第124話 最低最悪の死にぞこない

 





 オリジンの力が全身にみなぎる。

 螺旋覚醒スパイラルブレイブ――それはブレイブで向上した身体能力を、さらに数倍に引き上げる魔法。

 その上昇値は約2.5倍。

 使用前のステータスがフラムより高かったことを考えると、今のキリルは彼女の2.5倍以上強いということになる。


「エターナさん、下がっててください」

「……わかった」


 エターナは情けなさを感じながらも、傷を押さえ、足を引きずりながら下がっていく。

 いつの間にか、守る対象から、守られる対象に変わってしまった。

 ふざけながらも、大人としてフラムを導いてきたつもりだったが――今やその背中は、自分よりはるか先を進んでいる。


「フラム」

「はい、なんですか?」


 ただの魔法使いである自分に、何ができるだろうか。

 そう考えて、こんなちっぽけなことしかできない自分がさらに情けなくなる。

 けれど、伝えなければ。

 大事なのは自分のプライドじゃない、少しでもフラムが背負うものを軽くすることだ。


「頑張れ」


 ぐっと親指を立てながら、エターナはそう言った。

 フラムは――そんな彼女らしさに溢れた激励に、表情を緩める。

 そして同じように親指を立て、


「もちろんですっ!」


 と返した。

 本当にちっぽけだ。

 だが、小さな想いの積み重ねが、キリル――否、オリジンとフラムの差を埋めてくれるはずだ。

 今までだってそうだった。

 “究極の個”たる神に抗うのは、数ぐらいしか取り柄のない人間を、互いに繋ぐ想いだったのだから。


「ふぅ……」


 フラムが息を吐き出す。

 目つきが変わる。

 両手で握る神喰らいが、神の化身を前に歓喜に呻く。

 腰を落とし、足に力を込める。

 訓練を受けたわけではなく、実戦の中で磨かれてきた彼女の剣技は、どこか獣じみていて――


「おぉぉおおおおおおおッ!」


 その喉元に喰らいつくように吠え、キリルに襲いかかる。

 ゴゥッ、とフラムの足元が爆ぜ、大地がえぐれる。

 エターナは吹く風を手で遮りながら、そのファーストコンタクトを見守った。

 もっとも、彼女から見たそれは、あまりに速すぎて打ち合っていることすらはっきりとはわからなかったが。


 黒の大剣と白銀の片手剣がぶつかり合い、空気が爆ぜる。

 しかし両手で切りかかったフラムに対して、キリルは右手のみ。

 残った左手で掴まれる前に、フラムはプラーナで腕力を強化し、怒涛の連撃――気剣連斬プラーナストリームを繰り出す。

 袈裟懸、唐竹、薙いで、斬り上げ。

 刺突も、逆風も、無数の斬撃が極限までほぼ同時に近い形で放たれる。

 それをキリルは――全て片手で受け止めた。

 巨大な獣ですらも触れただけで肉が弾け飛ぶ一撃を、である。

 そして彼女は感情のない声で告げた。


「アクセラレイト」


 肉体が加速する。

 フラムの極限よりもさらに時間を縮めて、正真正銘の“連撃”を見せつけるように。


「消え――」


 キリルの姿が見えなくなったかと思うと、フラムは背中に衝撃を感じた。

 アビスメイルのおかげで致命傷にはならなかったものの、その位置は心臓の真裏――貫かれていればその瞬間に終わりである。

 だがもちろん、それだけではない。

 ほぼ同時に、肩も足も腕も頭も、ありとあらゆる部位に剣が振るわれる。

 フラムの気剣連斬プラーナストリームとは異なる、x、y、z軸まで利用した三次元的な動き。


「ぐううぅぅっ!」


 神喰らいで、辛うじて頭だけを守るのが精一杯だ。

 相手もそれを理解してか、執拗に手足を狙い、そしてそれぞれ一本ずつが切断される。

 再生は一瞬。

 しかしその一瞬は、フラムとキリルの領域においてあまりに長い。


「ブラスター」


 キリルはフラムの背中に剣先を当て、ゼロ距離で放つ。


「リヴァーサルッ!」


 すると足元の地面が高速でせり出し、フラムの体を空中に打ち出した。

 ブラスターは虚空に向けて放たれ、灰色の雲を引き裂く。


「せぇいッ!」


 浮かびながら、フラムは片手で剣を振るう。

 気剣乱プラーナクラスター――いくつもの刃が重なり合い、キリルに迫った。

 彼女は避けない。

 むしろ地面を蹴り、フラムに真正面から接近する。

 確信があるのだ。

 この程度の攻撃――一振りでかき消せるはずだ、と。


「なら、こっちも食らえぇっ!」


 フラムは神喰らいを振りかぶると、ぐるんと回って投擲する。

 無論、剣にはプラーナが満ちている。

 実体がある分だけ攻撃は重い・・はずだった。

 だがやはり、彼女はそれすらも一振りで弾き飛ばす。


「簡単にやってくれるなぁ」


 明後日の方向に飛んでいく神喰らいは途中で消え、すぐさまフラムが呼び出せる状態に戻る。


「でも、まだまだああぁぁぁっ!」


 彼女は指を伸ばした状態で両手を前に突き出し――自らの肉体を、細切れにして放つ。

 肘まで使い果たしての、秒間500発の反転機関銃だ。

 これを一振りで止めることはできまい。


「オーラ」


 するとキリルは体内より自らの魔力を、単純な衝撃波として放った。

 ゴオォォウッ!

