第73話

『南方より襲来した三体の恐竜型神鬼は倒されました。引き続き周囲を警戒してください』

 ヘッドフォンから聞こえる渚トキの声を聞きながら、十二才の哲也は大きなあくびをした。

「何も来ないのが分かってるのに戦闘待機ってのは辛いなぁ。ヒマ過ぎ」

 鬱蒼とした森の中で、哲也は木の根元に座っている。邪魔なので鏡の鎧は脱いでいる。

 その木の上では、律儀に鏡の鎧を着た雄喜が街の方を見ていた。光の反射で潜んでいる事がバレない様に、黒いマントで身体を包んでいる。

 かなり遠くで上がった火柱は、恐竜型の大型が倒された爆発か。

「ボク達の役目は大事な物だよ。敵を倒すだけが戦いじゃないからね」

 聞き分けの良い戦友の言葉に舌打ちを返す哲也。

 リヤカーを草叢に隠した紺色メイド二人も、ちょっと離れた木の根元でヒソヒソと世間話をしてヒマを潰している。

 居眠りでもしたいが、肌寒いので眠気は来ない。それに、街の方から絶え間無く鳴り続けている銃声に昂揚もしている。

『九時方向観測隊により、一体の大型神鬼が発見されました』

 ヘッドフォンに耳を傾ける雄喜。

「九時って事は、西か。大陸の方から来たって事は、エイ型かな」

「どうでも良いよ、そんなもん。どうせ雛白のお嬢様がこっちに逃げて来るまでやる事が無いし。しかも逃げて来るかどうかは五分五分だって言うし」

 心底つまらなさそうに言った哲也は、再び大あくびをした。

『エルエル、戦死。萌子、戦闘不能。一春は沢井組に再編。戦闘を続行してください』

 その無線に驚く少年二人。

「エルエルって、あのでかい金髪女だよな。……死んじゃったのか? 妹社って、死ぬのか?」

 思わず立ち上がった哲也は、西の方を見てみる。花火が上がっている様な爆裂音が微かに聞こえるが、清々しい青空しか見えない。

「そりゃ死ぬだろうけど……。哲也。もしかしなくても、結構やばい状況かも」

「そうだな……」

 哲也は木に立て掛けていた歩兵銃を持ち、周囲に注意を向けた。

「雄喜。俺、正直に言うよ」

「ん?」

「ここにも本気の敵が来る可能性が有るんだよな? ちょっと怖いかも。死にたくねぇもんな」

「うん。ボクも怖いよ。大型は、ボク達妹社がやらないと落ちないからね」

 雄喜は空を見上げた。しかし黄色や赤に紅葉した葉っぱが青い空を塞いでいる。

「くそー! 来るなら来やがれ!返り討ちにしてやるぜー!」

 下の方で、哲也が恐怖心を闘争心に変えている。そんな気持ちの切り替えが出来るのが哲也の良いところだが、今から燃えていたら肝心な時に疲れてしまう。だけど哲也の興奮は長持ちしないのが分かっているから、雄喜はあえて放置した。

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