万華鏡散歩3/夢のうら
羽風草
第1話 いきもの
高校の教室で、席についてぼんやり授業を受けていた。机の上では丸いイキモノが昼寝していた。犬尻尾つきでハムスターみたいな顔で、ぽむぽむ跳ねて移動する。おもしろ半分でその身にシャーペンを刺すと、どこまでも埋まっていった。ドキドキした。
誰もがどこでもデジモン(ポケモンと違うのは、変化が思いのままだという点)みたいな小動物を連れている。蛇みたいなモノとか翼つきとかロボットっぽいのもある。今日も一緒に授業を受けて、一緒に掃除をした。先生のイキモノは黒板を消すのが下手だな、と思いながら黒板を拭き上げる。外見はどれも違っているけれどカワイイし、自分だけになつくこともいとおしかった。
先日来た転校生は長い黒髪の美人で、カービィみたいなイキモノを連れていた。彼女は無口で、なんとか聞き出した話は「どうしても眠ることができないから来た。ココにはいい先生がいるから」だけ。イキモノは飼い主とは逆に愛想良しで、ニコニコしててかわいかったのが救いかな、と思った。
その転校生が学校を休んだ。
先生からおつかいを頼まれ、男子女子の数人と彼女の家に行くことになった。しかしみんなの足取りは重い。「根は良い子だけど」「なんか暗いよね」「眠れないって言ってたね」「不眠症とどう違うのかな」みんな彼女のことは好きではなかった。
場面転換。その転校生の部屋。彼女はベットの上でピンクのイキモノに話しかける。
「どうして眠れないんだろう。もう何日も寝ていないのに、平気なのがかえって恐い。まるでこの人形みたいだ」
かたわらにあるポポちゃん人形を睨むと、音もなく白衣のおじさんが部屋に入ってきた。
「おや、気づいたのかい?」
「え? ……なに……まさか」
「この実験体も失敗か。うまくいっていたのに、計算違いだったな」
「違う。だって私は、お母さんもいるし」
「お母さんの顔が思い出せるか? 出ないだろう? そりゃあそうだ、お前は人形だから」
「やめて!」
「いつまでもうるさいな。『デリートせよ』」
とたんに彼女の身体が光り、イキモノに助けを求めながら霧のように散っていく。
残されたイキモノは、彼女のいた所をみーみー鳴いて探しだした。
医師は足元に残る光を踏みにじり、部屋を出た。
廊下には、おつかいに来ていた私たちが立ちつくしていた。
ガタガタ震える高校生集団を、医師は何事もなかったかのように優しく見つめた。私は一番手前にいた男子をこづく。
「あ、あ、あの…ププププリントを」
医師は家族に見せるような笑顔を浮かべた。
「おや、親切に。ありがとう。残念ながら彼女はココにはいないんだよ、すまないね」
「あんたが消したんじゃないっ!」
気の強い友達が叫んだので、皆で彼女の口を押さえたが、時すでに遅し。
医師の目が変わっていた。さっきの『我が子の友達を見る目』ではなく『餌の最後の時間を慈しむ目』の色だ。
無意識に生徒全員で後ずさる。
「そう、彼女は私が消したよ。元々生きてはいないからね。君たちも今のままでは帰れないけどね」
こちらが逃げるより早く、転校生のピンクのイキモノが医師の首に食らいついた。
「こいつ!」と医師は彼女のイキモノを乱暴に捨てる。
その隙に、全員のイキモノが変化した。剣やムチ、ボウガンになり、それぞれ主人を守る体制を作る。
医師は傷を押さえて睨みつけた。負けは明らかだ。
「命拾いしたな。またお前達と会うだろう」
捨て台詞を残すと、廊下の突き当たりの窓から飛び降りた。
彼女のイキモノは虫の息だった。投げつけられた衝撃に弱い形だったのだろう。
部屋は殺風景で最低限の家具しかなく、部屋の四隅にキラキラしたものが残っていた。転校生の残骸だ。
集めよう。
誰かが言って、みんなでひとつにまとめ、それとイキモノを見比べる。誰もなにも喋らなかった。
もう一度一度会いたいね、と誰かがつぶやいた。
その瞬間、集めた光のかけらが輝き部屋の中を白く照らした。
輝きがおさまると、彼女が立っていた。
後日、イキモノも助かり、転校生ともすっかり仲良くなった。
今度は一緒に立ち向かおう、と約束した。
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