って……!」

 「じゃな!」

 そう言って俺は玄関を飛び出した。

 

 

 

 

 

 


 

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