第80話 安息12
「ハッ!」
木を浸(シン)にて強化して抜刀する。
片手半剣は半ばまで入る。
「セイ!」
二撃目にて気を両断する。木が倒れる音が響く。
さて、この木を持っていかないとか。
どうすれば良いだろうか。ジークに相談するのがいいか。
ジークの下に向かう。彼は、拠点の中心にて冒険者達の指揮を執っていた。
「おーい、ジーク」
「あ、アニキじゃないですか。やっぱり、アニキも参戦してたんですね」
「まぁね。不本意ながらね」
「そうですか」
「んで、木を切ったんだけどどうやって持って行けばいい?」
「早いっすね。とりあえず、馬を何頭か使ってロープで持って来ることにします。アニキはそのまま木を伐採してください」
「わかった。じゃあ、場所は教えるから運搬はお願いするよ」
ジークに場所を教えて、その場を去る。
私は木を切る専用になったようだ。
まぁ、魔闘気の鍛錬にもなるから良いけどね。
同様に木を10本程切った所で昼頃になった。
拠点を見ると大分、柵も出来始めているようだ。
70m四方の場所にコの字に柵を立てている。
柵は紐で結ばれており、斜めに尖った槍のような木が付けられている。
これなら、敵の突撃に対してもある程度、対応できるか。
まだ、コの字には出来ているが、槍はまだそこまで出来ていない。
冒険者達は斧やハンマーで木を切ったり、地面に打ち付けている。
先に昼食でも取ることにするか。
リリィと馬がいる所に戻る。
「リリィ、ご飯にしよう」
「分かった」
保存食を簡単に食べながら、冒険者達の様子を確認する。
さて、オークの大群にどう対応できるかどうか。
「お兄ちゃん。今はどんな感じなの?」
「そうだねぇ。とりあえず、防護柵を作って拠点を強化している。これがあれば大分、堅い拠点にはなるよ。でも、オークの群れがどの程度いるか。それが一番の問題かな」
「柵を作ってもオークが多かったら壊されちゃうってこと?」
「そういう事になるね。こっちの冒険者は40人。そのうち戦力となるのは20人と少しってところかな。それに相手の数は100から200程度。まぁ、簡単に言えば、結構絶望的だよね」
「そっか。じゃあ、リリィも頑張らないとだね」
握りこぶしを込めてやる気を出している。
出来れば前線に出て欲しくはないんだけどなぁ。
でも、リリィの精霊魔法はかなり役に立つ。
なにせ、精霊魔法は魔力の消費がないのだ。
魔力のいらない固定砲台だ。
寧ろ、この拠点の要になるかもしれないな。
「とりあえず、まだ戦闘はないけどリリィ。精霊魔法は水と土だけにしてね」
「どうして?」
「それ以上の魔法が使えると思われると、下手に目立っちゃうからね。水と土だけ使える魔法使いって扱いにしておきたいんだ」
魔法は基本、一般人は一つも出来ないか一つの属性が使えるか程度だ。
二つだけしか使えないとなればそこまで珍しいとは思われないだろう。
「わかった。でも、危なくなったら使っちゃうかも」
「それはリリィの判断に任せるよ」
そうして、休憩を取った後に、木を伐採しに行く。
夕方になった。柵は大体出来たようだ。
そこまで堅いわけではないが、木が立てられている防護柵があるだけマシだろう。
と、森の奥から偵察に出ていった4人が馬に乗って戻ってきていた。
その4人はジークの下に行って会議しているようだ。
「おーーーい! みんな集まってくれー!」
ジークの大声が響いた。
その声に冒険者達がジークの下に集まる。
私達もジーク達の下に向かった。
「敵の数と場所が分かった。じゃあ、説明頼むぞ」
そう言われた、ジークのパーティーの斥候が説明する。
「まず、敵の数はうちらの3倍くらいの数だ。場所は北に馬で半日と言った所だ。オークの群れからして後、ここに来るのは明日の朝か昼頃になるだろう」
冒険者の人数は40人だ。
つまり、120と言った所か。
使える冒険者は20人と少しだから、6倍の戦力差だ。
斥候の声に一部の冒険者から声が上がる。
「お、俺は戦闘は出来ない。だから下りさせてもらってもいいか?」
その声に続いて「俺も」「俺もだ」と声が上がる。
「ああ、分かった。戦闘出来ないものは逃げてくれて構わない。戦える者だけで戦う」
「ありがてぇ」
そう言って、冒険者達は立ち上がり、その場を去っていく。
10人程の冒険者が消えていったか。
30人も残るとは思っていなかったから思わぬ誤算だな。
これなら結構いけるか? 戦力さは4倍だ。残った冒険者がどの程度の実力かはわからないが、使えないってことはないだろう。
「俺たちは、この30人で戦う事になる! 正面に14名を配置して、左右に7名ずつ。それと、幼龍殺しがいる! その人には遊撃として全線で戦ってもらう!」
にっこりと笑顔を浮かべてこっちを見てくる。
え、聴いてないんですけど。前線ってことは拠点の外で戦うって事だろ? 一番危険なポジションじゃないか。
だが、冒険者達からは「あの幼龍殺しが……」「これなら勝てる」「安心だな」
と、声が上がった。
なんか士気を上げるために体の良いように使われた気がしなくもないけど、まぁ、良いか。
これで、奮戦してくれるなら良い。
「今日はもう休んでくれ。明日の早朝から昼頃に決戦だ。今日はもう疲れただろう体力を回復するんだ。では、解散」
ジークの声に冒険者達は立ち上がり、思い思いに自分の寝床に戻っていった。
私はジーク達の所に向かう。
「おい、ジーク。余り目立たせないようにしてくれよ」
「すみません。アニキ。でも、こうでもしないと逃げるやつもいるかもしれませんからね」
それもそうか。
私も最初は半分の20人しか残らないと思っていたからな。
「まぁ、良いか。んで、俺は遊撃として戦って欲しいんだろ? 大将首でも狩れば良いのか?」
「それが出来るなら一番良いんだけど……」
ジークは地面にコの字の線を描く。
「まず、正面に14名。左右に7名配置します。相手は正面から来るでしょうが、あぶれた奴は左右に来るでしょう。そこで。アニキは左側面か右側面に周り込んだ相手を倒してくだせい。そこから一気に、正面の敵を左側面か右側面の味方を率いて側面から追撃です」
「なるほどな。それなら、かなりの損害が与えられるな。でも、残された左側面か右側面はどうするんだ?」
「正面の敵が減ったらそこから味方を援護に行かせる予定です」
「そこまで分かってるなら私も覚悟しよう。大将首を取ってくるよ」
「お願いしますよ。アニキ」
拳を突き出してくるので、拳を合わせる。
不安は残る。
リリィの事を守れるかどうか。
オークの変異種を倒せるかどうか。
まず、この作戦が上手く行くか。
冒険者達は凌いでくれるか。
それは、神のみぞ知るってことかな。
とりあえず、今日は寝よう。
明日は戦争だ。
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