第7話 片桐の真実
片桐君の話を聞いた警察官は、
「まあ、そういう事ですか・・仕方ないですね・・。本当は、目撃談とか色々聞かないといけないんですけど。
でも、まあ・・お楽しみ中の所をこれ以上邪魔する訳にもいかないので。
私達は、ここで退散することにします。
色々と、ご迷惑おかけしました・・。」
そう言って、ぺこりとお辞儀をした。
警察官達は、捕らえられた佐藤家三人を引き連れて足早に立ち去っていった。
さっきまでの賑やかさとはうってかわって、部屋は2人きりになった。まるで嵐が過ぎ去った後の静けさのようだった。
閑散とした空気の中。黙々と片桐君は原稿を拾い集める。サラサラした髪から覗くスッと長い睫毛が、また一段と美しい。
「なんとか、あいつら立ち去ってくれたな。ふう。俺たちまで職務質問されたら、溜まったもんじゃねぇぜ。よし、咲子。原稿お前も拾うの手伝えよ!」
「えっ。片桐君・・何で?」
「何でって・・おめぇ、月野マリアと約束してたじゃん。小説書くってさ。
それには、この月野マリアが書いてきたネームが必要なんだろ?
まぁ、俺もここで話を聞いてしまった当事者だし。
おめぇの事、手伝ってやるからさ。」
片桐君が、私の目を真っ直ぐ見つめる。そして、優しくニコッと笑った。
片桐君は、笑うと目尻に皺が寄ってクシャッとなる。
その笑顔がまるで子犬のように可愛くて母性本能をくすぐってしまうのだ。
「片桐君・・」
「ごめん・・。俺さ。
本当は、お前に小説かいて面白かったらデートしてやるって言ったの。あれ、嘘なんだ。
本当は、お前に俺の事を諦めて貰う為だったんだ。
正直、お前と俺。
付き合う気とか無いから。
どうせ付き合うなら、もっと可愛い子ちゃんがいいし。
男に慣れてるような垢抜けた女の方が、俺も気楽じゃん?
お前みたいなガリ勉女が、下手に付き合うと一番めんどくさいんだっつーの。
正直、本気でまさか小説書くなんて思わなくてさ。
まさか、俺のせいでこんな事にお前が巻き込まれるなんて・・。
これは、俺にも責任があるからさ。
だから、俺。お前の事、手伝うから。
秘書になるわ。おれ!」
・・・は?
何?どゆこと?片桐君?
小説書いて面白かったらデートしてくれるって話。あれ、嘘だったの?
「正直、俺。月野マリアの作品のファンなんだよね。
本当、どうしてこんな展開が思いつくんだろうっていつも不思議でさ。
ただの官能小説で終わらせないスリリングな展開とか、本当に天才なんだよな。
それに、月野マリアの原作なら。
絶対ヒット間違いないし!
俺にも印税沢山来るじゃん!
今のピザ屋のバイト、まじキツイしさー。
電話担当の女が、俺に最近しつこく言いよってきてさー。
まじめんどくさいなーって思ってて。丁度辞めたかったんだよねぇー。
こっちのがさ、絶対金になるじゃん!」
片桐君が「今から本屋行こうぜ!」と言うので、「何で?」と聞いた。
すると
「決まってんじゃん!
官能小説を今から買いに行くんだよ!
だって、オメーさぁ。
文章いくら上手いっつっても、読書感想文で毎年賞貰うとか論文褒められる位のレベルじゃん?
官能小説っつーと、表現方法も特殊になるんだよ。
女のアソコを「花唇」って表現する官能小説家もいるし、とにかく表現が通常の小説よりも独特だからね。
性描写を、いかに上手く表現するか。
いかに読者を感じさせるか。
ここが大事なんだよ。」
私は、キョトンとした顔で片桐君を見つめた。
正直、処女からすれば官能小説とは如何なものなのか?という感じの世界である。
いや、処女だからこそ読むべきものなのか?
初体験。
その時は、官能小説を読んでからのほうがいいのかな?
小説を読んで、性行為の予習してから本番に臨むべきなのか?
大事な箇所は、蛍光マーカーとか引いといた方がいいのかも・・。
いつも試験の前、必ず読み返した方がいい所は蛍光マーカー引く私。
初体験の前も、肝心な所を忘れないように蛍光マーカー引くのは大切かも!
そういや、親友のマリコは彼氏との初体験前はレディコミ(レディーコミックスという少女向けのエロ漫画のこと)を読んで勉強してから臨んだとか言ってたっけ。
漫画だと、AVみたいに音も出ないから部屋でこっそり読めるし。
性行為を絵でわかりやすく図解されていて、しかも何度も読めるからわかりやすいって言ってたっけ。
そんな感じで、私も官能小説とか読んでおいた方がいいのかしら?
そうすれば、
「どうやったらいいのかわからないのですが、どうすればいいのですか?」
とかイチイチ相手に言わなくてもいいし、スムーズに事が進むのかもしれない。
いつか、好きな人に抱かれるかもしれない日の為に・・。これは、文章を書く勉強というだけで無く、今の私にとってもいい勉強なのかもしれない。
「ただでさえ、オメー処女じゃん?
月野マリアのエロ小説を文章で描く為には、本当はお前も経験してからの方が、ぐっと感情込めて書けると思うし、書きやすいと思うんだよね。
ただ、俺としては。
お前には、こんな事の為に大事な処女を捨てて貰うのは嫌なんだ。
やはり、ああいうものは。
気持ちがこもってなければ、何の意味もなさないものだし。
お互いに、虚しくなるだけなんだよ。
お前は、真面目な奴だからさ。
絶対、お前を大切にしてくれる人と気持ちのこもった初体験をして欲しいんだよね。
だから、やみくもに性行為しろとは言わない。
ただ「処女だからこそ書ける官能小説」ってのがあると思うんだ。
処女の方が、妄想力は働く筈なんだ。
今のお前には、それがある。
今から、AVビデオと。官能小説と。
あらゆる資料を一緒に選びに行こうぜ!
アダルトビデオは、お前選ぶの恥ずかしいなら。
俺が選んで借りてきてやるからさ。
心配すんな!
それと。後は、咲子が文章だけで性感帯を刺激させるテクニックを身につけないとな。」
片桐君は、本気だ。
私を、本当に官能小説家にしようとしてる。
そして、全面的に私の事。
バックアップしようとしてる。
もし片桐君とのデートが叶わなくても、
もしかしたら「仕事」という口実で片桐君とずっと一緒にいれるのかもしれない。
もしかしたら、たった一回のデートより美味しいのかも?
それとも、毎日デートのような感覚で一緒にいれるのかも?
想像するだけで、ニヤニヤが止まらない・・。
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