閑話4-1 CONFLICT
「エターナのぉっ……ぶわぁぁぁあああああかっ!」
耳をつんざくインクの怒鳴り声。
そして彼女は一度もエターナのほうを振り向くことなく、家の外へと飛び出してしまった。
エターナはしばし呆然としていたが、すぐに椅子に深く座り直し、大きく息を吐いた。
こんなにも激しくインクの怒りを買ったのは、これが初めてだ。
「……まあ、それはそうなるよね」
当然のことだろう、とエターナはひとり納得する。
心臓や胃が痛い。
なぜ自分はこんなことをしているのか――馬鹿げている、と冷静に分析することはできても、他の方法は思いつかない。
「それでもわたしは……インクの想いに応えることはできない」
目を細める。
視界とぼんやりと滲み、追憶の向こうから子供たちの声が近づいてきた。
かつて、エターナがまだ本当に幼かった頃の記憶。
同年代の
しかし時間が経つにつれて、その人数は少しずつ減っていった。
ある者は発狂しながら自分の顔をかきむしって死に、またある者は体がいびつに膨張して命を落とす。
大人しかった少女は朝、目を覚ますと静かに息を引き取って、仲の良かった彼女はあまりの苦しみに『殺してくれ』と懇願して物言わぬ屍となった。
幸せだったのか、不幸だったのか、今でもよくわからない。
だがそれが、エターナの原点であった。
「わたしだけが生きている……」
あれから五十年以上が経過した。
今のところ、王国の研究により“魔族もどき”となったエターナの肉体に変化はない。
「まだ、生きている」
手のひらを開く。
まるで十代前半の少女のようだ。
見た目だけで言えば、インクよりも年下になってしまった。
「いつまで、生きられる……」
それでも、彼女には確かに、六十年以上生きてきた記憶がある。
エターナは完成体ではない。
当初の王国の目的であった“人工魔族”には限りなく近づいたが、しかし研究リーダーであるキンダーも成功だとは言わなかったのだ。
中途半端な、試験体。
ならば魔族と同じ年月生きられる保障もなく、明日死んだっておかしくはない。
だから――
「……いや、だからというわけではないけれど」
それだけが理由ではない。
しかし、インクの気持ちを拒む理由の一つではあった。
彼女の怒り顔を思い浮かべると、過去の幻影は消えていく。
「泣いてた、な……」
きっぱりと『そんな関係になるつもりはない』と言われたのがショックだったんだろう。
いや、それだけではない。
もっとひどいことを――インクの想いを踏みにじるような言葉を並べた。
完全に、その心をへし折るために。
ただただ、陰鬱な感情がエターナの胸を満たしていた。
得たものなんて何一つありやしない、無意味に失っただけだ。
しかし正しいことはした。
加害者なのは紛れもない事実で、そこを誤魔化すつもりはないが――間違ったことをしたつもりもない。
「これでよかった……これで。やっと、インクをわたしから解放してあげられる」
自分に言い聞かせるようにエターナはつぶやいた。
『インクに幸せになってほしい』
それは紛れもなく、彼女の本心だ。
だからこそ、それだけに、インクの想いを受け入れられない。
エターナはなによりも、彼女が“普通”であることを望む。
互いに普通に生きてこられなかったからこそ、これからは普通の肉体を得て、普通に恋をして――そんな人生を。
あの明るい性格ならできるはずだ。
自分のような、いつまで生きられるかわからない、人間かどうかも怪しい、保護者気取りの女のそばにいるよりは、そっちのほうがずっといい。
『インクを愛している』
それもまた、紛れもなくエターナの本心である。
保護者としてか、被験者としての共感か、それとも恋愛感情なのか。
今でも答えは出ていない。
答えを出そうとも思わない。
わかりきっているからだ。
笑ってしまうほどイカれた話なのに、もはや明白すぎて、考えるまでもないからだ。
ゆえに考えないで、ずっと棚上げにしている。
