だっせえ歳の重ね方。


 近所で花火大会があったんですよ。そのお陰で、「今は人との約束、きっちり守って生きてんの?」なんて、辛辣な言葉を発する破目になりましたが。


 その花火大会の影響で、久々に、幾人かの、高校時代の同級生と会ったんです。全部偶然なんですけどね。顔を合わせれば下らない事を話す間なんだけれど、友人、と呼ぶにはちょっと遠い人だったり、絶縁したと思ってたような奴だったり。このキツーい言葉を発する事になったのは、後者の所為ですね。いい加減な女です。


 彼女と私は、一応は友人でした。知り合った一年生から、三年生の春までは。「今も友達ですか?」と訊かれたら、「何とも言えない相手です」と、はっきりしない返事になってしまいますが。何か嫌ですねこういうの。もやもやして。性にも合わないし。


 彼女は、生活態度が悪かったんですね。補講と遅刻指導の常習犯で、周囲に迷惑をかけていました。高校時代の私は、当時は友人であった彼女の改心を信じ、何度「生活態度を改めろ」という約束を破られようと付き合い続けていたんですけれど、三年生の春に堪忍袋の緒が切れて、いい加減にしろと激高したんです。私にしては珍しく。


 叱る事は頻繁にしますけれど、怒らないんですよ私。怒るって、感情的になってるって事じゃないですか。そこに筋が通っていないのなら、それは単なる感情の発散であり、そうした内容をほいほい人にぶつけるのは、私は好ましく思えないんですね。幼稚に見えてしまって。まあその翌日から、この最近あった花火大会までの七年間、私と彼女は口を利いていませんでした。


 人ってその気になれば、いつでも変われるじゃないですか。私はそうだと信じてます。だからその元友人も、変われる筈だって信じてたんですけれど……。いんやー。この花火大会で彼女と会った事を、別の高校時代の友人にLINEで伝えた際、「宗は人がよ過ぎるしほんまに溜め込みがちやし、そもそも彼女の面倒三年間もよく見たよ」と、労われました。そーなん? そうなんやろね。皆呆れて、彼女の事をほったらかしていましたし。私はそこに同情もしていて、何だか離れられませんでした。お人好しですね。自業自得なのに、可哀相って。


 で、我慢の限界が来て爆発した私は、今の所人生であんな行動をしたのは一度きりなんですけれど、顔を見るとブン殴って停学になるかもしれないと思ったので、彼女との接触を、最大限避けるようになりました。それでそのまま卒業して、この花火大会の夜に、偶然会った訳ですね。もう彼女に気付いた瞬間、私の胸はぐっちゃぐちゃ。怒りと、不快感とー……。あとは何だろう。上手く言えませんね。一応は、友達だったので。悲しいのかな。裏切られ続けて。でもこれだって、人を見る目が無かった私の、自業自得です。


 ここを逃したら二度と会えない気がして、ガンを飛ばしてやったんですよ。何か言う事無いんかボケって。そしたら彼女はこちらに気付いて、「あー……」と、何かやってしまったような声を漏らすと、それはそれは気まずそうな顔をし、私から目を逸らしました。私はもううんざりしてしまいます。そうやって都合が悪い時になると、絶対にこちらを見ない癖、七年前から何も変わってないじゃないかと。


 私とは怒ると本当に恐ろしいと、友人らの間では昔っから評判ですけれど(怒ってるって明らかに分かるのに静かな顔して、理詰めで淡々と追い詰めて来る所が恐ろしいんだとか)、だからって、自分が犯してきた失敗から、逃げていい事にはなりません。というかぶっちゃけ、ビビるんだろうなとは思ってはいましたが、あんな後ろめたさ全開な顔で目を逸らされたら、それはそれで腹が立ちます。夢にも思ってませんでしたけれど、私に対して罪悪感があったんだと、そこで初めて気付いたもんですから。


 二十五歳にもなれば少しは、大人になったという事なんでしょうかね。でも彼女は何も言わず、逃げ出す事も出来ず、無言で俯きっ放し。私は言いたい事が山のよう。再燃した当時の怒りで速くなった脈により、明らかに体温は上がっていますし、ピリピリとした空気が張り詰めます。


 でも何をぶつけても、期待しているような言葉は返って来ないだろうと分かっていて、一つだけ訊いたんです。昔みたいに、説教臭い口調で。「今は人との約束、きっちり守って生きてんの?」と。


 そしたら彼女は、私への罪悪感で窒息しそうな顔をして、「……今は……。大分変った」。とだけ言いました。目を逸らしたままだったのでその言葉は、真に受ける事が出来なかったんですけどね。


 私は、「悪い事をしたのに謝れない、そういう大人になったんだなお前とは」と思いながら、「そう」。とだけ返しました。十代の頃ならこの本音を口にして、滾々と説教を始めていましたけれど、その気にはなれませんでした。あとは一言二言、どうでもいい言葉を交わして、彼女は逃げるように、私から去って行きました。


 もう次に彼女を見つけても、私はこちらから声をかけなければ、視線も投げません。ここでまた甘やかして、私から、説教という形で謝罪のチャンスを作ってやれば、きっと彼女はあのままでしょう。もう死ぬまで、あのままなのかもしれませんが。でも私は、人とは変われる生き物だと信じていますので、もし彼女が自分から謝りに来た時は、許そうと思います。きっと来ないとは、思ってるんですけどね。だっせえ生き方してんなよな。


 そんな大人になって、そのままおばさんになって、本当にそのまま、死ぬつもりなんでしょうか。大人って一回逃げ癖が付くと、誰の手本にもなれない、下らない生き物に成り下がるのに。歳を重ねる程に柔軟さを失っていく事の危険度は、まだ分かっていないんでしょうかね。今更どうすればいいかなんて迷いとは、今から変わる事でしか、拭えないと思いますけれど。ほらそうやって、今更今更と変化を恐れているその様は、みっともない大人そのものじゃん。


 彼女について考えると、私とは甘いのか、厳しいのか、よく分からない性分をしていると痛感します。こんな思考ですから人を嫌いになる事も、まーあまず起こりませんし。現に私は彼女の事を、嫌いでもなければ憎んでもいません。好ましいとも、とても思えないんですけどね。こういう間柄って、どんな風に呼ぶんでしょ。友達でもないし。


 あんまり暗い事書きたくないんですけれど、六日も経ってるのにまだもやもやしてるので、書いてしまいました。何かすいませんね。あー性に合わない。気持ち悪い。周りの人達みたいに、すぐに嫌いって言えたり、見捨てられたら楽なのに。



 では今回は、この辺で。



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