 吹き荒れる魔力の嵐が、弾丸に込められた反転の魔力を打ち消し動きを止める。

 攻撃は失敗――かと思いきや、そうでもない。

 オーラの発動でキリルは微妙にバランスを崩している、これでは十分な威力を持った斬撃を放つことは不可能だ。

 つまり動きは阻害できた。

 十分に目的は達した。

 すでにフラムの両手は再生している。

 神喰らいも引き抜けた。

 戦況はリセット。

 二人は互いに着地する。


「ブレイド」


 キリルがかかげた剣が光を纏い、天高く伸びる。


気想刃プラーナエッジッ!」


 同じくフラムの剣もプラーナを纏い、数十メートルの長さの巨大な刃となる。

 速度比べの次は、力比べ――どうやらオリジンは、彼女の自信を徹底的にへし折るつもりのようだ。


「そおりゃあぁぁぁああッ!」

「……!」


 両者の剣は空気を撹拌し、激しい風を纏いながらぶつかり合う。

 ゴッ――ガアアァァァァァ!

 人知を超えた力の衝突に、空間は歪み、瓦礫は吹き飛び、廃墟はさらに更地へと変わり果てていく。


「ぐ、ぅんッ!」


 歯を食いしばり、目を血走らせながら巨剣を振るうフラム。

 剣が巨大化しようが斬撃の速さは変わらない。

 否、変えてはならない。

 でなければ、キリルの動きについていけない。


「ふッ、ふうぅッ、があぁぁぁあッ!」


 ガラガラの叫び声が、痛々しく響く。

 幾度となく腕の筋肉は断裂し、骨は折れている。

 肉体の限界など、とうに通り過ぎているのだ。

 でなければ、10万を越えるステータスを誇るキリルに勝てるはずがない。

 傷は瞬時の再生で補う。

 痛みは歯を食いしばって耐える。

 強く噛み締めすぎたせいで口の中に血の味が広がった。

 だがそれも、もう慣れた。

 匂いも、味も、舌ざわりも、痛みも、何もかも、慣れたくないけど慣れてしまった。

 だから――無茶が出来てしまう。


「うわあぁぁぁぁああああッ!」


 喉も掠れ、そこからも血の匂いがせり上がってくる。

 限界の、さらに向こうにある限界が近づいていた。

 そのラインを超えてしまえば、あるのは破滅のみ。

 どんなにフラムが気力に満ちていようとも、どうにもならない最終到達点。


「づうぅぅぅッ!」


 剣が打ち合った瞬間、フラムの両腕がへし折れる。

 それでも再生能力頼りで強引に振り上げるも、今度は別の限界が彼女の邪魔をする。

 今までと違う嫌な感触を、神喰らいの柄を通じて両手に感じた。

 プラーナの刃にヒビが入っている。

 そう、それは体ではなく、プラーナの限界。

 圧倒的魔力により作られた刃は、もちろんそれだけ高い強度を誇る。

 そんなものと連続して打ち合えば、やがてフラムの気想刃プラーナエッジが限界を迎えるのは当然の結果である。


『諦めろ』


 オリジンの声が聞こえた。

 刃の一部が砕け散る。


『あなたの負けは決まっている』


 オリジンの声が聞こえた。

 刃の一部が弾け飛ぶ。


『無駄だよ』


 さらに聞こえた。

 刃は真っ二つにへし折れる。


『お前はもういらない』


 それでも“負けを認めろ”と繰り返し語りかけてくるが――


「うるさあぁぁぁいっ!」


 剥き出しの感情で、拒絶する。

 そんなもの、逆効果だ。

 諦めるどころか、むしろ闘志が滾る。

 フラムは再び気想刃プラーナエッジを作り出し、斬撃を繰り出した。


「どれだけッ、力で劣っていようとぉっ!」


 キリルもスパートをかけ、剣ごとフラムの心を折ろうとしているのだろう。

 一撃で、刃が砕け散る。


「どれだけっ、無茶な戦いだろうとぉッ!」


 しかし、彼女はすぐさま新たな刃を作り出し、止まらず剣を振り続ける。

 何度も、何度も、腕が千切れようがブチブチと血管が切れる音が聞こえようが意識が揺れようがお構いなしに。


「そんなの、いつだってそうだったッ!」


 振り下ろす、砕ける。

 切り上げる、砕ける。

 薙ぎ払う、砕ける。

 同じことの繰り返し。

 否――フラムばかりが、消耗している。


「無茶じゃない戦いの方が、少なかった!」


