第14話 銭湯事件
自分は女探偵の助手だ。
今回の現場は銭湯。湯船に入っているお客さんが何者かに多量にロウをかけられ、そのまま固まって死亡している。それも、被害者は一人だけではなく、湯船に浸かっている人、身体を洗う人、親子、老人が入浴中の姿のまま蝋人形にされていたのだ。固められている人間しかいない浴場は、異様な光景だった。
銭湯の主人は犯人も目的も心当たりがないという。
探偵の目が光った。
「これはあのバカ芸術家しか考えられないわ」
どうやら探偵には心当たりがあるらしい。
そいつは自称芸術家の通り魔だそうだ。排他的な現実を表現するとか言って、通りすがりの一般人の服を切り裂きながら歩いたり、時間の流れを止めると言って溶けたロウを散歩している小型犬にかけ流し、動物虐待で逮捕された過去がある。
迷惑行為すぎるだろ。話を聞きながら、銭湯の主人と目を合わせてげんなりする。
「じゃあ探偵さんの言った、そいつの仕業なんだな」
「ええ。絶対そうよ。こんなひどいことをして、許せないわ」
「いやいやいや先生、待ってください。断定は後回しですよ。まず本人に聞いてからでしょ」
さすがに助手の自分でも、いきなり特定するのはまずいと思うんだけど。
その時、大きな音が上がった。脱衣所の天井を突き破って重そうな物が落ちてきたのだ。
みんな、絶句した。
なんとその自称芸術家が全身ロウに固められた状態で落ちていたのだ。
「あら、ここにいたのね。ちょうどいいわ」
同時に、まるで魔法が解けたように銭湯の客たちのロウが溶け落ち始め、被害者全員が息を吹き返した。
ロウから解放された人たちに銭湯の主人が感激するなか、女名探偵が満足顔で言った。
「私の手にかかっちゃこんなもんよ!」
あんた、なにかしたっけ。というツッコミはしないでおいた。
ここで目が覚めた。
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