瞼を閉じると、浮かんでくるのはインクの笑顔。
思わずエターナは苦笑した。
その眩しく輝く表情が焼け付くほどだというのに、答えを出さない程度でどう誤魔化すつもりなのか。
出会ってから四年以上の月日が過ぎた。
インクは年相応に成長して、順調に美人に育ちつつある。
しかし中身は大して変わっておらず、相変わらず明るくて人懐こいまま。
エターナを見つけると無防備に抱きついてきて、胸や肩に顔を埋める。
正直、嬉しかった。
自分が命を救い、視力も与えたインクが、いつまでも自分に懐いてくれていることが。
だがそこには、『エターナの右腕を奪った』という罪の意識も関連しているはずだ。
その気になれば、いっそ永遠に自分の元につなぎとめることだってできるだろう。
それだけのことをしてきた。
だったらいっそ、正しさなんて投げ捨てて、自分のエゴを通してしまえば――
「……だから、ダメなんだって」
薄っすらと目を開き、テーブルの木目を見ながら彼女は言った。
そう、
その欲望は、危険だ。
せっかく開けたインクの道を、自ら閉ざしてしまうことになる。
なんのために生かしたんだ。
普通の人間として生きてもらうためだろう。
なんのために腕を犠牲にしてまで助けたんだ。
普通の人間として生きてもらうためだろう。
なんのために視力を回復させたんだ。
普通の人間として生きてもらうためだろう。
全ては、ただそのためだけに――断じて、断じて、断じて、自分のものにするためなどでは、なかったはずだ。
胸が苦しい。
体が重い。
呼吸すら億劫だ。
このまま息を止めて、自分を殺してしまいたい。
時間が経って、気持ちが落ち着いてくると、さらに胸のもやもやは膨らんでいった。
泣いていたのだ。
あんなにも眩しい笑顔を真っ直ぐに向けて、自分に好きだと言ってくれる人が。
『わたしはあくまで保護者としてインクに付き合ってきただけ。恋愛がどうとか言われても、正直、困る』
なんだそれは。
その言葉のどこに本心があると言うのか。
『インクはまだ子供。一時の感情でそう思っているだけ。わたしは大人だから、そういう子供の勘違いを諌める役目がある』
自分が大人のつもりでいるのか、過大評価も甚だしい。
ずっと山奥で引きこもって生きてきた人間が、他人を諌められるほど立派に成長できているというのか。
お前の心はまだ、王都で実験体として暮らしていたあの頃からなにも成長していない。
『ずっと前から煩わしいと思っていた。わたしがインクをそういう目で見ることはないし、見られるのも迷惑』
ああ、本当に、なんて救いようのない――
「ちょっと、ドア開いてたわよ? いくらなんでも不用心すぎ……ってエターナ、そんなにずり落ちてなにしてるのよ」
すると、インクの出ていった玄関から、勝手にネイガスが入ってくる。
「ネイガス、不法侵入」
「打ち合わせに来るって言ってたじゃない」
確かにそれは事実で、時間だって約束どおりだ。
インクが出ていってから、いつの間にか一時間以上が経過していたらしい。
その事実に内心驚きつつも、体を起こして普通に椅子に座るエターナ。
ネイガスは彼女の向かいに腰掛け、部屋を見渡した。
「インクちゃんは?」
「出てった」
「なによそれ、まるで家出でもされたかのような言い方ね」
「……」
エターナは無言で目をそらす。
言葉などなくとも、それだけで充分だった。
「……本当にそうなの?」
「喧嘩した」
大きくため息をつくネイガス。
彼女もエターナとインクの関係は知っている。
四年間、延々とインクが熱烈なアプローチを仕掛けていたにも関わらず、まったく進展していないことだって。
「そういうの、せめて打ち合わせの後にしてくれないかしら。その顔を見る限り、原因はあなたにあるんでしょう?」
「100パーセント」
「言い切るって相当ね。なにやったのよ」
「いつものように『好き』って言われたから、思いっきり突き放した」
エターナは物憂げに目を伏せた。
それを見たネイガスは、眉間に皺を寄せ、軽く身を乗り出し顔を近づけて指摘する。
