第10話 残された者たち
そこは身寄りの無い人たちの仮住まいのような場で、大人も子供も女も男もいた。老人も、病のために動けない者もいた。誰もが誰かを助け支えながら住んでいた。
穏やかだった住処は、灰色の男たちが来て一変する。
はじめに、若い男たちがどこかへ連れていかれた。
次に若い女たちが連れていかれた。
灰色の男たちから準備する時間も与えられないにも関わらず、ひとりも抵抗せずに連れて行かれた。行き先は誰もわからない。あれは命令。反論も許さない。そう雰囲気が物語っている。
共通することは、連れて行かれる誰もが、後ろ髪を引かれつつ去っていったことだけだ。
残ったのは子どもと病人と老人だけ。特に子どもたちは不安になった。
「みんなどこへ行ったの」
「帰ってくるの」
子どもたちの問いかけに、大人たちはなだめるしかなかった。これからもここでの生活は続く。戻らない者を待つような無駄な希望は持たせないほうがいい。しかし、その大人たちの懸念も続かなかった。その二日後には、残りの大人全員が連れて行かれたからだ。
いよいよ十代から下の子どもたちだけとなった。
「ねえどこへ行くの」
「もう誰も帰ってこないの」
幼い子たちはさらに不安がる。それを年上の子供たちがなだめた。もう大人はいない。これから明日の食料も自分たちが探さなければいけないのだ。
しかし、その十代の子達も、数日後には男たちが迎えに来た。
「どこへ行くの」
「行かないで」
幼い子たちは血のつながっていない兄姉に泣きすがった。灰色の男たちはそれを乱暴に引き剥がし、威嚇した。その威圧感に、幼子たちは怯え、そのまま遠ざかる背中を涙目で見送るしかなかった。
幼い子ども8名が最後に残った。
食べ物のある場所なんか知らない。水をどこから汲めばいいのかも知らない。火もどうやって点けるのかわからない。
どうしよう。どうしよう。
みんなでしばらく泣いていた。
泣いて泣いて泣き疲れ、うたた寝した。
雨が降りそうな空を見上げ、9歳の男の子がつぶやいた。そこではもう一番年長になる。
「みんなどこへ行ったんだろう」
そこにいる誰も答えを知らない。
「いったい誰が連れていったんだろう」
それも知らない。
男の子はそっと、そこを出てみた。出ていくのははじめてだった。
寂れ乾いた街には、灰色の男たちの影もない。
おそるおそる、足を進めた。街に出た。
崩れたビルがいくつもあり、奥を覗くと、時々自分たちと似たような集団がいた。どこも子どもしかいなかったし、誰も連れていかれた先や連れていった人のことを知らなかった。教えられていなかった。
「みんなどこへ行ったんだろう」
「いったい誰が連れていったんだろう」
男の子はその街を出ることにした。
連れて行かれた大人たちを探すんだ。
そして、いつ帰ってくるのか聞くんだ。
ここで目が覚めた。
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