 それでも無駄だという結論に達しないのは、彼女には記憶と経験があるからだ。

 いかなる困難を前にしても、諦めることさえしなければ、勝機は必ず見つかると。


「今さらそんな言葉でぇッ!」


 だから体をすり減らす。

 魂を削り、命を捧げる。

 その喪失の先に、それ以上の再生があると信じて。


「私の心が、折れると思うなあぁぁぁぁぁあッ!」


 バヂィッ! とぶつかり合う剣と剣がひときわ激しく光を放ち、世界を白く染める。

 視界が晴れると、キリルの作り出した光の剣は消えていた。


「はぁ……はぁ……」


 フラムの方が消耗しているとは言え、これはオリジンにとって驚くべき結果だ。

 数値やデータだけで見れば、フラムにそんな芸当ができるはずがないのだから。

 まだ未来は黒く染まったわけじゃない。

 希望は残っている。

 肩を上下させるフラムは、歯を見せて笑った。


「この程度で……終わりじゃ、ないんでしょ?」


 動きを止めたキリルは、その言葉に反応し再び剣を構える。


『少しだけ甘く見ていましたわ』

『お前相手ならこれぐらいで十分だと思っていた』

『けれど』

『そんなもん些細な計算違いだ』

『誤差である』


 まだ全力は出していないとでも言いたげだ。

 実際、そうなのだろう。


「アルターエゴ」


 キリルが二人に増える。

 フラムは一瞬目を見開いて驚いたが、すぐに気を引き締める。

 理屈など考えても仕方ない。

 彼女は分身できる、それが事実なのだから。

 そして二人は同時にフラムに迫り、前と後ろから挟撃した。

 横に飛び込むフラム。

 着地点を狙って放たれるブラスター。

 地面を反転、浮き上がる体。

 ブラスターは空振りし、空中でフラムは剣を振り上げた。

 その背後から分身したキリルが斬りかかる。

 フラムはそれを見もせずに二本の“気想剣プラーナブレイド”を作り出し迎撃。

 相手が攻撃を対処しているうちに、空中を蹴って地上へ急接近。

 最初にブラスターを放ったキリルと切り結ぶ。

 だが筋力差は歴然。

 つばぜり合いにもならず、押し戻される。


(さっきまでと全然違う!)


 打ち合いにすらならないのは予想外だった。


「ブレイド」


 背後から迫るキリルは光の剣をたたえ、フラムに斬りかかる。

 その刃は――アビスメイルをもってしても、止めることは出来ない。


「ぎぃっ!? が、あぁぁぁああッ!」


 上半身と下半身が真っ二つに分断される。

 切断面は綺麗なもので、フラムからも輪切りにされた自分の体がはっきりと見えた。

 すぐさま再生が始まる。

 赤い筋が二つの体をつなぎ合わせ、引き寄せ合う。


「ブラスター」


 そこに、続けざまにもう一体のキリルが光束を放った。

 回避は不可能。

 何より――


(これ以上、鎧が損傷したら……さすがに、エンチャントも効果を失うよね)


 魂喰いの二の舞になることだけは避けたかった。

 ゆえに、彼女はあえてアビスメイルと、神喰らい、さらには足回りの装備全てを収納し、身軽さを選ぶ。

 そして太ももから下に魔力を注ぎ、炸裂させた。


吹き飛べリヴァーサルッ!」


 パァンッ!

 飛び散る血肉。

 その反動で、フラムの体は地面に叩きつけられる。

 レッグガーターは失われたが、今さら数百の魔力と感覚は誤差だ。

 ……そう思うしか無い。

 結果、ブラスターはまたしても空の彼方へ、流星のように飛んでいく。


「ぎ……ふ……うぐ……うぅ……っ!」


 フラムは腕の力だけでキリルから少しでも離れようと前に進む。

 傷口はぶくぶくと泡立ち、元の形に戻ろうとしていた。

 時を同じくして、キリルのアルターエゴも効果を失う。

 彼女は再び分身を生み出すこと無く――のろのろと移動するフラムの傍に移動し、胸に剣を突き刺した。

 直前で体をひねる。

 ガギンッ! と地面が砕かれ、風が生じる。

 吹き飛ばされ転がるフラムの体。

 その勢いを利用して、再生したての両足で立ち上がり、再び脚部の装備を呼び出す。


(距離もある、相手の油断も。今なら――!)


