1月19日
来週はまた雪が降るらしい。
「えー、通りでまた気温が下がってきてるはずだよー。もう雪はやだねー」
「本当にですよー。雪が降ったらまた地面凍って滑っちゃいますもんー」
「あはははー。ゆかちゃんはドジだからなー」
「先輩ひどいですよっ。私ドジじゃないですっ!」
「そのちっちゃい『っ』みたいな発音が余計にドジっ子っぽさを引き立たせてるよねー。マジドジっ娘属性強いわぁー」
「もぉー! 先輩のオタクー!」
「オタちゃうで。ワイはヲタやで」
「何ですかそれーワケわかんないですよっ!」
なんて会話を今日は同僚としてきたけれど、本当に路面の凍結は勘弁である。寒いだけなら構わないがどうして移動にさえ四苦八苦しなければならないのかという話だ。マジ雪勘弁。
「ううぅー。さっぶぅー」
部屋に入るとすぐにエアコンのリモコンを掴み温風を吐き出させた。
「早く暖まってくれぇー寒いのは勘弁なんじゃ~」
ぶつぶつ言いながらウールのコートを脱ぎ、床に放った。
仕事着のタイトなスキニーデニムを脱いでスウェットに履き替える。胸元にリボンをあしらったブラウスを脱ぎ洗濯かごに放り込んだ。
「ああああ! さむいさむいさむい!」
裏起毛のあったかパーカーをTシャツの上に羽織り、テーブルの前に座りPCを立ち上げた。
「さむいさむいー。うぅー」
私のベストプレイスである。
Bと違って私は仕事帰りの一杯(と言っても紅茶だけれど)を飲まないので、帰宅後は着替えるだけで真っ直ぐネットの世界にダイブする。
「暖かくなってきたぁ……ほえほえぇー」
ネットに繋がる頃には部屋は暖かくなっていて、もう何にも怯えることなくアフターファイブを満喫できるのだ。
この非リア充のアフターファイブを!!
……そう言えば。
私がこうして立派なアフターファイブ自宅警備員になったのも、元はと言えばBの所為なのだった。
私は高校の時に付き合った人以来、恋愛をしていない。
いや、今でも恋愛はしている。寧ろ相思相愛のラブラブなのであった。
なのでここでは『体験人数が一人しかいない』と敢えて生臭く表現しておくとしよう。
そう、そうなのである。
私はBに辛い思いをさせてまで経験をしたあの恋愛以来、Bのことを想っているので、世間体としては『長年恋人が居ない寂しい奴』であり『身持ちの堅いメンヘラヲタク女子』扱いなのだ。
いや何でだよ。
別に寂しくないし身持ちが堅くて恋人が居ない訳じゃないよ。て言うかメンヘラじゃないし。ヲタクだけど。
それに私は一人身だけれど独りじゃないし。私にはBが居るし。
だから寂しくなんてないし!
Bはちゃんと存在する人格だから空想の彼氏とかそういう悲しい奴じゃないし!
『二重人格設定』とかじゃないもん! Bはちゃんと居るもん!
……いや、違うの。そういう話をしたいんじゃなくて。
私はBの為に異性との恋愛関係を退けてきた、という話だ。
ずっとずっと私のことだけを好きなBに報いる為に。
私も私なりに応えてきたんだ、という話。
リア充ルートを華麗にスルーして、ど直球な球は一旦受け止めてからキラーパスして、クリスマスはクリぼっち、お正月は家族か友達と過ごして、顔の見えないバーチャル世界で親友を増やして、『異性との恋愛』という名の弾幕を覚えゲーしてきた結果がコレだよ!!
だから私が趣味全開で生きてるのは、実質Bの為なんだよなぁ。歪みねぇな、私。
だから、手紙には書かなかったけれど。本命の言葉を迂回しすぎてBには届かなかったみたいだけれど、Bが私に一途に想いを寄せているように、私も一途にBを想っているのである。
そりゃあまあ、触れ合ったり? 愛の言葉を囁きあったり? ちゅっちゅもぞもぞとか、いちゃこらしたり? そーゆーの出来ないけどさっ。
別に良いんだよ。そーゆーのは。
本心から、心の底の底の底、彼の生粋の心から、私だけを愛してくれていて、私の為だけに生きてくれている。って、そう心と身体と彼の記憶と感情から理解できるのだから、これ以上満たす心のキャパは、私にはないのだ。
「だから私がどう想ってるとか不安になんなくていいのになぁ」
もっと何も疑わず私だけを愛してくれていていいのに。
もっと盲目的に私のことだけを想っていればいいのに。
もっと、心も身体も記憶も感情も繋がれれば良いのに。
「……どうして私達は同じ身体を共有して生まれちゃったのかな」
同じ身体でなければ、こんなに愛し合うこともできなかったのだろうけれど、別々の身体で生まれていたなら、巡り会うことすらなかったのかもしれないけれど、そう思わずにはいられない。
「こんなに想ってても、私の気持ちは伝わらないんだもんなぁ」
だからBを困らせる。戸惑わせる。不安にさせる。
私の気持ちがBには分からなくて要らない心配をさせてしまっている。
ちゃんと私から言えばいいんだけどね、「好き」って。
「君のことだけが、ずっと好きだよー」って。
思ってるのに言わないから、身体を通して伝わんないから、私の『好き』はまだ私の心の壁を越えられずにいる。だからBは私の気持ちを知らないまま。
私の想いに不安なままなのだ。
「まあ……そーゆーこと考えて、それでまた私のことを好きになっちゃうとこがこれまた可愛くて、私から好きって言わないんだけどねー」
私がこんな風にひねくれてしまったのも、だからBの所為なのだ。
なんてな(笑)。
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