デスメタルの沼に沈めたい!
猪目狸目
コルナの日常
デスメタルって何?
私はレズでもバイでも無いため向かいに座る女子高生に熱い視線を送るには性的欲求ではない別の理由がある。
彼女は私と同じ高校の紺のセーラー服を着ており、鞄を膝に乗せスマートフォンを左手で持ちながらそこから伸びるイヤホンによって音楽を聴いている。長い黒髪からチラリと見えた限りそのイヤホンはカナル型であるため通常の音量で再生しても音漏れを起こすことはありえない。ましてやここは電車の中であり線路の上を鉄の巨体が風を引き裂くとてつもない轟音が響いている。
ありえないはずなのだ。彼女の聴いている曲が何かと判別することは。
「横浜〜横浜でございます」
彼女は立ち上がりそのままホームへと出て行った。私はそれを凝視しながら彼女の聴いていた曲を口ずさんだ。
「Devour, cesspool of verm……」
「扉が閉まります、ご注意ください」
「あっ!待って待って!降ります!」
私は立ち上がり閉まりそうな扉に体をねじり込ませホームへと出た。右側から駅員さんの迷惑そうな視線を感じながらもそのまま通勤通学ラッシュの人混みの中に紛れていった——
×××
「それでそのシロイルカが散弾銃を撒き散らして敵を殲滅、血祭りにあげたんだよ〜」
「ほうほう!それはおそらく白と赤、つまりは運動会において白組が勝つという暗示ではないでしょうか?」
「……」
昼休み私達三人は教室の窓際の方に机を固め昼食をしていた。薄い色素、肩にかからないくらいの髪の長さ。ツーサイドアップをぴょんぴょこ跳ねさせるネザーランドドワーフのような可愛い小動物系の見た目でありながら、急に今日見たサイコな夢の話をする。まるでトイザらスなロゴをしてるグラインドコアな彼女は
「そうかな〜私的にはこの世は幻想、ただの水槽の脳に過ぎないが、一人のバーチャルな勇者がこの世を奪還してくれるのだと思うな〜」
「どうでしょう?ちょっとタロットで占って見ましょうか!」
「……」
明らかに占えるような代物とは思えない識の夢を占おうとカバンからタロットカードを取り出す。黒髪のボブカット、黒縁のメガネをしてスカートの長さも形骸化してる校則を遵守していかにも淑女の嗜みを持ってるように見える。
「よいしゃー!」
「ああ!有津実ちゃん!カード飛び散っちゃってるよ〜」
「あー!そこの男子!ちょっと取ってください!」
しかしその実態はガサツ、いや豪快というべきか。シンフォニックなジャケットをしながらもやってることはパワーメタルのように単純で力のままに演奏しているような彼女は
「そうですね、占いの結果!今日の夕ご飯はかつ丼がいいらしいですよ!」
「かつ丼か〜何かお昼食べたばっかなのにお腹空いちゃうじゃん。帰りに寄ってこうかな?有津実ちゃんはどう?」
「私は遠慮しときます」
「じゃあ……ってさっきから静かだと思ったらまたイヤホンしてないでよ、コルナちゃん!」
しるしが私のほっぺたを手で挟んだ。それによってようやく私は人間観察をやめて自らも観察対象に入ることになった。
「あーほへんほへん。で何だっけ?」
「帰りにかつ丼食べに行かない?」
「夕ご飯食べれなくなるからパスかな」
「そっか〜しょうがない、1人で行ってこよう」
女子高生の1人かつ丼は少し勇気がいる気がするが。
「そういえばコルナちゃん、何聴いてたの?」
「ん?これ実は今朝……」
私は今朝のことを話そうとイヤホンを外したその時だった。電車の轟音の中で聞こえるほどの音漏れ。それは昼休みの教室の喧騒では遮れるはずがない。ラッパーがラジカセを持って移動してるように廊下から音が響いた。しかし鳴っているのはヒップホップではなく——
「ごめんちょっと待ってて!」
私はすぐさま廊下へと飛び出し音なる方へと顔を向けた。
長い黒髪、私と同じ制服……電車で見た彼女だ。
私は彼女に近づき肩を叩いた。すると彼女はこちらに気づいていなかったようでビクッと肩をすくめて驚いた目でこちらを向いて左のイヤホンを外したて口を開いた。
「何でしょうか?」
私より身長が少しだけ高く、見下ろしてる目は瞼がすぐ落ちそうで気だるそうで
私はこの声を知っている。
「その曲Cannibal CorpseのDevoured By Verminですよね!私大好きなんですよ!ボーカルが変わってからの一作目ですのでまだ声が最近のほど激しさが足りない気はしますけどミックスとか古臭さもありながらも聴きやすいレベルのドロドロ感でいかにもデスメタルって感じだと思うんですよ!あ、私は
「
「次海ちゃんかーねえねえ次海ちゃんの好きなデスメタルバンドって何?」
「ごめん、ちょっと何言ってるかわからない。デスメタルって何?」
「へ?」
と言った問答してる間に流れ始めた二曲目はまだ私も買っていないSuffocationの新譜の曲だった。
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