293,サイコロと旅

「へいへいへいへーい! Longtemp《ロンタン》の皆さんおっはよーございまーす!」


 朝からうるさいな渦巻きデカ眼鏡ポニーテール。と、心の声が漏れそうになった。私、社会の荒波に揉まれて段々スレてきてるなぁ。


 9時半頃、私たちが机に突っ伏しているところに乱入してきたのはLongtemp のマネージャー、阿波あわ鳴子なるこ。28歳。いまいちばん行きたい場所は群馬県にある珍しい宝の館らしい。後ろに手を組み、何かを隠している。


 あからさまに不機嫌な菖蒲沢麗華、迷惑そうな穂純ちゃん、目を閉じたまま顔だけ上げた私。


「さて、きょうのお仕事はなにかな? じゃん!」


 と言って後ろに組んでいた手に持っているフリップを胸に当て、私たちに見せた。


 フリップに黒マジックで書かれたタイトルは『サイコロで決めるきょうのお仕事』。1〜6の目の順に、仕事内容が書かれている。


1,ちょっとおさんぽ。代々木公園でミニライブ。

2,意外と行ける! 札幌大通公園日帰りミニライブ。

3,ちょっとドライブ♪ 行川なめがわアイランドで野生動物探索の旅。

4,ちょっとドライブ♪ 茅ヶ崎里山公園のステージでミニライブ。

5,高速道路で行く仙台勾当台こうとうだい公園でミニライブ。

6,ど畜生! 丹沢たんざわ山頂でアカペラライブ。


 3は千葉県の行川アイランド跡周辺で繁殖している外来動物のキョンを探すだけで、もはやライブではない。6に関しては迷惑行為でしかないと思う。


「さて、誰かサイコロを振ってください! 他人任せにしてもいいけど結果に対する不満はNG。我こそはという人は名乗りを上げよ」


 なんて煽り文句に菖蒲沢麗華と穂純ちゃんが乗るはずもなく、あ、じゃあ、仕方ないので、私がサイコロ投げます。という流れになった。4よ、出ろ、出るんだよん。

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