第9話 安物の焼酎とエコー

埃だらけのニッカのポケットから

クシャクシャになったエコーを取り出し

現場で拾った付きの悪いライターに

文句を言いながら火をつけた


古傷が痛みむのか足をさすりながら

「これさえなかったらお前らみたいな

若いもんにゃまだまだ負けねえぞ」って

煙にむせかえりながら話してた


家に帰れば大恋愛だった奥さんの

水を取り換え、線香に火をつけ

安らかな眠りと共にと両手を合わせる


スーパーの安売りで買った4ℓの焼酎

生でコップに入れて記憶が無くなるまで

朝まで飲んでいた・・・



おやじ臭い酒臭い部屋に起こしに行くのは

毎日、決まって自分が係りになっていて

汚いもんモロ出しにして大の字で寝ている


いつもの、いつのも朝だったのに



「アニキ知ってるか」って話しかけられて

「星はじっと見てると動くんだぞ」って

見上げた星をいつまでもいつまでも

そういえばあれが最後の会話だったなぁ・・・



テレビが点けっぱなしの部屋に

ずいぶんやさしい顔で冷たくなっていて

聞けば心筋梗塞だったんだって

本当は苦しかったんだろうになぁ・・・



社葬といえども人は少なく寂しいもので

隅っこでずっと泣いている赤ん坊を抱えた娘さんが

疎遠とはいえたった一人の身内で

とても不憫でなりませんでした・・・



葬儀も終わり娘さんの立ち合いで

部屋をかたずけていると・・・

タンスの奥から渡せなかった 

ベビー服と安産のお守り

30万円の入った封筒がありました


それを見た娘さんは

ただ、ただ、泣いていました・・・



安物の焼酎とエコーを買って

また、会いに行きますから。

待っとていてください・・・


ありがとう、おやっさん。

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