 フラムは胸に手を当てた。

 心臓が激しく、はちきれんほどに強く高鳴る。

 さらに脳の動きも活性化し、プラーナの生成量を飛躍的に高める。

 その背中から、白いオーラが溢れ出す。

 そして異空間より神喰らいを引き抜くと、足裏で地面をえぐり、前方に飛び出した。


「うぉぉおおおおおおおおおおおッ!」


 時間を縮めるがごとく急加速するフラム。

 無防備なキリルは、その先端が自らの鎧に触れる寸前で――ガッ、と剣を掴んだ。


「な……っ」


 直前まで近づいていることにすら気づいていなかったはず。

 だというのに、反応した上に剣を掴んで、止められたのだ。

 フラムの切り札――気越一閃プラーナルオーバードライヴを、こんなにも簡単に。


『無駄です』

『無駄だよ』

『無駄だって』

『無駄だろ』


 声が聞こえる。

 誰もが、フラムの負けを確信している。


『折れない心があろうとも』

『剣が折れてしまえば同じこと』


 キリルは掴んだ手に力を込める。

 少しずつ、神喰らいが軋んでいく。

 収納してしまえば問題ない、フラムはそう考えた。

 そして念じたが――剣は消えない。


「どうして……戻って、戻ってよ!」


 どれだけ声を荒らげても状況は変わらなかった。

 おそらくキリル、あるいはオリジンが魔力で封じ込めているのだろう。

 さらに彼女は、神喰らいを破壊すべく力を強める。


「離せ、離せえぇぇぇっ!」


 必死で引き抜こうとするも、びくともせず。

 勇敢に戦ってきたフラムも、これには動揺を隠せなかった。

 ヘルマンが打ち、数千、数万という人々の呪詛おもいを背負ったこの神喰らいが、手のひら一つで折られてしまうなど。

 それは人々の心を折ることと同意だ。

 フラムの心は折れないかもしれないが、しかし――再生能力無しでは、勝ちの確率は万が一にも無い。

 そんなとき、キリルの背中に、何かがあたって砕けた。

 ダメージはゼロだ。

 しかしその瞬間、手の力が微かに緩んだ。

 フラムは神喰らいを引き抜き、すぐさま振り下ろす。


「やっぱり、見てるだけっていうのは納得できない」


 気だるげな声が聞こえた。

 キリルの肩越しに、フラムは彼女の姿を見る。


「エターナさん、逃げたはずじゃっ!?」

「だから、納得できなかったの。アイスランス」


 再びエターナの放った氷の槍は、キリルの背中に衝突し、砕け散る。

 エターナの方に意識を向けるキリルに、フラムは剣を振り下ろす。

 だが彼女は片手剣で軽く斬撃を受け止めた。


「アルターエゴ」


 ずるりと、彼女の背中から産み落とされるように、分身が生成される。

 狙いはエターナだ。

 腹部の怪我の影響か、彼女の動きは鈍い、逃げるのは難しいだろう。


「エターナさんっ!」

「アイスランス……イリーガルフォーミュラッ」


 なけなしの魔力で生み出される、さらに大きな氷の槍。

 エターナにとってはそれなりにとっておきの一撃なわけだが、接近するキリルは防御すらしない。

 それは体にあたった瞬間に砕けるだけで、傷を負わせるだけの力など無いからだ。


「くっ……反転しろリヴァーサルっ!」


 フラムが足元に反転の魔力を注ぐと、切り取られた地面がぐるりと裏返り、キリルのバランスを崩す。

 彼女は巻き込まれる前に、軽く飛び退いた。

 だが、今のは足止めにすぎない。

 フラムは胸に手を当てる。

 プラーナを心臓に集中させる。

 気越一閃プラーナルオーバードライヴの連続使用――どくん、と胸が脈打ち、強い痛みに彼女は顔をしかめる。

 さらにプラーナで脳を強化すると、吐き気を伴う電撃のような頭痛が走った。


「づ……ああぁぁぁあああッ!」


 それでもフラムは手を止めず、キリルの横を通り過ぎ、エターナに斬りかかる分身に肉薄した。

 そして今度は刺突ではなく、斬撃を――鎧に守られていない後頭部に叩き込む。

 ザシュッ! と彼女の顔は、背後から引き裂かれた。

 頭蓋を断ち、脳を輪切りにし、脳漿混じりの血が飛沫く。

 いくら分身とはいえ、相手は友人だ。

 斬り殺すことに気分の悪さを感じながらも、エターナを救えた事実に少しだけ胸が軽くなる。


「はぁ……ぁ……エターナさん、無茶、しすぎです……」

「……ごめん、結局助けられた」

「いえ、おかげで神喰らいは無事でしたから」


 神喰らいが無くなっていれば、フラムはキリルに万が一にも勝つことはできなかっただろう。

 命を賭けて助けてくれた彼女には、感謝しても感謝しきれないぐらいだ。


「でも、今度こそ下がっててくださいね」

「わかった……善処する」


 微妙に信じきれない言葉のチョイスに、苦笑いを浮かべるフラム。

 エターナは足を引きずりながら離れていく。

 キリルはちらりと彼女の方を見たが、もう狙おうとは思っていないようだ。

 まずはフラムを殺す。

 そんなオリジンの意志が感じられる。


(さて、こっからどうしよっかな……)