「ずっと思ってたけど……あなた、アホね」
「心外」
「いいやアホよ。あれだけ好き好きオーラを出してる子を突き放すとか、常人にできる真似じゃないわ」
しかも四年間、一度も途切れることなくである。
「出してるからこそ……突き放した」
「余計にアホじゃない」
「アホアホうるさい! わたしだって、いろいろ考えてっ!」
珍しく感情をむき出しにして苛立つエターナ。
ネイガスは少し驚いた様子で元の位置に戻った。
引かれた――そう感じたエターナもまた冷静さを取り戻し、椅子に座り直す。
「……先に打ち合わせを終わらせたい」
「国をあげたお祭りの打ち合わせなのよ? そんな地獄の泥沼にどっぷり浸かったような最低最悪の精神状態でできるわけないじゃない。あとインクちゃんがいないと困るわ、席は隣なんだから」
「だったらどうする? また別の日に」
「まず、インクちゃんにどうしてそんなことをしたのか白状してもらおうかしら」
魔女は目を細め、ネイガスをにらむ。
しかし彼女にふざけた様子はない。
冷やかしているわけではなく、本気で相談に乗るつもりのようである。
「どうしてそこまで気にするのかが理解できない」
窓の外に視線を向け、苛立たしげに言った。
「同じ年の差カップルとして放ってはおけないわよ」
「カップルではない!」
「そういうとこよ。ムキになって否定する理由があなたにあるの? 私としては、とっととインクちゃんの気持ちを受け入れて付き合っちゃえばいいのにって……」
「そんな簡単に済ませられるなら最初から悩んだりはしていないっ!」
エターナは勢いよく立ち上がると、左手で強く机を叩く。
思わず仰け反るネイガス。
これ以上踏み込むな――と線を引いているようにも思えたが、なおもズケズケと入り込んでくるのが彼女である。
「……とにかく、これはわたしとインクの問題だから」
「そうでもないわよ? インクちゃんが落ち込むと、セーラちゃんも悲しむもの」
「成長には痛みがともなうもの」
「それって言い訳によく使われるセリフよね。私はそうは思わないわ」
「自立するには必要」
「ひょっとして、年の差があるからとか、自分じゃ幸せにできないとか、いろいろ考えてるんじゃない? そんなの無駄よ、無駄。気持ちが本物なら、どれだけ言い訳して遠ざけたって、結局は離れられないものなの」
「セーラとネイガスの関係と、わたしたちは違う」
「どう違うっていうのよ」
「わたしはあの子の保護者だから」
決定的な違いは、そこにあった。
フラムとミルキット、セーラとネイガス――彼女たちの関係はある程度イーブンだった。
エターナとインクは違う。
いや、正確にはエターナが違うのだろう。
そう見てしまっていた。
四年前は子供だからと無邪気に接して、戦いの中で深く考えたことは無かったが、一緒に過ごしていくうちにごちゃごちゃと、余分な贅肉を付けてしまった。
「大人として、ちゃんと守らなくちゃならない」
責任感。
倫理。
常識。
ただの拘束具でしかないのに、必要と思えてしまうのは、それが“正論”だからだ。
「めんどくさいわね」
「面倒で結構」
「それはあなたの人生に必要なものなの?」
「わたしにはいらない。どうせ最初から普通じゃないし、いまさら戻れるものでもないから。でも……インクは違う。まだ十五歳。普通に生きることもできる」
「普通普通って、それなに? どういう生きかたなの?」
「わたしから離れて、もっと広い世界を見て、色んな人と出会う」
「漠然としてるわね」
「そうでもない。王立魔法学校に入れる予定もある」
「それって……今度新しく設立されてるっていう、大きな学校よね。確か全寮制の」
「多種多様な価値観をもつ学生たちと触れあえば、きっとインクの世界も広がる。そこでたぶん……わたしよりも素敵だと思える人にも出会うはず」
エターナは別に自分に自信がないわけではない。
