第34話 羨望12
二日間の休みを貰った。
と言っても、やることがあるわけでもないのだけどね。
特に、魔物を倒したわけでもないので魔石の売買をやることも冒険者ギルドに寄る事も必要ない。あ、そういえば保存食を買い足しておかないとか。
それは、大事な事だけど、どこで買えば良いのだろうか。道具屋では売っている気配はなかったけどな。
早朝、宿屋の食堂で一人で朝食を食べながら今日やることを考える。
とりあえず、保存食は買いとして、冒険者ギルドにも一応、顔を出しておくか。何かあると依頼があるかもしれないしね。
その前に、保存食はどこで買えるか聞いておかないと!
「あのーおばちゃん。保存食ってどこで買えるんですか?」
おばちゃんはその声にちょっと驚いたようだった。ん? なんか変な事聴いたかな?
「おや、知らなかったのかい? 干し肉とかならジャックが作って売ってるんだよ」
「え、そうだったんですか? 知らなかった……」
灯台下暗しっていうのはこういうことなのかな。そりゃ、猟師をやっているんだから、狩った肉は売ったり、干し肉にしたりするのは普通か。
「ありがとうございます。早速、ジャックのとこに行って干し肉を買おうと思います」
おばちゃんにお礼を言って、トレーをおばちゃんに返す。
「良いってことさ。はい、どうもね」
「今日も美味しかったですよ」
「そうかい。そりゃ良かった」
おばちゃんは陽気に笑った。私も笑い返して、宿を後にした。
さて、まずはジャックの家に行くか。ジャックの家に着くと、外で皮の鞣し具合を見ている所を見つけた。
「おはよう。ジャック」
「あ、おはよう。アラン! 今日はどうしたんだい?」
「ああ、干し肉を買いたくてさ。宿屋のおばちゃんに聴いたら、ジャックが干し肉を売っているって聴いて来たんだ」
「なるほどね。とりあえず、家に入ってよ。エリシャも喜ぶからさ」
「わかった。お邪魔するよ」
二人して、ジャックの中に入る。「お邪魔します」と声を掛けて、中に入るとエリシャさんが私の姿を見て微笑んでくれる。
「わぁ! アランさん。どうしたんですか?」
「干し肉を買いに来たんだけど、アランが家で待ってて言ってね」
「そうでしたか。では、寛いで待っててください」
「うん。そうさせてもらうよ」
私は勝手知ったる家のように席に座る。そうすると、ジャックから声がかかる。
「アラン! 干し肉はどのくらい欲しいんだい?」
その言葉に指を折って考える。残り三週間のこの依頼だからといって三週間分もまとめて買ってしまうのもなぁ。とりあえず、一週間分で良いかな。
「一週間分でお願いするよ」
「わかった。持ってくるから待っててね」
ジャックは隣の部屋に行ってしまった。エリシャさんがすかさず、お茶を出してくれるので、「ありがとう」と言って飲む。
「アランさん。ジャックはどうですか?」
「どう……とはどういう意味ですかね?」
「そうですね。おっちょこちょいをしたり、足を引っ張ったりとか……ですかね。あの人、ちょっと抜けているので心配で」
エリシャさんはジャックが心配なようだ。でも、森の中に入るとジャックは一気に真剣味を帯びる。ここでのジャックと森の中で狩りをしているジャックとではイメージが全然違うのだ。
エリシャさんはその事を知らないんだろうな。
「しっかりしてますよ。自分が言うのもなんですが、真剣で狩りに対して一生懸命ですね」
「そうですか。なんかここにいる時とは違う感じがします」
「あ、でも、子供っぽいところもありますね。この前なんて猪の睾丸を知らずに食べさせられたんですよ!」
「あはは、あの人らしい悪戯ですね。私も良くされます。……でも、そんなところも可愛らしいんですけどね」
顔を真っ赤にして両手を合わせて微笑む。
「はいはい。惚気ですね。ありがとうございます」