 相手は神喰らいを掴んで折れるほどの力を持っている。

 というか、力だけでなく、全ての要素でフラムに勝っている。

 確かに心はまだ折れていない。

 しかし、奥義が防がれた以上、ここからどうやって勝てばいいのか、そのヴィジョンが全く浮かんでこなかった。


(はぁ、考える暇すら与えてくれないんだよね)


 作戦が決まるより先に、キリルが動く。


「ステルス」


 そう言うと、彼女は姿を消した。

 気配はおろか、足音すら聞こえてない。

 何を、どこから仕掛けてくるのか、フラムには全くわからなくなってしまった。

 攻撃を防ぐためには、勘を働かせる他ない。


「そこぉッ!」


 フラムは振り向きながら、斜め上へと神喰らいを薙いだ。

 飛び上がり頭を潰そうとしたキリルは、姿を消したまま、それを篭手で受け止める。

 それきり、追撃は仕掛けてこなかった。


「……逃げた?」


 数秒の間が開く。

 ヒュオォ、と風の音だけが響く中、フラムはさらに集中力を増していく。

 そして――再び、彼女はしかけてきた。


「どこから来たって!」


 今度は前方。

 振り下ろした刃を、彼女はまたもや篭手で受け止める。

 次は斜め後ろ、その次は右側。

 様々な方向から攻撃を仕掛けてくるキリルだが、フラムは違和感を覚える。


(なんで篭手で受け止めてるの? それに動きも、どこか遠慮してるような感じがする)


 さっきまで、もっと速く剣で切り結んでいたはずだというのに。

 ここにエターナがいれば、警告を発したかもしれない。

 だがフラムは知らないのだ。

 彼女が拳で攻撃を仕掛けてくるとき、剣がどこにあるのかを。

 オォォオオ――そんな空を裂く音がして、彼女はふいに天を仰いだ。

 するとはるか彼方から、光の柱が落ちてくる。


「上からっ!?」


 ブラスターを幾重にも束ねたような極太の光。

 その閃光に巻き込まれれば、頭や心臓など気にする間もなく吹き飛ぶのは自明の理。

 幸いにも前もって気づけたフラムは全力で範囲外へと逃れた。

 直後、ドォオッ! とそれは地面に着弾し、瓦礫を巻き上げ、彼女の背中を軽く焼く。

 ほぼ無傷で済んだことにほっと肩を撫で下ろすフラム。

 だがさらに別の殺意が、彼女の頭を狙って飛来する。

 それは空からではなく、遠く――セレイドの外のどこかから。


「くぅっ!」


 体をひねる。

 弾丸は彼女の肩を掠め、肉をえぐり、腕を吹き飛ばした。


(かすっただけなのに、この威力!?)


 驚愕するフラムに、さらに続けざまに弾丸は放たれる。

 先の戦闘で遮蔽物はほぼ取り除かれたため、身を隠す場所はない。

 彼女は必死に走り回るしかなかった。

 キリルの狙いは恐ろしいほど的確で、フラムの動きすら先読みして射撃してくる。

 そのたびに手足をもがれる彼女だったが、今のところ頭と心臓は守りきっていた。

 そしてようやく城から離れ、民家の陰に身を隠すことに成功する。

 攻撃の手が止まった。

 オリジンが見ているというのなら、こんな場所に隠れようが関係なしに狙撃できそうなものだが、それは不可能らしい。


(まずキリルちゃんは“ステルス”とやらで姿を消した。そのあと、空から落ちてくるあれと、遠くからの狙撃の両方を仕掛けてきたわけだけど……)


 どんな理屈で、そんな二つの攻撃を同時に使い分けることができたのか。


(たぶん、私に殴りかかってきてた方が、“アルターエゴ”で作った分身だったんだ。キリルちゃん本人はその間にセレイドの外に出て、私を狙い撃った)


 安全かつ確実にフラムを仕留め、なおかつ高高度からの射撃――“サテライト”に自分が巻き込まれないように。


(近距離も遠距離もどっちもいける、と。対する私は基本的に近接戦闘専門だし、その腕すらもキリルちゃんに届いていない)


 ならば自分が彼女に勝っている部分はどこだろう。

 気合? 気持ち?

 それでカバーするには、力量の差がありすぎる。


(ほんと、どうやったらいいんだろ。無駄死にしやがったジーンは、何を根拠に“勝算”とか言ってたわけ?)