ただ、目が見えるようになったのはつい最近だというのに、まるで彼女が世界で一番であるかのように言い寄るインクに、納得できないだけだ。
「きっと世界には、わたしよりもずっとインクのことを幸せにできる人がいる」
「自信が無いの?」
「そういうわけではない」
「いや、それを自信が無いっていうのよ。断言するけど、ありえないわよ、それ。インクちゃんを幸せにできるのは、間違いなくあなた一人だけよ」
「わからない」
「あの子の顔を見てたら一目瞭然じゃない。エターナならそれぐらいわかりそうなものだけれど。そう、なるほど、あなた焦ってるのね」
「そんなことはない、ずっと平常心でいる」
「おおかた、インクちゃんの目が見えるようになったら、自分の見た目にがっかりして離れていくとでも思ってたんじゃないかしら」
「違う」
即座に否定してみたものの――それは、事実だった。
自分の子供のような姿を見れば、きっとインクは幻滅する。
そう
「けれど予想外に、離れるどころか、以前よりもアプローチが激しくなってしまった」
「違うったら違う」
頑なに認めないエターナ。
しかし連続して図星を突かれたせいか、その表情には苛立ちがにじみ出ている。
さらに追い込むため、ネイガスは言葉を緩めずまくしたてる。
「ねえエターナ、確かインクちゃんって水属性よね。別に魔法学校になんて通わなくたって、一流の師匠であるあなたに師事したほうが伸びると思うわよ」
「これから先の未来は、力だけ持っていたってしょうがない。人間性を磨いて初めて……」
「他の誰かを好きになってくれるのを期待してるみたいだけど、私が思うに、『他の人を見てたらエターナがどれだけ素敵かわかった』ってあの子なら言い出すんじゃないかしら」
「う……」
「ほら、あなただってそう思ってるんじゃない。それに、もし仮に他の誰かを好きになったとして、それをエターナ自身が受け入れられるの?」
「そ……それは……」
ある意味で最大の問題が、そこにある。
インクが自分以外の誰かに、自分にしていたように懐いたりしたら――想像しただけで胸が苦しくなる。
保護者として素直に喜ぶ自分も心の片隅にはいるのだ。
だが、そんなものは指先だけで弾き飛ばすほど、それは圧倒的な勢力であった。
「問題、無い」
強がるエターナ。
もちろん、ごまかせるはずなどない。
「問題しか無い顔してるわよ。だいたい、そんなに目元を腫らしておいてよくもここまで言い訳を並べられたわね」
「別に泣いてなんて……」
指摘されて、エターナは目元に触れる。
するとたしかにそこは濡れていた。
先ほど、一人で考え込んでいる間にいつの間にか泣いていたらしい。
自覚もないうちに、ぽろぽろと。
「水は操れるのに自分の涙は操れない、と」
「うまいこと言えてないから」
「それはどうでもいいけど、泣くほどなら、余計に自分の気持ちに素直になったほうがいいと思うわよ。きっとあとで死ぬほど後悔するわ」
もしもセーラがネイガスから離れていったら――そんな未来を想像するだけで、彼女は自分を殺したくなる。
きっとエターナも、今のままではそのうち、それと同じような思いをするはずだ。
だが困ったことに、それでもなお、“正しさ”なる不確かな価値観を優先する理由が彼女にはあった。
「別に、素直になってないわけじゃない」
自分の気持ちに嘘をついたつもりもない。
全ては真実だ。
ただ単に、意味もなく突き放したいのではなく――
「純粋に想えば想うほど、わからなくなる」
好きだからこそ。
愛しているからこそ、そばにいてはならないと考えてしまう。
「大事なのは、あなたがどう思うかではなくて、インクちゃんがどう思うかなんじゃない? なにが相手にとって幸せかなんて、もうわかりきってるじゃない」
「……うらやましい」
「急になによ」
「自分が誰よりも相手を幸せにできると言い切れるその自信が、うらやましい」
結局のところ、全ての原因はそこにあるのだ。
体のこともある。
命のこともある。
インクにはもっとたくさんの世界を知ってほしい――そう思う保護者としての気持ちもある。
