第8話 仕事
うちの会社の定期会議は、床に体育座り状態になり、エライヒトの話を聞かされる。部活の合宿の反省会か、といつも思う。
その夜もぎゅうぎゅうに詰め込まれた一室の片隅で小さくなってぼんやり報告を聞いていたところを、同僚が息を切らして入ってきた。狭いところをさらに身をねじ込んでくる。
どうやら仕事場から直で来たらしい。服があちこちすり切れ、泥や草もそのままだ。手をあげて小声で「お」と言うと、同僚も手をあげて「おう」と応えた。互いの無事を労う気持ちが伝わる。
「なんかぼろぼろじゃん」
「それがさあ。聞いてくれよおおお」
げんなりする顔に、つい期待する。どんなネタが出るんだろう。
「なになに」
「…吸血鬼だった」
「ぶはっ」
それはお気の毒。
「聞いてないよおおお。部長も先に言ってくれっての。こっちは準備なんかしてるわけないじゃん、おかげでぼろぼろ」
はは。そりゃスーツとPCだけじゃ太刀打ちできないよな。相手は闇に潜むんだから。同僚には悪いが、想像するだけで笑ってしまう。笑いをこらえながら同情もするが。自分ならたまったもんじゃない。
「それで、どーしたの」
「脱兎のごとく逃げました」
「わはははっ。災難〜〜」
「災難だぜ。こっちは誰も銀製品なんか持ってないし、そもそも近寄ることなんかできないじゃん。で、逃げたら気づかれてこの通り、ぼ・ろ・ぼ・ろ」
「おつかれー」
「おう」
「なんかさ。増えてるらしいよ、吸血鬼」
「どーりで…」
「いやホントおつかれー。わはははは」
世界中の生き物にGPSをつける仕事は、けっして楽じゃない。 でもこういうスリルがたまらない。
ここで目が覚めた。
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