 あれの人格はさておき、頭脳はまあ信用できる。

 何もないわけがないのだ。

 本当にあれは無駄死にだったのだろうか。

 そもそも、彼は死んだのだろうか。

 あまりに疑問が多すぎる。

 しかし、その答えを導き出すには、状況が逼迫しすぎている。


「あれは……」


 いつの間にか、キリルはフラムの視線の先――二階建ての民家の上に立っていた。

 彼女はその手に握る剣を、刃を見せつけるように真横に持つと、魔法を発動させる。


「アルターエゴ・サウザンドブレイド」


 増えたのは、剣だ。

 彼女の背中に、数えきれないほどの剣が浮かんでいる。

 そして手に握ったそれを天高く放り投げると、追従するように増えた物も昇っていく。

 はるか遠くへ。

 ブラスターによって開かれた雲の隙間から見える太陽、その光に照らされながら。

 フラムは呆然と、その様子を見守ることしかできなかった。


「は……ははは……これ、逃げたって無駄だよね」


 そう悟っていたから。

 そしてキリルは手を空に向かって掲げ、告げる。


「サテライトレイン」


 真昼の空に、星が瞬く。

 墜ちてくる。

 死をもたらす、大地を焼く流星が――雨のように、降り注ぐ。


「……でも、避けなきゃ」


 おそらく、逃げ場などない。

 エターナたちとは逆方向に場所を移しているので、巻き込まれないと思いたいが、今は彼女たちの身を案じる余裕など無い。


 だがおそらく、これはキリルにとっても魔力の消耗が大きい魔法であるはず。

 乗り越えられれば、勝機は見えてくる。

 そう思いたい。

 完全に避ける必要などない。

 生き残りさえすれば――その方法は、必ずあるはずだ。


 そしてついに、最初の一撃が、フラムの目の前に着弾する。

 光は大地深くまで潜り込み、地下から地面を持ち上げるように足元が盛り上がり、飛び散る。


「ふっ!」


 フラムはその勢いで飛び上がる。

 向かった先に、真上から光が落ちてくる。

 体をひねる。光がかすめる。肩が蒸発した。

 再生。

 着地、前進、背中がえぐれる。

 また着地、後退、横に飛び込み転がりながらさらにに前へ。

 眼前に落ちてくる、熱に目が焼かれる。

 感覚だけで右へ飛び込む。

 足に熱が近づく感触。

 装備を消す、今は邪魔だ。

 速さを、とにかく速さを必要としている。

 両足が消し飛ぶ。

 さらに眼の前に落ちてきた光に顔が削り取られる。

 叫ぶ口ももう無い。

 だが脳は生きている。

 だから、とにかくそこから離れないといけないと思った。

 心の中で苦痛に悶えながら、横に転がる。

 傷が癒える。

 爆風を利用し立ち上がると、胸に手を当てた。


「がっ、ぐ、ああぁぁぁああああああああッ!」


 胸と頭の当たりで、ブチッと何かが切れた気がした。

 痛い。

 痛い。

 痛い。

 エンチャントじゃ防ぎきれない類の痛み。

 狂いそうだ。

 しかし光は降り注ぐ。

 気越一閃プラーナルオーバードライヴによる加速。

 飛び上がると、光がかかとを削った。

 空中に舞い上がる瓦礫に飛び移る、同時に再生。

 それを蹴って別の瓦礫へ。

 全身の筋肉がブチブチと切れながら、降り注ぐ光の間を縫う。

 止まれない。

 まだ止まれない。

 加速は続く、続かなければならない、つまり気越一閃プラーナルオーバードライヴの継続。


(あぁ、私がすり減っていく……)


 その実感があった。

 大事な何かが、致命的に、手遅れになっていくような。

 すごく、悲しい。

 元に戻れない。

 でも死んだら意味がない。

 死んだらゼロだ。

 一でも残れば、ミルキットの元に帰れれば、それで目的は。

 嫌だけど。

 本当は、嫌で、嫌で――最初から、こんなもの嫌で仕方ないけど。

 そうするしかないから。

 そうすることができるのは、なぜか、この世で自分ひとりだけだから。


「ぎいいぃぃぃぃぃぃい、う、ガアァァァァァァアアアアッ!」


 口の端から血を流しながら、吠える。

 獣のような――いや、獣そのものとなって、生存本能をむき出しにして。

 必死で命を繋ぐフラム。

 そんな彼女をあざ笑うように、降り注ぐ流星の雨の中に、キリルは現れた。

 天より戻りし剣を手に、フラムと剣を重ねるために。

 血の涙を流す彼女は、神喰らいを握るしかなかった。


「アァァァァァアアアッ!」


 ガゴォオオオッ!

