第75話あつまったけど、かおす
ねこねこ「あ! ロイオー!」
ロイオ「おっ……おい、走って体当たりするな……顔も擦り付けるな。鼻水つくだろうが」
街道にて白髪賢者と茶髪魔法剣士が抱擁を交わす間、もう一組抱擁をしている。
セアラ「姫様! ……お止めください、民がいないとは言え……」
オブ「なに言ってるの! セアラの心配をしないなんて領主失格よ!」
セアラ「そこまでですか!?」
近衛の声が広がると、抱擁中の四人の背後から可憐な花たちが姿を見せる。その足どりは疲弊しきっていた。
リオ「え……なにこれ、ホモとレズのハグ現場――あれってホモなの?」
カエデ「リオちゃん……領主様たちだよ……失礼だよ」
オルカ「
エリー「なんでこっちを見るのよ……しかもみんなで」
山田「そりゃあ、俺とエリーちゃんが仲良し――」
エリー「わーわーわー‼」
赤い盗賊の何気ない言葉を全力でかき消そうと大声を上げるエルフにパーティーメンバーはニヤニヤと萌えた。そのやり取りを冷静な重低音の声で小馬鹿にする男。
ゼウス「ふん……蓑のそばへ笠が寄る、だな。うるさいのが増えた」
カイ「おにいちゃんもそうだよね?」
少年の声変わり前の声が無邪気な顔で黒い狂戦士を見上げる。その汚れない瞳を汚さないよう、ゼウスは山田の一団からカイを遠ざけた。山田が一言突っ込んだが華麗にスルー。
ロイオ「見事に全員集合だな……」
ねこねこ「ねー。あ、そうだ……みんなにいい知らせがあるんだよ!」
山田「お? 俺はちょっと悪い感じの知らせだ」
ゼウス「……うむ。俺は面白い知らせだ」
「「「「お前ら、グッジョブ‼」」」」
ねこねこ「でもロイオは違うよねー」
山田「なんも情報なしじゃなぁ……」
ゼウス「役立たず」
ロイオ「……ぐぅの根も出ねぇ……」
面白くもないコントを送る四人は外野から冷たい視線が向けられて押し黙る。
それでも再び口を開くのは、流石、恥知らずと言えよう。
山田「あー……えっと……領主のねえちゃんに訊きたいことがあんだけど……」
歯切れが悪く、デレデレしているのはみっともないが。
オブ「なんでしょう?」
山田「俺ら、こっちの世界にじっくり腰を据えたいからよ……良い物件紹介してくんね?」
山田の言葉にその場にいた全員に戦慄が走った。
まずお願いをされた領主とその近衛。
オブ「(腰を据える……つまり、ロイオさんたちはこれから先もずっと……)」
セアラ「(察していたことではあったが……ねこが残れば、私の苦労が……)」
次にクワトロ・フルール。
リオ「(……ゼウスくんとの決着はいつでもつけれそうだねー)」
エリー「(じゃあ、今度山田くんを誘ってクエストにでも行こうかしら)」
カエデ「(……えっと……その……この人たち、誰でしょう?)」
オルカ「(……お腹空いたでござるよ……)」
反応は様々である。
最後に最年少の男の子。
カイ「(おにいちゃんともっと遊べる!)」
こどもとは純粋で可愛いものだ。
オブ「そ、そうですね……私の屋敷はどうでしょう? 部屋も余っていますし、なにより三食風呂ベット付きでお家賃はいりませんよ?」
破格の条件を掲示してまで己が欲を叶えようとする領主。その顔は少し赤く、謀略を巡った顔だ。しかし、山田は微妙な顔をする。
山田「うーん……かなりいい条件だけどやめとくわ。アンタらと一緒じゃ……ねこねこがな」
ロイオ「そうだな、この猫の皮を被ったオオカミは何をしでかすかわかんねぇし」
ねこねこ「なにもしないよ! ちょっと甘えるだけだよ!」
ゼウス「お前の甘えるは○○○までさせるだろうに……これからの関係を考えるなら、それはあまりにマズい」
三対一で不採用になったため、山田は他に良い物件がないか尋ねた。
オブは少々悩んだ末、遠慮気味に紹介する。
オブ「……えぇっと……では、少し小さな屋敷がありますのでそちらを後日紹介します」
ねこねこ「わー、屋敷多いんだー」
オルカ「さすが領主殿でござる」
同じくらいの背格好をしたこどもたちの感想を他所に山田は了承した。
クワトロ・フルールは一連の流れを見届けると街を巡回しに行くという。
去り際に。
エリー「山田くん、今度クエストついてきてもらっていいかしら?」
リオ「ゼウスくんもねー」
山田「おう! もちろんだぜ!」
ゼウス「気が向いたらな」
カエデ「よ、よろしくお願いします……!」
それぞれに微笑を返してもらう。
ねこねこはこのやりとりを不服そうに眺めていたがロイオに宥められて気持ちを切り替えるべく、セアラの元へ。
セアラ「どうした? ニヤニヤして……」
ねこねこ「セアラはー、ぼくに何かお願いとかないのー?」
セアラ「ない」
ねこねこ「えー即答?」
セアラ「そうだな、あると言えばある。これからは姫様の半径五メートル以内に近づくな。私には一〇メートルだ」
ねこねこ「そのメートルールいやだ! 他にないの?」
セアラ「それしかない」
ねこねこ「ぼくってそんなに信用ないの!?」
とても死に際を看取った者と看取られた者とは思えない会話だ。
ねこねこの喜怒哀楽のはっきりした表情を見て、ロイオはオブに礼を言う。
ロイオ「……オブ、セアラにねこねこのこと任せてもいいか?」
オブ「私は構いませんよ。ちょっと寂しいですが……その分ロイオさんにいっぱい仕事をお願いしますね?」
ロイオ「…………覚悟しとく」
オブ「では早速ですが、一週間後に西の領主の元へ出向くので付き添いをお願いします」
ロイオ「仕事ってクエストじゃねぇのかよ……てかそんなのセアラに」
オブ「セアラも連れていきますが……西の領主のことは苦手なようで……」
ロイオ「……知ったこっちゃねぇんだが……まあいい。どの道この国は回る予定だしな。いいぞ」
オブ「ありがとうございます!」
ひまわりのようなキレイな笑顔を映して、ロイオは思わず照れを隠すべく顔を背ける。が、その先にいじらしい目を向けたこどもが。
カイ「……茶色のおにいちゃんはソフィアさまのこと好きなの?」
ロイオ「……ゼウスさんがショタコンなのは知らなかったな」
ゼウス「断じて違う」
脳筋の仲間に話しを振って、うやむやにしたロイオは顔を背けたことに疑問符を浮かべた領主に向き直った。
ロイオ「なあオブ、西の街に行くのは物件紹介の後か?」
オブ「ええ、山田さんのご用件は二、三日もあればご案内できます」
ロイオ「そうか」
これからまだまだ忙しくなりそうだ。
ロイオはそれぞれが別々の相手と楽し気にしていることに新鮮さを感じつつどこか違和感のようなものを抱いた。
それは気のせいと首を振り、仲間を連れてロイオは宿に戻った。
ロイオ「(それはそうと……異世界モノの醍醐味である住居づくりとかやってねぇな……建築……俺以外のやつはメンドくさがるからなぁ……いつか一人でこっそり作ろ……ひとり……ボッチ……あぁ、ちゅらい)」
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