第18話 過去との繋がりから


「別に関係ないじゃん、溝呂木さんには。第一、溝呂木さんは俺にとって何者でもないから」



自分で自分を殴りたくなる。でも、このときばかりは仕方ない。心境的には自暴自棄だったから。



「なっ........何言うとんの?うちら、友達でもないんか?」



「あぁ、そうなんじゃねえの?」



最悪な野郎だ、こいつは。

まぁ俺なんだがな、その最悪な野郎は。



溝呂木さんは何も言わず立っている。



俺はふて腐れた不良少年のように、そっぽを向いていた。



すると、




右頬に今まで感じたことのない痛みを感じた。



「........っっつ、痛ってえな!」



「............アホなんか?村上君は!こんなに大事にうちは想ってるのに、それでもあくまでも赤の他人なんか?」




俺はどうやらビンタを食らったらしい。



初めてだ。顔を殴られるのは。

そして、異性がこんなに俺に怒っているのは。



「別にそういうことじゃねぇし」




「じゃあ、どういうこと?」



溝呂木さんは涙を浮かべ、俯き加減で問いただす。




「俺だって........、俺だってあいつのこと、忘れらねぇんだよ!好きな人がいなくなったら、どうすればいいんだよ!」



俺は声を更に荒らげる。



「もう、何にもしたくないんだって!あいつが........いなきゃ、............何もできないよ........」



いつの間にか、目からは大粒の涙が頬を伝っていた。嗚咽さえ出てきて、まるでいじめられた少年のように泣いた。



それを見ていた溝呂木さんは俺を優しく包み込んでくれた。



純粋に暖かった。




「そんなん、1人で抱え込むことないやん。

一緒に考えてこ?そういうのができるのは友達だからだよ?」



優しく呟く。俺には凄く心地よく、悲しい気持ちが少し、ほんの少しだけ薄れたような気がした。




「じゃあ、話をきいてくれるか?」



「うん、ええよ」




それから、公園のベンチで今までの未来とのことをほぼ全て話した。



何故、かって?




それは、流石に初体験の夜は言えなかったから........。



そんなことより、溝呂木さんはどの話をしても「うんうん」と相槌を打ち、感極まっているときは一緒に泣いてくれた。



別に泣いとらんよ、目から汗が出たんや!と強がってたが、俺以上に泣いてくれた。




俺はこんなに想ってくれる友達がいることに感謝した。




俺の話が終わったあとに、溝呂木さんも未來との話をしてくれた。



「うちね、未来とは高2で出会ったんよ。向こうは修学旅行中で、うちはたまたま家の用事で学校が休みだったんだ」



へぇー、そうなのか。



「そんでな、うちの家が神社やから、巫女さんの仕事を手伝わされて........」



その言葉を聞いて俺は、修学旅行中に抜け出した先の神社で会った巫女さんのことを思い出す。



「そのときに息を切らした未來と会った」



「なんで、息を切らしてたんだ?」



「彼氏を探していたんよ」




俺のこと?



あっ、そう言えばあの日、本当は会う予定だったにも関わらず、班のメンバーに邪魔されて........。



そうか、あのときか。



思い出すと同時に、1つの疑念が浮かぶ。



(あのとき、俺が会ったのも巫女さんだよな........)



そんな疑念を他所に話が続く。



「んで、勿論うちもずっと外にいたわけではないから、知らなかった」



「そしたら、急に「もしかして、高校生?」

って脈絡もなく聞いてきて、「そうですけど........」って言ったら、「えっ!嘘!めっちゃ、可愛いんですけどぉー!」って、............」



その後も、未来との話は終わりを尽きなかった。その時、色々話をして一緒の趣味を持っていたりして、意気投合し、お互いに3連休を利用して会いに行っていたらしい。



いつの日か、親友へと発展していった。

友達のなり方としては、理想像みたいな成り立ち。



こういうのが本当の友達って言うんだろうな。上辺だけじゃなくて、本当に心の底から友達って言える関係。



俺はそれだけの愛が、あいつにあっただろうか。仮にあったとしても、伝わっていただろうか。



「ん?大丈夫?考えこんどるけど....」



心配そうにこちらを見ている。



「うん、大丈夫」



「何か悲しくなったら、何でも言ってええからね」



........それにしても、この雰囲気。あの神社で話したときと似てるんだよな。



俺の思い過しか?



溝呂木さんが思い出したように話した。



「あっ、そう言えばその後に、男の子も来たんよ。多分、同じ学校やと思うんやけど....」



えっ........?



「名前は覚えてへんけど、確か「雲外蒼天」の話をした」




走馬灯のようにあの日の事を思い出した。



巫女さんと彼女との待ち合わせに間に合わなかったことを、半ば愚痴るように話したときに言っていた。



「えっと、どういう話かって言うと....」



「雨なんか降ってても、その先はいつも青空だから、きっとその後に幸運が訪れますよ。だから、今は辛抱やで....か?」




「えっ?........なんで、その話知ってるの?」




やっぱりそうか。



あの巫女さんは溝呂木さんだったのか。



「あのときの男子高校生は、俺だよ」



「えっ?嘘....。こんなことって、現実にあるんやね....」



と、心底驚いているように見えた。そして、彼女は呟く。



「未来と村上君、おんなじ行動してたんやね。これって、運命的なもんなんかな?」



「................かもな」





運命って、起きてほしいと願うが実際にはリアルタイムでは分からない。後で振り返って見ると、あぁ運命なんだと分かる。



ある意味、雲外蒼天を体現しているのかもしれない。



過去の繋がりから、やっと1つの線になった。そんな印象を受ける。



気づけば朝日が夕日に変わっている。



「あっ、もうこんな時間!バイト、行かんと」



「今日は本当にありがとう」




「ええよ!また、なんかあったら、いつでも聞くよ」



そう言い残し、夕日に向かって走っていった。



その時に彼女の顔が夕日に照らされて、とても美しく見えた。




屈託のない笑顔が未来と重なり、そしてまるで恋に落ちたように、茫然と立ち、心臓の鼓動だけがとてつもない速さで、動いていた。

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