第六章 いざ、超能力対決!!

第20話 入部希望者

「あれっ、サナちゃんどこ行くの? 次家庭科でしょ?」


「ごめん、教室に裁縫セット忘れてきちゃって」


 その日、私は人気のない廊下を一人で歩いていた。


 家庭科室は校舎の一階にある。私は教室のある三階に裁縫セットを急いで取りにもどると、人気のない階段をかけ降りた。


 キーン、コーン、カーン、コーン。



「やだっ、授業におくれちゃう!」


 先生におこられる!


 夢中で階段をおりていると、とつぜん背中をだれかに押された。


 ドンッ!


「えっ」


 グラリ。


 気がついたら、私は階段の上の方から転げ落ちていた。


 空を飛ぶ体。


「きゃあああああああっ!!」


 落ちるうぅぅぅぅう!!


 せまって来る地面。


 と、地面に落っこちる寸前で体がふわりとうかんだ。


「――!?」


「サナ、大丈夫か!?」


「ユナ!」


 ユナが走ってくる。そっか、ユナが超能力で助けてくれたんだ。ユナの超能力で宙にうかんだ私は、ゆっくりと地面に降りた。


「授業始まってるのに中々来ないから心配で見に来たんだよ」


「あ、ありがと……」


「まったく、急いでて階段から落ちるなんて危ないな」


 急いでて?


 落ちた時のことを思い出した私の背筋がゾッとなる。

 そう、私が階段から落ちたのは急いでたから、だけじゃない。


「ちがうの、ユナ。だれかに背中をおされたの!」


「えっ?」


「だれかにドンっておされる感覚があったの! それで階段から落ちたのよ」


 ユナがけげんそうな顔をする。


「何言ってるんだ。ボクはサナが階段から落ちるところを見てたけど、サナの後にはだれもいなかったよ?」

 

「えっ?」


 だれもいなかった?


 そんなはずない。確かに、だれかにおされたような感覚があったのに!


「とりあえず、家庭科室に行こう」


「う、うん」


 ユナにうながされ、家庭科室に向かう。


 おかしい。


 絶対にだれかが私の背中をおしたんだ。でも一体だれが?



 ***



「それはまさしく、超能力者の仕業だな!」


 先ほどあったことを授業中に話していると、ちくちくとエプロンをぬいながら総一郎が叫ぶ。


「ええ? 本当?」


「おそらくな」


「人の背中をおす超能力なんてあるの?」


 王子が首をかしげる。


「念動力で相手にふれずに相手を押したという例はたくさんある。例えば――」


 マニアックな話をし始める総一郎。私それを「ふぅん」と聞き流す。


 でも犯人が超能力者だとして、どうして私をねらったんだろう。何かのうらみ? それとも、私が超能力者だから?


 ふふん、と総一郎が鼻で笑う。


「サナは性格が悪いから、どうせだれかのうらみでも買ったんじゃないのか」


「何それ! 失礼な!」


「き、きっとサナちゃんは可愛いから、だれかが嫉妬してるんだよ!」


 あわててフォローする王子。

 やっぱり!? そうよね~、分かってるぅ!


「ちょっといい?」


 そこへ二人のクラスの女子が声をかけてきた。


 あんまり話したことない子。赤城さんと青依さんだっけ。


「何? どうしたの?」


「先生が呼んでる」


 先生を指さす二人。

 ゲッ、授業に少しおくれちゃったから、おこられるのかしら!?


「あなたも」


 赤城さんと青依さんの二人はユナのことも指さす。


「へっ? ボクも?」


 二人で不思議がりながら先生の元へと向かう。


「先生、用事ってなんですか?」


 だけど、私たちがたずねると、先生はきょとんと目を丸くした。


「え? 別に先生、あなたたちを呼んだりなんかしてませんよ?」


「はあ??」


 不思議に思ってふり返ると、そこにはさっきの赤城さんと青依さん、それから金乃園リリカっていう二人のボスみたいな女子の三人が私たちのいた席に座って王子と楽しそうに話してる。


 やられた!


