バレンタイン特別編(19話)

「んっ・・・」

とある休日の昼下がり、僕はついうたた寝をしてしまった。

(それにしてもなんだか暗いな)

それになんだか家よりも空間を広く感じる。少しだけ不安を覚えていると、突如スポットライトに照らされ1人の女性が現れた。

「さあ!ついに始まりました!バレンタインバトル!」

「って、東さん!?」

あのイベントごとになるとやけにテンションが上がるので、察しはついていたが・・・

「状況が飲み込めないアキくんのために説明しましょう!」

(これは話聞いてなさそうだな・・・)

さっきから手元の紙のようなもをチラチラと見ているし、恐らくそうだろう。

「2月14日は何の日だーー!」

「「「バレンタインデー!!!」」」

「誰だ今の!?」

どこからか声が聞こえたように、今日、2月14日はバレンタインデーだ。

「というわけで、アキくんには審査員になってもらって、参加者のチョコをジャッジしてもらいます」

もちろん「というわけで」にはツッコミを入れさせてもらえずそのまま話が進むことに・・・

「しかもなんと今回の商品が・・・主役番外1本が贈呈されます!」

「今回もう突っ込みませんから・・・」

そんなことはお構い無しに、参加者紹介が始まった。

「エントリーNo.1、絶対なる本妻にして最強の女。その料理センスはいかに!?

白石の入場だあああああああ!!!」

「「「ウオオオオオオオオオオ!!!」」」

白石さんの入場に会場が揺れた。

(よく見たら会場の人たち、白石さんの会社の人だ)

ちょっとした社会への不信感を覚えつつ、紹介は続く。

「エントリーNo.2、やはり最強の姉属性を持つこの人が強いのか!?

ミキの入場だああああああああああ!!!」

「「「ミキ姉さあああああんん!!!」」」

再び会場が揺れた。

(もうやだこの人たち)

「エントリーNo.3、この正統派ヒロインの維持を見せつけるのか!?

雲雀イイイイイイイイイイイ!!!」

「「「女子高生イイイイイイイイイイイ!!!」」」

「・・・・・・・」

「アキくんの顔が・・・まあいいや。

エントリーNo.4、この人がまさかの参加!今大会のダークホース。

峰山ああああああ!!!」

「「「きゃあああああああ!!!」」」

今度は黄色い声援が送られた。

「み、峰山さんまで・・・」

「そして最後、エントリーNo.5、最近出番が減りすぎて、作者が心配している

あきらあああああああ!!!」

「「「・・・・・・・」」」

「そりゃあこれじゃあ出番減るわな!?」

「あきら頑張れーー」

僕が声援を送ると、こちらを見ながら涙を流していた。

「さあ!参加者の入場が終了しました!ではさっそく始めましょう。

バレンタインバトル、スタート!」

合図と共に5人が一斉に調理に取り掛かった。

「それでは、審査員のアキくんに話を聞いてみましょう。誰のチョコが楽しみですか?」

「作ってもらえるなら、誰でも嬉しいんですけど、個人的には峰山さんが気になりますね」

「私も彼が料理しているところは見たことが無いですね」

話がひと段落ついたところで、僕は気になっていたあることを聞いてみた。

「一つ質問なんですけど・・・」

「何ですか?」

「チョコレートって冷蔵庫で冷やすの時間かかりませんか?」

冷やす時間だけで何時間もかかるかもしれないのにどうするのだろうか。

「そこは言わないお約束」

・・・聞いた僕が馬鹿だった。

それから数十分後・・・

「さっそく完成した人が出たようです!」

「1番手は私のようね」

審査員席にやって来たのは姉さんだった。

「さて、完成したものは!」

「私が作ったのは、これよ!」

お皿を隠すようにしてかぶさっていた布が、取り払われた。

「・・・これは・・・」

「見てわからないの?マフィンよ」

お皿の上に乗っていたのは、黒い岩のような物体だった。

「た、食べた以外と行けるかも・・・」

僕はマフィンを一つ手に取り口に運んだ。

(やばい程ではないにしろ、これは)

シンプルに美味しくなかった。

(まだ一人これ以上の人がいるんだよなあ)