 空中で刃を結ぶ、フラムの剣が弾かれる。

 のけぞる彼女の頭上から光が迫る。

 プラーナの壁を作り、蹴った。

 先回りしたキリルが、その背中から心臓を狙う。

 フラムは振り返り、素手で刃を握り、切っ先を力ずくでずらす。

 剣は右胸に突き刺さった。

 キリルはさらにそこに魔力を込めた。


「ブラスター」


 このまま体を吹き飛ばすつもりだ。

 フラムは胸から突き出た剣先にまたもや素手で触れると、手のひらに刃を深く沈ませながら、その向きを変える。

 ドォンッ! 解き放たれた魔力が、彼女の右半身と、刃に触れていた手を吹き飛ばす。

 心臓が無事ならどうでもいい。

 衝撃で回転しながら落下するフラム。

 瓦礫を蹴ってまたも接近してくるキリル。

 プラーナで飛び上がる。

 一部を犠牲に光を避ける。

 剣戟を交わす。

 吹き飛ぶ、突き刺される、欠損する体、再生、剣戟、飛翔、喪失――サテライトレイン発動からこれまでの全ては、ほんの数秒にも満たない刹那に行われた行為に過ぎない。

 その間、フラムが直面した命の危機は百にも及ぶ。

 だが、彼女は死ななかった。

 命は削ったが、生を諦めることはなかった。


 光の雨が止むと、キリルの剣に吹き飛ばされ、四肢を失ったフラムが地面に叩きつけられる。


「あぐ……っ」


 服はぼろぼろで、全身が血まみれで、目も虚ろ。

 しかしフラムは、生きていた。

 生きてさえいれば傷は再生されて、また彼女は立ち上がる。

 立ち上がって、立ち向かう。

 神喰らいを両手に握り、こちらに歩み寄ってくるキリルへと。


「ひゅう……ひゅう……」


 呼吸は浅く、体もしばらくは言うことを聞きそうにない。

 追い詰められているのは間違いない。

 だが一方で、オリジンも驚いていることだろう。

 完全に、さっきの攻撃は彼女を殺すつもりで放ったものだったのだから。


『これで終わる』

『ようやく終わる』

『おめでとう』

『私たちは解放される』


 フラムの脳内に響くオリジンの声は、どこか安堵しているようにも聞こえた。

 彼女はそれを鼻で笑う。


「まだ……終わってないっての……!」


 キリルは数メートル離れた場所で足を止めると、剣先を向けた。

 またブラスターを使うつもりだ。

 確かに防ぎきれないし、体も動かないから避けるのも難しい。


(けど、たぶん、どうにかなる。今までもどうにかしてきたから)


 彼女を支えるのは、そんな根拠のない自信。

 いや、根拠はあるのかもしれない。

 自らオリジンの力を利用した人間は例外なく命を落とすという理があるように、強い意志でオリジンに立ち向かう者は必ず報われる。

 約束を果たした者がいたように。

 想いを遂げた者がいたように。

 救った者がいたように。

 誰もが、少しずつ、この神を名乗る悪魔に、傷を残してきたのだ。

 そしてそれらの想いが、フラムをキリルの元までたどり着かせた。

 彼女が手にした装備だけではない。

 数多の命が礎となり自分がこの場所に立っているというのなら――敗北する道理など、存在しないはずだ。


「避けられないなら……真正面から、止めてみせるッ!」


 神喰らいを、高く振り上げる。

 気刃轟呪災プラーナカースドグランディザスターで、相手の攻撃を打ち消すのだ。

 キリルの刃に魔力が集中する。

 剣全体が、光を帯びる。

 そして満ちた力が飽和し、溢れ出す寸前になった時――頭に、声が流れ込んできた。


『くくくくく……』


 オリジンのものではない。


『くははははははは』


 あれとはまったく別の方向性で不快な、男の声。


『ハーッハッハッハッハ!』


 彼は上機嫌な高笑いで、戦場の張り詰めた空気をぶち壊した。


「この気持ち悪くてむかつく声は、ジーンの? どうして、死んだはずじゃっ!」


 何かやるとは思っていたが、いきなり声が聞こえてくればフラムだって戸惑う。


『誰だ?』

『なぜ私たちにも聞こえる?』

『どこから流れ込んでいる?』


 オリジンも同じように困惑し、キリルも動きを止めた。

 ジーンはさらに言葉を続ける。


『キリルよ、僕があんな無意味な魔法のためだけに自らの命を捧げると思ったか!? いいや、思わなかったはずだ。なぜなら僕は、天才だからだ! 天才なら何かをやってくれるはずだと期待されたはずだからだ! 天才の命には価値がある、それ相応の結果が求められる!』


 それはおそらく、生前に記録されたものだ。

 魔法で声を録音し、仕込んでおいたのだろう。

 どこに・・・なんて言うまでもない。

 あの――自爆術式に、だ。

 いや、おそらくあれは、そもそも自爆するための魔法などではなかった。


『そもそも、この貴重な命を貴様らのような腐った連中に捧げること自体が不本意ではあるが……やはり許せん。孤高の天才たる僕を否定したオリジンも、そして僕が想いを寄せてやったのにそれを拒んだキリルにも、罰を与えなければならない! そしてお前たちはそれを甘んじて受けるべきなのだ!』


