第17話 友好

「ロロ王!水国より使者が来ております!」


 自室に兵が入ってきた。

突然のことで目をパチクリさせる。

水国とは国交を断絶しており、使者が来るときはだいたいが宣戦布告だ。

嫌な予感がする。


(もしや…また…戦か…?)


 前回はたまたま少年が現れたため、勝利を納めることができたが、水国軍にとっては不意を突かれたという可能性がある。

次は万全の準備をして挑んでくるのかもしれない。

玉座の間へ行くと胸に星の紋章がある兵士がいた。


「水国からわざわざ使者とは…戦かな?」


 威厳のある声で使者に問う。


「いえ………水国王からの文です。お読みください…。」


 いつもは威圧的な態度で好戦的な水国の使者だが、どうも様子がいつもとは違った。

手紙を受け取り恐る恐る開く。


!?


 手紙を開いた瞬間に悪い予感は外れだったと確信した。

手紙には三文だけが書かれていた。


先日の戦は見事であった。

我が国と同盟を結ばないか。

明日恵国城へ伺う。


 こんなような内容だ。

しばらく手紙を見つめる。


(どういうことだ……ホーセンとの同盟はどうするのだ………)


 護衛の兵士達が見つめてくる。

また戦が起こるのではないかとささやいているのが聞こえる。


「ここに書かれている内容は本当か?」


「はい」


 真剣な面持ちで使者が言う。

その真剣さからはなにかあったのかと連想させるほどだった。


「了解した。ご苦労。」


 そういって、玉座の間から自室へと戻った。

自室へ戻るとすぐに、腹が痛くなった。


(ハァ、疲れた………。まさか…水国から同盟の話をされるとは…。罠という可能性もあるな…)


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「水国王様、ご到着です!」


 水国兵百名ほどが列なして歩く。

初めて恵国城の中へ入った。

というより恵国に入ること自体がはじめてだった。


(綺麗な国だな…)


玉座の間へ向かう。

恵国は今回の話をどう思っているのだろうか。

今まで、争い合うことしかやってこなかった国だ。

良いようには思われていないことはわかる。

重々しい空気が漂う。


「御父様…大丈夫でしょうか?」


 いつも強気な姫が少し弱気なように見える。


「大丈夫です。もし、何かあれば私がなんとかします。」


 ゴギンは強気なようだ。


「バカ!お前はまだボロボロの身体でしょ!なにをいってるの!だいたい例の少年がいるのよ!」


「そ…そうですが…」


 二人のやり取りを歩きながら見ていて微笑ましい気持ちになった。


「玉座の間に入る。静かにせよ。」


 重々しい声で言うと二人は人が変わったかのように顔つきが変わる。

ふぅっと息を吐く。

自分の国の存亡が今から入る部屋で決まる。

考えるだけで吐き気を催す。


(もし、だめだったらどうするべきか。ホーセンにも攻められ…恵国にも攻められ…那国は頼ることができないし…滅ぶしかないのでは…?)


 今更ながらなんて危険な賭けをしたんだと自分を責める。

しかし、そうでもしなければ水国という国の民を守ることができなかった。


(上手くいってくれ…………私の言葉次第か…やるしかないな!)


 決意を固めた。


「よし、いくぞ。」


「はい。」


 ゴギンと姫の声にも決意が現れていた。


キィーー


 重々しい空気と扉をゆっくりと開け入っていく。

兵が整列しており玉座の前に恵国王が立っている。


「ロロ殿」


 自分も含め、玉座の間にいる全ての水国兵がひざまづく。


「ロロ殿、お初にお目にかかります。水国王ズイともうします。この度はお話の場を設けてくださったことに感謝の意を示します。これを。」


 ゴギンが箱を恵国の兵の一人に渡す。


「……これは?」


 ロロが少し威圧的な態度で聞く。


「水国の水まんじゅうでございます。」


 できるだけ威圧しないよう、丁寧に答えた。


「ご苦労。さて、ズイ殿。同盟の話だが。」


!!!


 驚いた。

普通、王と王が会うときは感謝の意を示し手土産を渡し、国の状況など世間話をした後に本題に入る。

いきなり本題に入ったため驚いた。


「同盟の話だが、なぜ、今更?」


 恵国王が切り込んできた。

確かに今更感がある。

今まで何度も争ってきた。


「先日の戦での少年の話をお聞きしました。少年がいる限り、我が国は間違いなく恵国に勝つことはできません。」


「だから…か。」


 恵国王は様々な事情を察したようだ。

ホーセンとの関係なども当然耳に入っているだろう。

恵国王は同盟を前向きに考えているように見えた。


(もう一押し…か…)