そんなことを思いながらも、なんとか完食出来た。

「完食したところで申し訳ないですが、次が来たようです」

「俺だよ、アキくん」

「峰山さん!」

何故この人が参加しているのか謎だが、布で隠されたお皿の中からはとてもいい香りがしてきた。

「僕はこれだよ」

布を取ると、そこには香ばしいスパイスが立ち上るビーフシチューだった。

「ビーフシチュー?」

「お菓子っていう規定は無かったと思うから、隠し味にチョコを使ったビーフシチューだよ。召し上がれ」

言われるがままに僕はスプーンでシチューをすくうと鼻腔をスパイスが駆け巡った。

そのまま口に運ぶとオニオンとデミグラスが効いた味がしっかりとしたシチューだった。

「普段、僕が作るのとは大違いです」

「そんなことをはないと思うよ。隠し味のチョコが風味を引き立たせているから使ってみるといいよ」

「ためになります」

「峰山のビーフシチューはかなりの好印象のようですね。さて続いては?」

「俺だ」

そこにはやけにふてぶてしい顔をしたあきらがいた。

「お菓子なんてここ最近作ってないから自信ないんだがな」

そう言ってあきらが布を取ると、そこにはお店に出ているようなチョコケーキが乗っていた。

「い、いただきます」

プロのような仕上がりに少し驚きながら、口に運ぶと口の中にチョコの風味と生クリームが広がった。

「美味しいよ!これなら商品化出来る!」

「嫌だよ、作るの面倒だし」

謙遜しているようだが、実際今まで食べてきたケーキの中でもトップクラスに入る美味しさだった。

「こちらもかなり好印象のようですが、次に行ってみましょう!」

「次は私よ」

次は雲雀だった。

(ってことは、最後に白石さんか・・・)

少しの不安を覚えつつも雲雀の料理を堪能することにした。

「私は、これよ!」

チョコチップの入ったクッキーだった。

「じゃあさっそく・・・いただきます」

「ちょっと待って!」

雲雀が食べようとした僕を止め、クッキーを一つ取ると、僕の口に近づけてきた。

「あーん」

「「「な!?」」」

(ここで拒んだら後々面倒だろうな)

そうして食べさせてもらったクッキーはさすが雲雀と言うべき美味しさだった。

「ということで、最後はこの方!」

「最後は私だ、アキ」

というわけで白石さんだ。

「アキよ、見て驚け!これが私のチョコだ!」

「生チョコですか?」

見た目がとても綺麗な生チョコだった。

「そうよ、ほら早く食べなさい」

言われるがまま食べようとするが、僕の身体が拒否反応を起こしていた。

(前回のハンバーグも見た目は問題なかったが、味がやばかった。恐らくこれも)

怖くて食べれなくなっていると、白石さんが何か気づいたように生チョコを一つ取った。

「あ~ん」

「「「なぁ!?」」」

(なんだこれ!?でも白石さんにあーんしてもらえるなんてそうそうない事だ。背に腹は変えられない!)

そのまま食べたが、ジャリジャリという音を立てながら口の中にチョコではない何かの風味が広がった。

(なんとか、倒れずにすんだ)

やはり白石さんの料理はお菓子でも化学兵器だった。

「さて!そろそろ審査員長に最優秀賞の発表をしてもらいます」

(実質三択だな)

そうして迷っていたが、決まり発表することにした。

「今回の最優秀賞は、あきらです!」

「俺?よりにもよって?」

理由は、シンプルにチョコレートだけで美味しいとしたらダントツだったからだ。

「というわけで、最優秀賞のあきらさんに決定し今回のバレンタインバトルは終了となります」

(なんとか・・・終わっ・・・)

ドッと疲れが出てきて、再び眠りについてしまった。


「・・・キ・・・アキ!」

白石さんの声にたたき起こされ、僕は飛び上がる。

「あれ?バレンタインバトルは?」

「まだ寝ぼけてるの?お腹すいたから夕ご飯作って」

「今日はビーフシチューでも作りましょうか」

僕がキッチンへ向かおうとすると、腕を掴まれた。

「これ、チョコレート」

「ありがとうございます!」

きっと中身は劇薬に間違いないだろう。

でも僕にとっては幸せの薬だったりもする。

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