第4話新たな問題、そして迷子

結局銅貨を10枚、銀貨を5枚、金貨を2枚拝借した。

その他に何か脱出に使える物はないか探してみたのだが…

残念な事に特に無かった。

だが布が何枚かあったので、自身の黒髪と手の甲の紋章を隠すために頭には頭巾のように被り、もう一枚は手の甲に巻いといた。

この姿で町中を歩くのはかなり人目を引いてしまうだろうが致し方ない。

だけど今は脱出が優先だ。

どう脱出しようか、そう考えていると…

荷台が揺れ始めた。

何事かと思うと馬車が動き始めたらしい…

閉まりきっていない扉の隙間から外を確認してみる。

石のタイルの道路のような物しか見えない…

隙間が小さくよく分からないが恐らく町中を走っているのだろう。

この馬車は何処へ向かっているのだろうか?

この異世界では文明があまり発達していないと思う。

なので馬車という物は高価ではないのだろうか。

だとすると考えられることは持ち主は貴族か商人という線だ

少なくとも貴族の馬車ではあってほしくない。

自分にとって貴族というのは裏で悪いことをするようなイメージしかないのだ。

商人だったとしても大して変わらないとは思うが。


◇◇◇◇


馬車が走り始めてから20分たっただろうか。

呑気に木箱の後ろに隠れていると。

ガタンッ!いきなり馬車が止まった。

本当にいきなり止まったので頭をぶつけて痛い…

声をあげそうになってしまった。

まぁそんなことは今はいい。

何故馬車はとまった?

目的地についたのだろうか?

自分なりの推測をしていると…

足音が外からしてくる。

荷物を取りに来たのだろうか。

それだとかなりマズい状態だということになる。

だがそんなことを考えている自分を無視して無情にもキイィ…と音を鳴らし扉は開く。

この状況に対し自分は荷物の後ろに隠れることしかできなかった。

もし奥の荷物を取りに来てこちらを見られたら自分の人生は終わりだ。


「……」


扉は開いたが何も音がしない…

荷物を取りに来たのではないのか?

その静けさが嫌で外の様子が気になり少しだけ顔を出してみる。


「っ…!」


急いで顔を引っ込める。

何故かというと、思い切り目があってしまったのだ。

相手は幸いな事に12歳位の少女だったが、それをバラされては不味いことになる。


「あの…。今中に人が…」


少女の声がする…

人がいることを教えているのだろう…


「何をいっているのですかお嬢様。人を中に入れるような無能の護衛は雇っていませんぞ。もし入っていたのならば護衛の人と共にその者は死刑になるでしょうね」


次に男の声がする…

かなりヤバイことを言っていた気がするんだが…

それにお嬢様?

つまり貴族の馬車だったのか…?

そうとするならば男の方は少女の付き人ということになる。

なんとしてでも見つからないよう動かなければ…!

だが、それを成功させるにはまず2人がいなくなるのを待たなければならない。

早くいなくなってくれ…!

そう願っていると願いが通じたのか、声が遠くなっていく…

扉は開きっぱなし。

出るなら今しかない!

俺は立ち上がり足音をたてないようにゆっくりと荷台から降りる。

何とか外に出れた!あとは逃げるだけ!

俺は馬車を背に全速力で駆け抜けた。

それを自分に気づいた少女が見ていると知らずに。


◇◇◇◇


10分程走り続けただろう。

馬車からはかなり離れたと思う。

だからといって問題は解決していない。

ずっと食料や水分を補給していないことに加えずっと歩き続けている。

今の本気の走りでかなり体力を消耗した。

それに自分はここの町の道など分からない。

迷子になっているのだ。 

お金は盗んできたのである。なのでそれを使う店を探そう。

腹ごしらえをするのだ。

だがこのお金もすぐ尽きてしまうだろう…

働く場所もさがさないと…

不安と絶望がのしかかり、自然と歩みが遅くなる。


周りを見るにここは住宅街のようだ。

早く屋台のある場所に着きたい。

あと顔を隠せる服が欲しい。

今の格好はかなり目につく。

学生服に頭と手に布を巻いている格好、完全に変な人だ。

不審者扱いされても文句はいえない。

といっても周りの人も自分にとって変わった格好をしている。

鎧をまとった者、ローブを着ているもの。

流石異世界といえるだろう。

その不思議差から周りを見てキョロキョロしていると…

前から少し変わった鎧と兜を被った2人組が来ていた。

鎧の胸の部分には変なマークがある。

なんだろうか、あのマークまるで国旗のような…

そうだ!アメリカの国旗と似ているんだ!

あれがこの国の模様とするならばあの兵士はつまり…

衛兵ということになる。

見つかったら不味いのでは?そう思ったがそんな心配はすぐに終わる。


「知っているか?この国に侵入した奴がいたらしい」


え?


「本当か?俺は先程まで門にいたがそのような奴は見かけなかったなぁ…」


衛兵は会話をしているようでこちらには気づいていなかった。 だがその会話にかなり気になることがあった。

『侵入した奴』多分それは自分のことなのだが、何故バレている?

誰にも見られていないはず…

いや、1人あの少女が気づいていた。

だがあの少女がバラすだろうか?


…考えるのをやめよう。

いくら考えてもどうせ答えはでない。

幸い顔は見られていないようだし、注意すれば何とかなる!…と思いたい。

ああ、とても憂鬱だ。

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