「ロロ殿!!我が国と同盟を組んでいただきたい!」


 我ながら迫力満点の演技だった。

どうしても同盟を組む必要があるという思いで必死だった。

恵国王は難しい顔をしている。

無言が続いた。

それを崩したのは白銀の鎧を身に纏った者だった。


「………そなたが伝説の戦士、ゴギン殿か?」


 ゴギンは突然自分に話を振られて戸惑っている。


「これは失礼。恵国軍団長マリフと申す。赤き鎧よりゴギン殿とお見受けしたが身体の方は大丈夫か?」


 ゴギンはできる限り丁寧に答える。


「お気遣い、ありがとうございます。見事にやられましたが、なんとか身体は動きます。」


 本来はゴギンはマリフよりも格上の戦士だ。

マリフはゴギンに対し敬意を示す必要がある。

しかし、今は同盟を申し込んでいる立場だ。


(ゴギン…抑えてくれ……)


 祈るように目をつむった。


「なにか求めることはあるか?」


 マリフはなにがしたいのだろうか。

ゴギンを怒らせて同盟の話をなかったことにしようとしているのではないか。

マリフを睨むがマリフは無視してゴギンを見つめる。


「特にはございません。」


「そうか。」


 また、静寂に包まれた。

この空気をどうにかせねば、と考えるが何も思い付かない。

下手なことを言ったらその時点で全てが消えてしまう。

だからこそ、よく考える必要があった。


「は…腹が減っております!!!やはり昼飯を食べさせて頂きとうございます!!!」


 静寂の中、ゴギンが叫んだ。

ゴギンはいつも話を変えようとするとき腹が減ったと言う。


(ゴギン!!!!)


心の中で叫ぶ。

ゴギンを睨みたおした。

皆の視線がゴギンに刺さるのではないかと思うほど集中した。

沈黙が流れる。

ゴギンは反省したかのように、うつむいている。


「ハッハッハッハッハッ」


 笑ったのはロロだった。


「ズイ殿!ゴギン殿は面白いですな!マリフと同じだ!今より我が国と水国は同盟関係を結ぶ。よろしいかな?」


 目を丸くした。

よくわからなかった。

しかし、ロロは玉座から立ち上がり、自分の前まで来た。

そして手を差し出した。

意味を理解した。


(ゴギン…ありがとう。)


ゴギンに向けていた視線は怒りから感謝へと変わっていた。

そして立ち上がりロロに向け手を差し出す。

自分の手とロロの手ががっちりとつかみ合う。

水国兵、恵国兵、玉座の間にいる者全員が歓声をあげた。


「同盟国の王を迎える準備をせよ!」


 ロロが命令する。


「ズイ殿、此度の無礼を許していただきたい。少々警戒しすぎたようだ。」


(やはり、警戒していたか。)


 威圧的な態度も護衛の兵士も警戒していたためだと分かり安心した。

自分達をここで殺すためではないと分かって。


「いえ、こちらもこれまでの幾度の戦を詫びたい。」


ハッハッハッハッハッ


 歓声の中、手を握りあったまま笑い合った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ハッハッハッハッハッ


 歓声と笑い声で目が覚めた。

外には太陽が空の真ん中まで昇っている。

なんの歓声か分からないが、とにかくうるさかった。

寝起きにはかなりきつい。

軍団長になにがあったのか聞こうと思った。


(軍団長、何かありましたか?)


(おぉ、魔導師殿。よろしかったら玉座の間に来ていただけますか?大切なお客様がいらっしゃっているのです。)


 正直寝起きでめんどくさかったが、部屋もご飯も世話になっているため断ることはできない。


(今いきます。)


「マヨネーズ」


 そこには竜の紋章をつけた兵士と星の紋章をつけた兵士がいた。

皆、なにやら歓声を上げている。


「おぉ!魔導師殿!」


 マリフが叫んだ。

すると歓声はピタリと止み、皆の視線が自分に集まった。

状況を呑み込めずあたふたした。

するとマリフが皆に向かって叫んだ。


「水国の皆様方!こちらが魔導師様です。」


「そなたが!まだ少年ではないか!」


 水国の王と思われる者の横にいる綺麗な金髪の女性が叫んだ。

女性は綺麗という言葉さえ失礼なほど美しかった。


「姫様!失礼ですぞ……これは失礼しました…偉大なる魔導師様。先日の戦での無礼を許していただきたい。」


 赤い鎧の兵士が柔らかな口調で話した。

先日とは違い、優しい人物のように思えた。

しかし、未だに状況を把握できずマリフに聞いた。


「なにがあったのですか?」


 マリフは興奮しているようだった。


「水国と…同盟を結んだのです!人間の国の同盟は…私の知っている限り歴史上初のできごとです!」


 そんなに仲が悪かったのかと理解した。

しかし、なぜそこまで仲が悪いのか。


「なぜ……そんなにも仲が悪かったのですか?なぜ今まで戦っていたのですか?」


 ロロと水国王が同時に答える。


「攻めてくるからだ。」


 二人は答えたあと顔を見合わせる。


「水国が攻めてくると聞いたから恵国は出兵していたのだぞ?ズイ殿。」


「我々は恵国が攻めてくると聞いていたのですが…」


 どういうことだ。

意味がわからない。

しかし、今はもう頭が回らない。

力一杯叫んだ。


「おなかが空きました!」

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