「い、いえ! そんなつもりじゃ!」
エリシャさんが必死に手を振って否定しようとするが、完全に惚気です。本当にありがとうございました。
「おーい。アラン! 一週間分の干し肉持ってきたよ。……って何の話をしてたの?」
タイミング悪く入ってくるジャックにエリシャさんはささっとトレーで顔を隠しながら「私はこれで!」と台所に帰ってしまう。
「なんかタイミング悪かったかな?」
「いや、傷心気味だから言いタイミングだったよ。グッジョブ」
「そうかい? なら良いけど」
「んで、一週間分で何コルになるんだい?」
「ああ、そうだった。一週間分で14コルだね」
「はいよ。じゃあ、14コルぴったしで」
鉄貨1枚と青銅貨4枚を渡す。ジャックはお金を確認すると、干し肉の入った袋を渡してくるので、それを受け取って、席から立ち上がった。
「じゃあ、干し肉も買えたし帰るよ」
「うん。どうも毎度ありがとうね」
「はいよ。じゃあ、また明後日に」
ジャックの家を後にして、次は冒険者ギルドに向かうことにした。
何か面白い依頼や情報があればいいんだけどな。
冒険者ギルドに着いたのでドアを開けて、受付にいるギルド長に声を掛ける。
「おはようございます。ギルド長」
「ああ、アランかおはよう。今日はどうしたんだい?」
「なにか面白い依頼か情報があればなと思って来た次第ですはい」
「そうか。面白い依頼はないけど、情報ならあるよ。とりあえず、席に座って待ってな」
「わかりました」
どうやら、情報があるのだろうか。だけど、ギルド長はちょっと気だるげにこちらに向かって来る。いや、いつも通りか。対面に着くと「よっこらしょ」と言って、席に着く。ギルド長はおばさん臭いです。
「んで、情報ってのはどんな情報で?」
「三日前だが、行商が来た」
「お、それは良い事ではないですか」
そうだ。隣町で暴れていた盗賊団が行商を襲っていたのだ。そして、隣町が警備を厚くしたことによって、盗賊団は行商を襲わなくなったという話だ。
つまりだ、消えた盗賊団はどこに向かったのかという話で、隣町の首都側の村に行くかそれともこの村に場所を移動するかという事。
そして、行商が隣町から来たとなるとこちら側には盗賊団は来ていない可能性がある。
ということだ。
「……と、思うだろ。でも、その行商はカラエドから隣町まで行く行商だったんだよ」
「はい? つまり、まだ盗賊団がどこにいるか分からないってことですか?」
「そういうことさね。そして、そろそろ隣町から来る行商がまだ来ていないんだ」
「え、本当ですかそれ。でも、どこかで足止めを食らってる可能性もあったりとかはしないんです?」
「まぁ、そうだね。一週間くらいは遅れることもある暢気な行商な奴だから、まだ着いてないのも遅れているだけってこともある」
「で、ですよねー……」
「でも、最悪の場合、その行商が襲われている場合もある。その場合、隣町とこの村の間のどこかに盗賊団が住み着いた可能性があるってわけだ」
「う、うわぁ。でも、それって最悪の場合ですよね」
「そうさ。一応、まだ一週間は行商が来るまで時間が掛かっているだけかもしれないからね。でも、一週間以上遅れた場合はなにかと考えたほうが良い」
深刻な話だ。胃にずしんと来るような重みのある話だった。カラエドから隣町に向かった行商さんがちゃんと着くことを祈るしかない。
「まだ、カラエドからこの村まで来る行商は大丈夫そうだから。最低でも、冬は越せそうだけど……盗賊団が今度はこの村を襲ってきたら……」
「襲ってきたら?」
「抵抗できずにやられるしかないだろうさ」
うわぁ……どうすんのさこれ。最悪の未来しか予想できないんだけど。
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