第5話 目覚め4

「ギルド長と領主様? それはかなりのお偉いさんじゃないか。私、なにか変な事でもしたかな」


「まずは、冒険者ギルドに行くぞ。領主様にも使いを走らせたから、すぐに来るだろう。話は歩きながらしよう」


「わかった」


そう言って、席を立つ。どうやらなにか話が大事になっている気がする。私にはなにも身に覚えがないのだけどなぁ。


「では門番さん。ありがとうございました」


「ああ、良いってことよ。領主様に粗相のないようにな。もしかしたら首を刎ねられるかもしれんぞ」


兵士さんはにやついた笑みでこちらを見ながら手を振る。

詰所を出て、門の前で審査をしている番兵にアレンが耳元で囁くと、「早く入れ」と言い、私たちを通した。

門を抜けると煉瓦作りの建物や木造の建物が多くみられ、道の両端では露店商が野菜や果物の食料品、アクセサリーや使い古されているだろう汚れや錆が付いている武器に一部へこんでいる防具等の多くの露店が所狭しと並んでいる。所謂、バザーみたいな感じだ。チラチラと露店を見ていると、アレンに「後で好きなだけ見ていいから今は付いて来い」と言われ、渋々着いていく。


大通りを10分程歩くとT字路の目の前に剣と筆のマークが入っている大きな建物が目に入ってくる。あれが噂の冒険者ギルドだろうか? 剣と筆には一体何の意味があるのだろうか。


「アレン。あれが冒険者ギルドかい?」


「そうだ。冒険者ギルドだ。俺みたいな奴が依頼を受け取ったり、報酬を受けたりする。所謂、仕事場みたいなもんだ」


冒険者ギルド目の前まで、到着して中に入る。中に入ると右手に学校の教室にある黒板くらい大きい木の板があり、そこに釘で紙が至る所に貼りつけられている。これが、依頼書ってとこかな。また、左手には食堂を兼ねているのか酒や食事を取っている冒険者らしきものも見られた。今は大体、昼頃なのだが依頼は受けなくていいのだろうか? 冒険者は自由な人が多いようだ。そして、正面には受付が5つあり、女性や男性がなにか書き物をしていたり、冒険者に対応していた。アレンは受付で空いている男性のとこまで行くと、小声で話しかける。


「……先ほどの話の件だ。ギルド長の部屋へ入ってもいいか」


「なるほど。この方が……。わかりました。二階からどうぞ。スタッフ専用の扉を開けて真っすぐ進めばギルド長の部屋に着きます」


「わかった。じゃあ、行くぞアラン」


「うん。わかったよ」


受付の男性の舐めるかのような視線に委縮してしまったが、アレンの言葉に頷いて後ろ姿を追いかける。


「ちなみに、今のはサブギルド長だ。ギルド長と領主様に話を通して置いてくれたのもあの人なんだぜ」


「なるほど。門を通らせるようにしてくれたのもあの人なのかな。感謝しないと」


二階に上がり専用扉を通って真っすぐ進むと目的のギルド長の部屋へ着く。そういえば、領主様とギルド長の話の時にはアレンはいるのだろうか。いないと正直、粗相をしてしまったりするかもしれない。兵士さんの言ってたように首を刎ねられる事はないかもしれないけど、なにがしかの罰は受けるかもしれない。そう思うと不安になってきた。


「……アレン。話し合いにはアレンは一緒にいてくれる?」


「そう不安がるな。大丈夫だ。俺にも聴きたいことがあるみたいだから話には参加する。それに、領主様もギルド長もそんな硬い方じゃない。敬語を使わない程度じゃなにも問題はないさ」


「そうか。良かったよ。もしかしたらアレンがいないかと思ったから」


「臭い事言うんじゃねえよ。おら、ノックするぞ」


アレンは照れくさそうに頭を掻くとドアをノックする。中から、「入れ」という声が聴こえてきたのでアレンは扉を開けて中に入る。私もその背に遅れないように入る。ギルド長の部屋は両端の壁が本棚で埋まっており、中心に長机と椅子が6席。一番奥には白髪交じりの50歳くらいの男性が机の上で書き物をしていた。

