真相

 父から一本の脇差を形見として受け取った。

 祖父の代からの物との事。一体何故祖父がこんな物を持っていたのかは父も知らなかった様だ。

 祖父はこれを受け取り、床の間に大事に飾ると五年後に姿を消した。行方不明のまま、現在も捜索が行われている。

 ある日祖母ががタンスの引出しから手紙を見つけ、父が正式に形見として受け取った物を今、私がこうして手にしているのだ。

 父も先日行方不明になった。現在も捜索中だ。


 母がタンスの引出しから手紙を見つけ、それの内容により、私の物となったこの刀を手にした時、周りの世界が変貌した。

 どいつもこいつも恐ろしい顔をしている。

 しかも目から赤い涙を流しながらケタケタと笑っている。


 何だこれは。私は身震いした。

 刀を放しても視界に移る皆の姿は変わらない。しかもそのまま日常として続いて行くではないか。



 この様な刀、欲しくはなかった。私はふためと見られぬ形相と化した母に父の手紙を見せてもらう事にした。


……それを見て私は夜の内にこの刀を持って家を出る事にした。

 父も祖父も後の事を考えて手紙を残したのだ。しかし刀は放棄した。

 あの二人は今、何処をさまよっているのだろう。


……手紙にはこう記されていた。


『脇差を握るな』

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