第25話

「だって、たけるは……、たけるは……」


「あぁ、もう! はいはい、すいませんでした、もうやめますよ。このままだと、私が悪者になっちゃいますもんね」


ピーという機械音がして、たけるの目が青く光った。


「デフラグが、終了いたしました」


「おかえり、たける!」


「そうだね明穂、ただいま!」


いつもと変わらぬ元気な声。


この声に、救いを求めてはいけないっていうの? 


私にとってたけるは、自分の弟のような存在なのに!


「私は、私なりの方法でPPを上げるから結構です! 七海ちゃんは七海ちゃんで、勝手にやって下さい!」


「あたしは、明穂さんのためを思って言ってるんですよ?」


たけるを抱きしめる。


なにも聞きたくないし、考えたくもない。


私のためとか、そんなの嘘すぎる!


「まぁまぁ、明穂もここまでくるのに、結構な時間がかかってるから、急にっていわれても……ね」


さくらがようやく、助け船を出してくれた。


「だけど明穂も、もう少し成長があってもいいと思う」


さくらは、言いにくそうに言葉を繋ぐ。


さくらまで、そんな風に思っていたなんて!


「でっすよねー!」


七海ちゃんが言った。


芹奈さんもうなずく。


ひどい、ひどい、ひどい、ひど……。


「やぁやぁ、みんな揃っているかい?」


入って来たのは、お人好し局長。


どんなタイミングで入って来てるのよ! 


しかし、そんなタイミングの悪い局長の背後に、私は目を奪われた。


他のみんなも、同じところが気になっている。


局長のその後ろには、見知らぬ少年……。


「保坂くんの提案してくれた直訴状が、上に届いたみたいでね、設備強化のための視察に、来てくれることになったんだよ!」


その少年は、本当に透き通るくらい真っ白で、生まれつき色素がなかったんじゃないかと思うくらい透明で、青い目をした幽霊のような少年だった。


「彼は、長島健一くん。公安の電子犯罪部門の特別顧問を務めている、保健衛生監視局の方だよ」


長島健一、十七歳、独身、男性。


右足に、一目でそうと分かる義足をつけている。


悪い足をそのまま残して、服の外から装着し、歩行を補助するタイプのやつだ。


右手には白杖。


視覚にも、問題があるのかな。


だけど、そんな素振りは全く見えない。


PP3156。


「今、各部署を挨拶回りで訪問していてね、保全強化のために、それぞれに必要な経費を計上して、設備投資の提案をしてくれることになっているから、これからいろんな所で見かけるかもしれないけど、びっくりしないでね」


局長からの紹介に、彼はにっこりと微笑んだ。


「よろしくお願いします」


彼はそこにいた一人一人に、握手の手を差し伸べる。


順番に手を握って、私の所へもやって来た。


「あなたが、保坂明穂さん?」


「はい、そうです」


彼の手はひんやりと冷たくて、普通の人より、体温が五度くらい低いみたいだ。


「そう、よろしくお願いします」


局長に連れられて次の部署に移動して行くまでの間、彼が口を開いたのは、それだけだった。


扉がしまり、部屋に張り詰めていた緊張が一気に解ける。


さくらが一番に沈黙を破った。


「あーびっくりした!」


「私、PP3000越えてる人、初めて見ました-!!」


七海ちゃんは興奮している。


「さすが公安部、そして十七歳、オーラがハンパないっすね」


市山くんの言葉に、芹奈さんが首をかしげる。


「公安部なのに、保健衛生監視局って、結局どこの所属なのか、分かんないじゃない」


「え~、十七歳かぁ~、五つ年下なら、私もまだ守備範囲に入ってますよねー!」


七海ちゃんは、早速パソコンで何かを検索し始めた。


「とにかく、一般人ではないことは確かだな」


さすがの横田さんも、大人しく頭を掻いている。


私は突然現れた透明な彼によって、自分の話題が逸れたことにほっとしていた。


PP3000? 


ありえない数字だ。


人は人、自分は自分。


私は私として、自分自身で生きて行く。


それだけの話しだ。

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