 にしても、話が長い。

 オリジンはよほどジーンのことを嫌っているのか、かなり警戒している様子だが、その間にフラムの呼吸はすっかり整ってしまった。

 胸の痛みと頭痛は消えないが、体は動く。

 まあ、おそらくそこまで考えてはいないとは思うが。


『そしてフラムよ、これは謝罪ではない。言っておくが僕はお前を売ったことを今でも正しいと思っている』

「はぁ……結局、最後まで反省しないんだ」

『僕に反省など不要だ、なぜなら正しさが僕を縛るのではない、僕こそが正しさだからだ!』

「なんで会話が成立するの……私は絶対に、死んでもあんたのことなんて認めないから」

『貴様が認めようが認めまいが関係ない。感謝しろ。未来永劫、来世に至るまで僕に感謝し続け、敬虔な信者の如く毎朝毎晩地面に頭を擦り付けながら拝め!』

「だからなんで会話できてるの!?」


 心を読まれたようでイラっとするフラム。

 ひょっとして生きてるんじゃないか、とも思ったが――どうやらそれは違うようだ。

 死してもなお気持ちを害してくるあたり、やはり彼はどうしようもない。


『さあ刮目せよ! これが僕の命を賭した、至高にして最高の、歴史に名を刻む魔法だ!』


 そして、彼が――自爆を装ってキリルに刻んだ術式が、発動する。

 四属性を束ね、自然を支配し、なおかつ全身の魔力のみならず、ガディオの賭命のように自らの命を魔力へ変換した、正真正銘のとっておき。


天才よ永遠なれジーン・インテージ・エターナル!』


 至高にして最高の――そして、最悪のネーミングセンスを誇るその魔法は、まずキリルを中心とした半径10メートルほどの範囲に、四層四色の魔法陣を浮かび上がらせた。

 術式の刻まれたそれは、ゆっくりと異なる向きに回転し、球の形でキリルを取り囲む。

 彼女は一歩、二歩と逃れようと動いてみたが、陣はその動きに合わせて移動する。

 どうあがこうが、キリル自身はその魔法から逃れられないのだ。

 そしてフラムは、あえてその中から逃げようとはしなかった。

 その感覚・・に、覚えがあったからだ。


「やられたことを許すつもりはないし、これっぽっちも感謝なんてしてやんないけど――」


 ステータス減少量は、3万強。

 彼女のステータスは、減少した分だけ上昇していくのだ。

 つまり――




 --------------------


 思。コ僭フ引=ORIGIN


 属性:勇/原初


 楜力:93598

 魔リォ:96659

 無体:90986

 抗ャ :93149

 不可:93489


 --------------------




 --------------------


 フラム・アプリコット


 属性:反転


 筋力:81919

 魔力:82092

 体力:83395

 敏捷:81042

 感覚:82230


 --------------------




 二人のステータス差は、約1万にまで縮まった。


「あんたが天才だってことは認めてあげる!」


 性格はともかく、能力は認めるしかない。

 ジーンが自らの死がなければ勝利は無いと言っていたのは――この魔法の発動に、彼の命が必要だったからなのだ。


『まだ遠い』

『私の勝ちは変わらない』

『諦めろ』

『何も変わらない』


 相変わらずオリジンはしつこく白旗をあげろと勧めてくる。


「あんまり必死すぎて、笑えてきちゃった」


 口元に笑みをたたえ、フラムは再び剣を振り上げる。

 この領域まできてしまえば、1万程度のステータスの違いは誤差だ。

 気力と勇気で補えるし、何より――弱くなった者と、強くなった者では、気の持ちようも、体の感覚も全く違うのだから。

 一方は重くなった、一方は軽くなった。

 後者が有利であるのは、わかりきったことである。


「ブラスター」


 キリルが仕掛けてくる。

 それを見てフラムは、高く掲げた剣を気想刃プラーナエッジで補強し、振り下ろした。


「はああぁぁぁぁあああッ!」


 刃は地面に叩きつけられ、プラーナと呪詛の嵐を巻き起こす――!

 二つの力はぶつかり合い、激しく火花を散らす。

 先ほどまでならば、キリルのブラスターがあっさりフラムの攻撃を打ち消しただろう。

 だが今は違う。

 拮抗している。

 どちらが押すでもなく、最初のぶつかった位置で、互角の戦いを見せている。

 そのまま互いにエネルギーを使い切り、やがて――相殺し、消滅する。


「これなら……っ!」


 得た力が確かに存在することを実感し、フラムの闘志が激しく燃え上がる。


「キリルちゃん、もうすぐ助けてあげるからね」


 勝利のヴィジョンが、見えてきた。

 一方でキリルの体を操るオリジンたちの間には、戸惑いが広がっていた。

 10万超えのステータスさえあれば負けるはずはない、そう確信していたのだ。

 彼らの信じる絶対が崩れる。

 ありえなかった死が、現実味を帯びて近づいてくる。


「そしてオリジンッ、すぐにお前のことも消し飛ばしてやる! 私が得てきた力、その全てをもって!」


 そんなオリジンに向けて、フラムは怒気を孕んだ声で啖呵を切った。





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