第33話 モンスター取扱条例
町内にヒグマが出た。はやく追い出すなり撃ち殺すなりしないと作物や建物はおろか、人まで襲われかねない。さっそく町内会館に役員が集合し、ヒグマをどうするか話し合いが始まった。話し合いはすんなり進み、5分もかからないうちに町内会長が意を決した。
「今回はしかたないことだ、やるしかない。それでいいかな」
町内会役員たちがうなずいた。これ以上被害を出さず、それも簡単に町内からヒグマを追い出すには異空間に放り出すのが一番だろう。
今や人々の生活はすべてモンスター任せだ。電気を起こすモンスターは発電所で24時間放電させているし、火を吐くモンスターは製鉄所で火を吐かせている。水道、土木工事系、漁業、農業、林業。人の生活を支える場所にはモンスターが欠かせない。なかには異空間に行けたり宇宙まで飛べるモンスターもいるので、金を積めばSFや妖精が住むファンタジーな異世界移動も可能だ。
そのモンスターも自然界にあふれており、捕獲専門のトレーナーや育成専門のブリーダーも人気職業だ。
しかし便利な生活には問題もつきもの。人間の自分勝手な行動で、生態系が崩れだした。
モンスターを人の都合で大量捕獲や大量繁殖させたことで、病気や過労で倒れたモンスターが不法に廃棄されたり、繁殖先から逃げて野良となった逃亡モンスターなどが人の生活を脅かすようになった。ゴミを漁り、農作物を食べ、餌を奪われた野生動物が姿を消した。
これに危機感を覚えた一部の人々は、モンスターを使わない選択を導入した。
そのひとつが、この町内である。生活も仕事もすべて人の手と機械で行われている。モンスターに頼るのは人の手ではどうにもできない時のみとされ、主に災害時だけだ。それも役員数名以上と町内会長の承認が必要とされた。
今回は「モンスターの能力でヒグマと猟師を異空間に飛ばし、そこでヒグマを撃って、ヒグマの死骸と一緒に帰ってくる」ということとなった。
翌日。
追いつめられたヒグマと、猟銃を構えた猟友会の元に町内会の一同が集まっていた。役員たちが見守るなか、町内会長がモンスターセンターの有料レンタルサービスからレンタルしてきたボールをかざした。ボールにはAと書かれている。
ぱん、とはじける音がしてボールから異次元モンスターAが出てきて宙に浮いた。町内会長が叫ぶ。
「A、ヒグマと猟師を異空間へ飛ばしてくれ!」
モンスターがヒグマを認めると同時にぐにゃりとヒグマの周囲景色が歪んだ。
その時。
「F、ヒグマを八つ裂きにしろ!」
青年の命令で、凶暴なモンスターが飛び出し、命令どおり巨大な爪であっというまにヒグマを八つ裂きにした。
しかしその巨大な爪は塀を壊し家屋に穴をあけ、電信柱も折り倒してしまう。
ヒグマの死骸の上でFが吠えた。
事態に呆然とする町内会長と役員の前に、青年が自慢げに現れた。数年前まで町内にいた問題児。
「モンスターの使い方、わかってないなあ。もっと使っていけばいいのに」
青ざめた町内会長が肩を震わせる。
「なにしに帰ってきた!!」
「困ってるから助けてやったのに、なにそれ」
役員たちも猟友会たちも青年に食ってかかる勢いだ。
「被害を広げておいて、なんだそれは! お前はひとの家を壊してるんだぞ」
「町を壊して、使い方もなにもないじゃない! あなたみたいな人間がモンスターを苦しめるのよ!」
「ヒグマにも命があるんだぞ。八つ裂きなんて残虐なことをするとは」
青年は半笑いを浮かべたままだ。
「家なんて直せばいいだろ。修繕ならCとか上手いし」
「そういう問題じゃない!」
町内会長がずいと前に進んだ。
「なぜ帰ってきたんだ。モンスター自慢か。自慢したいか。そうやってモンスターを使うなら出ていってくれ。私たちはモンスターを使役しないことにしたんだ。もう、ここはおまえ向きの場所じゃない」
青年は表情を消した。そしてモンスターをボールに収納すると、黙って町内から出ていった。
ここで目が覚めた。
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