彼はペンを置くと、席を立ち近づいてくる。


「私がギルド長のノックスだ。よろしく頼む」


アレンは一礼すると、私を見やる。私も一礼する。私も挨拶したほうが良いのだろうか。アレンの方に視線を向けると頷いている。多分、挨拶しろということなのだろう。


「私は、アランです。今は記憶喪失なので本名はわかりませんがアランと名乗っています」


「そうか。詳しいことは領主殿が来られたら話をしよう。さぁ、席に着いてくれ」


アレンが一番奥側の椅子に座ったのでその隣の真ん中の席に座った。ギルド長はアレンの反対側に座っている。一瞬の静寂の後、扉が大きな音を出しながら開かれる。


「やぁ! 待たせたね」


そう言って入ってきた男性は恐らく貴族だろう。つまり、この町の領主様。実質、一番偉い人だ。

服装はいかにも貴族風といった赤い服装に黒のズボン。ア〇ゾンで調べたら出てきそうな恰好で、見るからに貴族と言える服装だ。年齢は40手前くらいだろうか、まだ若く覇気に満ちている。


「遅いぞ、デニス」


ギルド長がそう言うと、領主様は頭を掻いた。


「いやあ、これでも言伝を聴いてからすぐに来たつもりなんだが」


「どうせ、服装に関して奥方に色々言われて遅れたのだろう」


「耳が痛いね。まぁ、その話は置いておこう」


領主様は一同を一瞥した後、私を見て尋ねる。


「して、君がアレンの言っていた人で良いのかな」


「あぁ、間違いないぜ。記憶喪失で名前も何もかも忘れてしまっているようだがな」


「えと、アレンの言ったとおりです。今はアレンに名付けてもらってアランと名乗ってます」


領主様はギルド長に目配せする。ギルド長はその視線に対して何も言わず無言で頷いた。


「ふむ。審議判定の魔道具にも反応はない。虚偽があった場合、音が鳴るようになっているのだが、どうやら本当のようだな。失礼したね。私はこの町の領主のデニス = ランドだ」


そんなものがあるのか。というか私の言葉に嘘が混じっていたら一体どうなるのだろうか。斬首とか。いやそんなまさかね。でも、嘘はつかないようにしよう。面倒に巻き込まれたら困る。


「そんなまどろっこしいことしなくても嘘なんて言わないさ」


「わかった。じゃあ、アレン君の話を聴いてから再度、アラン君に話を聴くようにしよう。アレン君、今までの経緯を離してくれ」


「はいよ。――」


アレンは、冒険者ギルドから新規に発見された洞窟の探索依頼を受けて洞窟にて探索を開始。地表から4層程の地下にて巧妙に隠された古代文明と思われる扉を発見し、その中でアラン。私を発見する。洞窟はまだ調査しきれていないが、私を保護するために洞窟から抜け出して町に向かってここまで来た。


「なるほどね。依頼中だとしても人命が第一だ。アレン君の行動は称賛されることはあっても非難されることはない」


「ああ、その通りだ。ギルドとしてもその点については何も咎めるつもりはない」


「そりゃあ、ありがたい」


「では、アラン君にいくつか質問をしようと思うが宜しいかな?」


「はい、どうぞ」


「君は、記憶喪失で間違いない」


「はい」


「名前や出身地、家族の名前についても心当たりはない?」

「はい、そうです」


「そうか。この町に害を及ぼすために訪れた」


「いいえ、違います」


「では趣向を変えよう。君は目的を持ってこの町にきた」


「……はい、その通りです」


「その目的は話せる事かな?」


「はい、目的は妻を探すためです」


「妻……か。君は記憶喪失であるにもかかわらず妻のことは覚えている、と」


「はい、名前は思い出せませんが、大切な人なんです。どうにかして見つけたい。それが、この町に来た目的です」


「……すべてにおいて嘘はなかった。アランとやらは本当のことを言っている」


ギルド長は領主様に告げると、大きく息を吐いた。領主様も肩の荷が取れたかのような顔を浮かべている。


「そうか。これで君に対する。審議は問われた。虚偽も無いし問題はない。この町に滞在することを歓迎しよう」


「アランとやら。この町に滞在するなら冒険者ギルドで登録すると良い。身分証にもなるし、日雇いの仕事や情報も集まるだろう。生活するにしても妻を探すにも役立つかもしれん」


「あ、ありがとうございます!」


「アラン君。私も協力できることがあればしよう。といっても奥方の名前がわからないと探しようもないというところだがね」


「いえ、その気持ちだけで嬉しいです」


「では、アラン。先に下に行って、受付で登録をしてくるがいい」


「はい、わかりました。……でも、アレンは」


「アレンにはもう少し聴きたいことがあるのだ」


「すまないなアラン。そういうことだから下で登録証でも作っておいてくれ」


三人は私に部屋を退室する旨を言い、退室を促す。アレンに何を聴くのか気になったが、そこまでして聞きたいわけでもないので「失礼します」と言い、部屋を退室した。


「アランについてだが。もしかしたら、古代人の生き残りかもしれない」

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