第26話 謎の勉強会

「おまたせ」


 次の土曜日、私たちは勉強会のある星丘公民館へとやってきた。


 星丘公民館は、星丘神社の真横にあって、和室が二つと、会議室みたいな洋室が二つある建物。


 普段は茶道やお琴の教室を開いたりするみたい。


「へぇ、めずらしいね、小学生が公民館の公開授業に来るなんて」


 受付のおじさんがニコニコしながらめいぼに丸をつける。


「僕たち前野先生のクラスの生徒なんです。今日は学校新聞の記事で取り上げようかと思って取材に来ました」


 総一郎がいかにも優等生といった様子で答える。


「そうなのかい。勉強熱心だねぇ。さあ、どうぞ」


 ズカズカ進んでいく総一郎の後を追って会議室に入る。


 この間テレビに出ていた影響か、白いかべで囲まれたせまい会議室は、すでに半分ほどうまっている。


 けれども、そのほとんどがおじいさんやおばあさんなので小学生の私たちはひどく目立つ。


「えっ、一番前に座るの?」


 最前列のど真ん中に座ろうとした総一郎を引き止める。


「そりゃ、特等席だし」

「後ろの方がいいよ、絶対!」

「なぜだ」

「なぜって……」


 一番前なんて、目立つじゃん!


「さあさあみんな、前の方が空いてるから座ってね」


 そうこうしているうちに、受付のおじさんがやってきて私たちをムリヤリ最前列に案内する。


 私たちはしぶしぶ前の方に腰かけた。


 せめてド真ん中はさけようと、真ん中より少し入口側の席に座る。


 となりに座った蛍ちゃんを見ると、カバンに何やらお守りが付いている。


「あれっ、蛍ちゃん、そのお守り」


「ああ、これ?」


 蛍ちゃんは紫色のお守りを見せてくれた。


 色は違うけど、もようはリリカが持っていたものと同じに見える。


「交通安全のお守りだよ。おばあちゃんが始業式前に買ってきてくれたの」


 蛍ちゃんが「交通安全」と書かれたお守りをひっくり返すと、そこには「星丘神社」と大きく刺繍ししゅうが入っている。


「みなさん、お静かに!」


 私はもっと蛍ちゃんに話を聞こうと思ってたんだけど、その前に前野先生が部屋に入ってくる。


 前野先生は私たちを見て少しびっくりした顔をしたけれど、すぐに笑顔になる。


「まさか君たちが来てくれるとは思わなかったよ」


「学級新聞の記事にしようと思って来ました」


 私が答えると、前野先生はニッコリと笑う。


「ありがとう。生徒に見られてると思うと緊張するけど、がんばるよ」


 ああっ、相変わらずかっこいいなあ、前野先生。


 こんなステキでやさしそうな前野先生が、本当に超能力犯罪者なのかな。


 私がモヤモヤしているうちに、前野先生の市民講座は始まった。


 配られた紙に目を通す。


 資料を見る限りでは、講座の内容は、テレビで放送されたものとほとんど代わりが無いみたい。


「――と、言うわけで、ここ星丘神社は天から落ちてきた不思議な力をもつおキツネ様をまつる神社となったのです。何か質問はありますか?」


 総一郎が手を上げる。


「その、おキツネ様がさずけてくれた不思議な力というのは、超能力のことではないですか?」


 前野先生が笑う。


「超能力かあ。面白いこと言うね。確かに、大きな柱をうかせて鳥居を作ったという伝説や、大きな岩をどかしてお堂を建てたという伝説は、超能力っぽいと言えば超能力っぽいかもね」


 返事をする前野先生には、何ら変わった様子はない。


 すると私たちの後に座っていた男がすっと立ち上がった。


「そうだね。神社には当時の神主が神通力を神のケモノに授けられ、この神社を作り、この地を治めたと伝わっている。それはひょっとすると、今の言葉で言う、超能力だったのかも知れない」


「なるほど。さすが神主さん、私なんかよりおくわしい」


 前野先生がほめる。


 神主さん? いつの間に私たちの後に。


 ――ドクン。


 ふり返って神主さんの顔を見たとたん、心臓が大きく鳴る。


 そう言えばこの神主さん、二十代半ばくらいだ。


 賽銭泥棒をつかまえた時に近くにいたし、私たちが超能力を使うところを見ていたとしてもおかしくない。


 それに蛍ちゃんが持っていたお守り。蛍ちゃんが超能力を使えるようになったのは、あのお守りがきっかけだったとしたら――。


 そう思ったとたん、背中にイヤな汗がどっとふき出した。思わず席を立つ。


「サナちゃん?」

「どうしたの?」


 不思議そうな顔をする王子と蛍ちゃん。

 だけどユナは私の表情を見てピンと来たようだ。


「まずいぞ、こいつ……!」


 そんな私たちを見て、神主さんはクスクスと笑う。


「おやおや、どうしたのかな? そんなにあわてて」


「まずい、にげないと!」


 私がみんなに呼びかけたその時――。


 バタン!


 大きな音を立てて入口のドアが閉まる。

 閉めたのは、先ほど受付をしてくれたおじさんだ。


「開けてください! 私たち――」


「ダメダ」


 おじさんの目が赤く光る。


「――ヒッ」


 もしかしてこの人、あやつられてる?

 キッと神主さんをにらむと、神主さんの目も同じように赤く光っている。


「どこへ行くんです? 話はまだ終わってませんよ」


 うすら笑いを浮かべる神主さん。


 やっぱり、この人が――神主さんが、顔を変えてこの町にひそんでいた超能力犯罪者だったんだ!


「これは一体、どうなってるんだ?」


 総一郎がとまどいの声を上げる。


 前野先生も、わけが分からない、と言った表情でオロオロする。


「神主さん、どうしたんです? 落ち着いて……」


「知らばっくれるんじゃない。あなたがインターポールの手先だってことは分かってるんですよ、前野先生」


 キッと前野先生をにらむ神主さん。


 あ、そっか。


 神主さんは王子じゃなくて前野先生のことをインターポールだと思ってるんだ。


 そりゃそうだよね。小学生がインターポールだなんて、ふつう思わないもんね。


「ものども! あの男をつかまえろっ!」


 神主さんがさけぶと、周りの人たちの目がいっせいに赤く光る。


 まずいわ。この人たち、全員あやつられてるみたい。


「きゃああああああっ!」


 蛍ちゃんがさけぶ。


 超音波のような音圧のつぶてが発生し、窓ガラスがいっせいに割れる。

あやつられていた人たちが一瞬ひるんだ。


 ナイスだわ、蛍ちゃん!


「こっちだ!」


 総一郎が窓のカギを開け外へ出る。


 そっか、ドアがダメなら窓から出ればいいんだ。


「先生、行きましょう!」


 私は先生のうでを引っ張った。


「あ、ああ。でもこれは一体」


「くわしい説明は後でします! とにかく急いで!」


 私はガラスの破片に注意しながらひょい、と外に出た。


「先生、早く!」


 だけど体の大きい先生はモタモタしてる。


「逃がすかぁ」


 おそい来る神主さん。


 ――その時だ。


「ぐはァァッ!!」


 神主の体が、だれかにおされたみたいに宙にまう。


「えっ」


 私たちが驚いていると、聞きなれた声がした。


「大丈夫ですか、おぼっちゃま」


 銀の髪にメイド服。


「ロベルタさん!」


 私たちがおどろいていると、ロベルタさんは冷静な口調で言った。


「ここは私に任せて早くお逃げください」


「う、うん!」


 私たちは、いそいで公民館から逃げ出した。


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