総じて、このまま自分の隣にいたのでは、インクは幸せになれないのではないか。
そう、思わざるを得ないのだ。
「堂々巡りね……」
「だから悩んでる」
「ねえエターナ、思ったんだけどね? それ、正直に言っちゃえばいいと思うのよ」
「なにを?」
「全部よ、全部。どうして突き放そうとするのか、なんで恋人になれないのか。だって、インクちゃんがエターナに不満を持ってるのって、なかなか好意を見せてくれないからでしょう? あなたにはあなたなりの愛情表現がある。それが伝われば、もうちょっとお互い落ち着いて話ができると思うのよ」
「それは……考えたことがなかった」
どうにか突き放すことで意図を伝えようとしていたが――少し考えてみれば、ネイガスの言うとおり、回りくどさなど必要なかったのだ。
もっとも、伝えたところで納得してくれるかはわからない。
恋人としての愛情を求めるインクとの話し合いは、延々と平行線をたどるかもしれない。
だが――喧嘩して、インクを悲しませるようなやり方は、エターナも望んでいない。
「というわけで、インクちゃんを探しに行きましょう」
「……申し訳ない」
「いいのよ。私ね、他人の恋路に首突っ込むの大好きだから」
てへっ、と舌をぺろりと出すネイガス。
「はぁ……少しだけ頭を下げたことを後悔した」
エターナは大きくため息をつきながらも、口元には笑みが浮かんでいた。
◇◇◇
家を出た二人は、早速魔法を発動させた。
風と水――二人の力を使えば、人を探すのはたやすい。
排水口に潜むネズミの一匹すら逃さぬ精度で、コンシリア全域をカバーできる。
逃げて隠れている彼女をこんな方法で探すと、あとで『ずるい』と怒らせそうではあるが――
「まだそう遠くまでは行ってないはずよね」
「知らない場所に行くとも思えない」
二人は今いる場所を中心として、少しずつ索敵範囲を広げていく。
だが――一向に引っかからない。
「地上はもちろん、地下も、屋内も反応無しね」
「もう少し広げてみる」
「それはいいけど、走ってもこんなに遠くにはいけないんじゃないかしら」
違和感を覚えるネイガス。
なおもエターナは探索を続け、そして――離れた地下に、インクではないが、奇妙な反応を察知した。
そいつは四足歩行で水路を移動し、異様な速さでどこかへ向かっている。
「……ネイガス」
「こっちもキャッチしたわ、この動き……普通の生き物じゃないわね」
「あまり考えたくはないけれど、一つの可能性がわたしの頭に浮かんでいる」
「たぶん私も同じだと思うわ。でも念のため聞いておいてもいい?」
焦らす意図はなかったが、エターナは一旦大きく息を吐き出してから、その名を告げた。
「――“キマイラ”」
この目で見たわけではない。
だがモンスターでもない、人でもないその謎の異形を察知して、本能的にそう感じたのだ。
どうやらネイガスもそれは同じらしく、唇を噛んで深刻な表情を見せる。
するとそのとき――ドオォンッ! と爆音が響き、セーラがいるはずの大聖堂から黒煙が上がった。
立て続けに起きる異変に、呆然と立ち尽くす二人。
『平和ボケしすぎなんだよバーカ』
エターナの耳に、風に乗って男の声が聞こえてきた。
誰かは知らないが、明らかな挑発だ。
十中八九、今でもオリジンを信仰し、テロ行為を繰り返す“神の血脈”の仕業だろう。
フラム不在を狙って、持ちうる力の全てを注ぎ、コンシリアを混乱に陥れようとしているのだ。
おそらく、探してもインクが見つからなかったのは彼らの手によるものだろう。
「インク……!」
エターナは悔しさと不甲斐なさに拳を握る。
ネイガスは己の聖域に土足で踏み込んでくる目障りな敵の存在に、表情が消え、瞳に黒い炎を滾らせる。
そして二人は言葉すら交わすことなく、同時に、それぞれ異なる方向へと駆け出した。
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