第82話 安息14

居合の構えをして、すり足で近づく。

距離は4間。もう必殺の間合いだ。


いくぞ! 


「ハッ!」


片手半剣を抜刀。連(レン)にて強化された足と腕で持って高速の一撃をお見舞いする。

敵を斬る時に浸(シン)にて強化もする。


「なッ!」


だが、その一撃は敵のこん棒によって阻まれた。


馬鹿な! あのこん棒程度なら一刀で両断して肉を斬り裂いていたはずだ。

それが、まさか受け止められるだと?


ハッと気づいて観(カン)で敵を見る。


「やはりか……」


敵のこん棒は魔力で覆われていた。

つまり、相手も魔闘気で武器に浸(シン)で強化していたのだ。

そして必殺の一撃を受け止めたと。


「伊達に、Bランク程度の魔物じゃないな。まさか、魔闘気を使うなんて思ってもいなかったよ」


オークキングは不敵な笑いを浮かべている。

咄嗟に剣を引いて、後ろに下がる。


オークキングは強化した足で図体からは想像もできない速度でこん棒を振り下ろしてきた。

紙一重でそれを交わして、水平に剣を薙ぐ。


オークキングの胴に軽く剣が斬り裂く。

血が流れている。


だが、それも次第に傷口が塞がっていく。


「こいつも再生持ちかよ!」


なんでこうオーガの変異種とかオークキングとかの変異種は総じて再生持ちなんだよ!


一度、距離を取る。8間まで下がった。

辺りを見回すと、右側面は完全に片付いており、左側面の増援に向かったようだ。

次々と、横合いから来る冒険者達と正面の冒険者達の抵抗でオークが倒れている。


正面はかなり優勢だ。もう、ほとんど敵はいない。

この調子なら後は左側面の一部とこのオークキングだけだろう。


「リリィ! 全力で行くから、後は任せて良いか!」


叫びながらリリィに声を掛けた。


「うん! 任せて!」


よし、なら行くか。


目を瞑り、瞑想する。

血液が激しく流れるように。

細胞が活性化するようにイメージする。


爆発的に魔闘気が膨れ上がる。炎のように揺らぎ、身体を覆っていた。

炎(エン)を使った。

そして、観(カン)をしながら近づく。


炎(エン)に観(カン)を使った。

なら直ぐに決着をつけるまで!


相手も魔闘気を使うなら、それ以上の魔力で斬り伏せれば良いだけだろうがよ!


上段の構えで、近づいていく。


距離は5間。行くぞ!


瞬動を使い、右袈裟に斬る。

オークキングはそれを浸(シン)で強化したこん棒で防ごうとするが、炎(エン)で爆発的に強化された魔力で浸(シン)で相手のこん棒を両断。

そのまま、相手の身体を斬り裂く。

だが、こん棒があった為に、身体の奥深くまで切り裂いていない。

まだ、表面をなぞった程度だ。


この程度では直ぐに回復される!


瞬動の加速を連(レン)で強化した足で大地を踏みしめる。

そして、反転。何かの切れる音はしなかったが、足が軋むように悲鳴を上げていた。

それを無視する。

居合の構えを取り、高速で抜刀。


「ハァッ!」


――紫電の太刀。


その一撃に、オークキングの首が飛び跳ねた。


そして、その一撃で地面に倒れる。

魔力切れの兆候だ。


「お兄ちゃん!」


リリィは防護柵を魔法で一部破壊する。

ジークがやってきて、肩を借りる。


「ありがとう。なんか前にもこんなことあったね」


「ああ、そうっすね。アニキ。あの時は本当に死ぬかと思いましたよ」


「今回も死ぬかと思ったけどな」


「はははっ! 確かに違いないですね。でも、もう残党だけですよ。数も10くらいだ」


「そうか。じゃあ、悪いけどまた魔力切れなんだ。眠らせてもらうぜ」


「はい、任せてください」


「お兄ちゃん大丈夫?」


「ああ、大丈夫。魔力切れで眠いだけだ。寝たら直ぐに回復するさ」


「そっか。よかった」


「うん。じゃあ、寝るわ……」


そうして、私は意識を手放した。




目を覚ますと、夕暮れになっていた。


「あ、お兄ちゃん起きた」


リリィが顔を覗き込んできている。


「おはよう。リリィ」


「おはよう。お兄ちゃん。光精霊さんに回復魔法をかけてもらったけど、どっか痛いとこある?」


回復魔法をかけてもらったのか。

足にかなり負担が掛かってたと思ったけど、痛みはない。

立ち上がってみる。

うん。大丈夫そうだ。


「ありがとう。痛くないや」


「良かった」


リリィはほっとしたようだ。

にしても良く生き残れたもんだな。

防護柵ありきだけど、120ものオークを30人で討伐したんだ。

これはかなり凄いんじゃないか?


なんて言ったってゴブリンじゃないからな。Dランクの魔物の大群だ。

それを倒したんだから、この冒険者達も相当やるよな。


「あ、アニキ。起きたみたいですね」


ジークから声が掛かった。冒険者達はジークを囲んで集まっていたようだ。

とりあえず、ジークの下に向かう。


「ちょっと討伐報酬の件でもめてやして……どうしますか?」


そうか、討伐報酬か。そういえば、1体70コルは出すとか言ってたな。

まぁでも、めんどくさいからな。


「120体いたんだし、一人4人分で良いんじゃないか?」


私の言葉に冒険者達から驚きの声が上がる。

なんだ? そんなに変な事言ったかな。

防護柵を作ったのも、守ったのもみんなでやったことなんだからいいじゃないかね。


「あ、アニキ! アニキだけで、40か50は倒したんですよ! なのにそんな簡単に決めちゃって良いんですか?」


「良いよ。防護柵を作ったのも守ったのもみんながいたから出来た事だろ。私一人じゃ倒せなかったんだしさ」


「アニキ……! 流石っす」


他の冒険者も感動している。

まぁ、良いけどさ。


「でも、とりあえず、オークキングの魔石は受け取ってください」


ジークの声に他の冒険者も頷いている。

皆納得してるならいいか。


「分かった。じゃあ、それは貰うよ。あとは、みんなで人数分で割るか」


「よーーーーーーーーーーーし! 聴いたか皆! アニキのお言葉通り揉めずに一人4討伐と魔石4つだ!」


既に魔石は取り終えていたのか袋に大量の魔石を取り出して、冒険者達に配り始めた。

そして、私の時に一回り大きい魔石と3つの魔石を配られた。

これが、オークキングの魔石か。どのくらいの値段で売れるのかな?

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