 あの子たち、王子のファンなんだ!


「仕方ないわね」


 私とユナは、仕方なく赤城さんたちの席に座った。


 でも作りかけのエプロンも裁縫セットも全部自分たちの机の上だし、赤城さんたちの席にいても何もすることがない。


「なあ、あの三人に席をどいてもらおうよ」


「そうだね」


 私たちは自分たちの席へ向かった。


「そこ、私たちの席なんだけど」


 私が声をかけると、金乃園リリカはジロリと私をにらんだ。


「あ~らサナさん、今、私が王子様と話しているところなのよ! ジャマしないで下さる!?」


 リリカがじまんのクルクルツインテールをバサリとゆらすと、高そうな香水のにおいがした。


 なんで高そうって分かるかって言うと、実はリリカは金乃園グループっていう会社の社長の娘。


 お洋服やペンケース、ノートやシャープペンシルにいたるまで全部ブランド物なの。


 だからきっと、香水もブランド物にちがいないってわけ。

 

 ブランド物で身を固めたところで、本人に魅力が無ければ意味無いのにね。


「で、でも、そこ私の席だしっ! そこにいたらエプロン縫えないんだけど!」


「だったらエプロンと裁縫箱だけ持って赤城たちの席行けばよろしくてよ」


 しっしっ、と私とユナを追いはらおうとするリリカ。


 何よ、人のことを犬みたいに!


「でも、みんな自分たちの席で作業してるし」


 ユナも切り出す。


「いいじゃない、先生も見てないんだし、みんなそんなこと気にしてなくてよ?」


 リリカが笑うと、赤城さんと青依さんもそれに同意する。


「そうよそうよ!」

「あなたたちだけ、いつも王子様とおしゃべりしててズルいわ!」


 どうやらいつも王子と話してる私たちが気に入らないみたい。


「まあまあ、みんな、仲良くしてね?」


 王子が困ったように笑うと、リリカたちは目をハートにして「はーい」と返事をする。


 私が困って総一郎に目を向ける。総一郎は大きく息をはくと、心底めんどくさそうに言った。


「今は授業中だ。話がしたいなら休み時間にするんだ」


 リリカは、フンと鼻を鳴らす。


「でもっ、休み時間も放課後も、その子たちはずーっと王子様を一人占めしてるじゃないのっ!」


「そーよそーよ」

「ズルい!!」


 ブーブー言う三人。


「当たり前だろ。席も近いし、クラブも一緒なんだから」


 ユナが言うと、リリカはキッとユナをにらむ。


「でしたら、私たちも学級新聞クラブに入れてもらいますわ!!」


 えぇ~!?


「そ、総一郎、いいの?」


 私が総一郎を見ると、総一郎は困った顔で頭をかいた。


「すまないが、王子目当ての入部希望者はお断りしてる」


 リリカはそう言うと、少しムッとした顔をした。


「あら、別に王子様だけが目当てじゃないわ」


 キラリ、とリリカの瞳が光る。


「私、実は超能力者ですの! 透視能力があるの。どう? 興味あるでしょ?」


 私はリリカの顔をマジマジと見た。

 リリカが超能力者? 王子に気に入られたいだけのハッタリかしら? それとも本当に!?


「分かった」


 総一郎が立ち上がる。

 え? 分かったって、まさか......。


「明日、超能力が本物かどうかテストさせてもらう。入部できるかどうかはそこからだ」


 ええ~!?


「よろしくてよ!」


 フフン、と鼻を鳴らすリリカ。


「いいだろう。では、入部テストとして超能力対決をすることとしよう」


 総一郎が眼鏡をキラリと光らせながら言う。


 入部テスト?

 私たちはいっせいに首をひねった。

 総一郎は宣言する。


「君には、ここにいる双子と超能力対決をしてもらう!!」


 ……えーと??


 総一郎ったら、何言ってるの!?

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