第13話 それぞれの計画


「彼、ユナちゃんのサッカー友だち?」


 王子がたずねる。


「うん。勝手に決めちゃってごめん」


 ユナが頭をかく。


「僕はだれでも構わない」


 うでぐみをする総一郎。

 

 確かに、総一郎は昔から「委員長として、クラスの全員に話しかける」がポリシー。


 苦手なクラスメイトとかいないもんね。


 ただ単に他人に興味が無いだけとも言うけど。


「僕も転校してきたばかりで友だちがあんまりいないから、友だちが増えるのはうれしいよ!」


 ニコリとする王子。


「私もかまわない」


 私もうなずく。

 明るくていい人そうだし、ユナの友だちだから、私とそこまで性格が合わないってことはないでしょ。


「蛍ちゃんは?」


「私もいい……けど」


「けど?」


 私が聞くと、蛍ちゃんはあわてて首を横にふった。


「ううん。旬太くん、同じクラスだけどあんまり話したこと無かったから」


 そっか、蛍ちゃんと同じ一組なんだ。


 確かに、蛍ちゃんは大人しいし、クラスの男子とあまり話さないのかも。


 しかも旬太くん、小学生のくせに髪も茶色いし、ちょっと不良っぽいから。


「でもみんながいるから大丈夫」


 遊園地、小さい頃行ったきりだわ。楽しみ!

 


 ***




「遊園地楽しみだね。ああ、ドキドキしちゃう。総一郎くん、どんな服が好みかな?」


 女子トイレでばったりと蛍ちゃんに会うと、蛍ちゃんは顔を真っ赤にしながら私に相談してくる。なんて乙女なのかしら!


「今日はクラブも休みだし、良かったら帰りにうちに寄って二人で雑誌でも読んでファッションの研究しない?」


「うん!」


 二人で約束して教室を出る。


「私、ちょっと忘れ物を取ってくるね」


 蛍ちゃんが自分の教室にかけて行く。


「うん」


 私は蛍ちゃんが忘れ物を取ってる間に自分のクラスに戻ろうとしたんだけど、ふと聞きなれた声がして立ち止まる。


 よく見ると、教室の中で総一郎と旬太くんが何か話している。


「――それで総一郎、オレと蛍ちゃんをくっつけるのに協力して欲しいんだ!」


 えっ!?


 今、旬太くんってば何て言った?

 蛍ちゃんとくっつけてほしい?

 


 旬太くんってば蛍ちゃんのことが好きだったの!?


 しかも、それを総一郎にお願いする!?

 蛍ちゃんは、総一郎のことが好きなのに!

 こっ、これは、三角関係だわー!!


「僕は色恋ざたはあまり得意ではないのだが」


 困った顔をする総一郎。

 そうそう、そんなお願い、断っちゃいなさい!


 だけど総一郎は、力強くうなずいてこう言った。


「分かった。できる限り、二人きりになれるよう協力しよう」



 ええーっ!?


 

 ど、どうしたらいいの!?

 フラフラと廊下ろうかを歩いていると、ユナが掃除当番を終えてやってきた。


「おー、こんな所にいたのか。帰ろうぜ」


「わ、私、今……蛍ちゃんを待ってて」


 苦笑いしながら言う私に、ユナは首をかしげる。


「ふーん?」


「お待たせー!」


 すると蛍ちゃんと王子がとなりのクラスから出てくる。


 え? なんで王子がとなりのクラスから出てくるの?


「教室に戻ったら王子がいたから話し込んじゃった」


 にこやかに言う蛍ちゃん。


「そ、そう」


 何の話をしてたのかしら?


「ふーん、じゃあ、帰ろうぜ!」


 元気に廊下ろうかを走っていくユナ。


 ......はぁ。


 ユナはお気楽でいいよね。





 そして運命の土曜日がやってきた。今日は待ちに待った遊園地に行く日。


 待ち合わせ場所は駅前の広場だ。


「ちょっとサナ、スカート短すぎるんじゃないか?」


 ユナが私の服を見て文句をつける。私はスカートをおさえながら一回転した。


「えー、そう?」


 確かに、最近背がびてきたせいか、前に着たときよりスカートが短くなってる気がする。でもこれ、お気に入りなんだもん!


「そう言うユナこそ、地味すぎない?」


 私はユナの服をじっと見つめた。

 灰色のパーカーにTシャツ、デニムのハーフパンツ、キャップ……せっかくのお出かけなのに、いつもと変わらないじゃない!


「いいんだよ、この方が動きやすいから!」


 ええ? せっかく男子とお出かけなのに。


 まぁいっか。あんたには蛍ちゃんの引き立て役になってもらうから。


 今回の主役は蛍ちゃん。蛍ちゃんには絶対に総一郎と二人っきりになってもらうからね。


「ねぇユナ」


 私はユナを呼びつけた。


「あんたが旬太くんを誘ったんだから、あんた、旬太くんに沢山話しかけて面倒めんどう見てね? 蛍ちゃんもクラスであんまり話したことないって言ってるし、せっかくさそったのに仲間はずれにならないように」


「ああ、分かったよ」


 あっさりと返事をするユナ。


「蛍ちゃんは総一郎のことが好きだし、ボクは王子が苦手だから、とりあえず旬太に沢山話しかけることにするよ。元々そのつもりで誘ったし」


「なんだ、そうだったの」


 ってことは、ユナは旬太が蛍ちゃんの事を好きなのは知らないのか。言うべき?


 ま、いっか。他人のプライベートなことだし。


「じゃあ、私は王子を引きつけてればいいわけね」


 すると、どこからか聞きなれた声が聞こえてきた。


「それにしてもサナ、スカート短すぎじゃないかワン?」


 あわててカバンを見ると、そこにはキーホルダーに化けたコロちゃん!


 家に置いてきたと思っていたのに、いつの間に。


「コロちゃん、どうして」


「二人とも遊園地なんてずるいワン! ぼくも行きたいワン!」


 全く、しょうがないなー。


「くれぐれも、しゃべったりしないでよ? 特に総一郎の前では!」


「わかってるワン!」


 大きな声で返事をするコロちゃん。

 本当に分かってるのかな。


「みんな、待たせたな」


 総一郎がこちらへ走ってくる。

 私はあわててカバンを後ろ手に持ってコロちゃんを隠した。


 総一郎は特別オシャレをしているというわけでは無く、いつものように地味なチェックのシャツだけど、最近やけに背が伸びたので、ランドセルを背負ってないと、パッと見中学生に見えなくもない。


 そんな総一郎を見て、蛍ちゃんが顔を赤くする。


「ぜ、全然待ってないよ!」


 やれやれ、青春ってやつ?


 全く、こんな男のどこがいいんだか。

 前野先生のほうが絶対カッコイイのに!


「お待たせ、みんな」


 総一郎より少し遅れて王子がやってくる。


 王子が出てきたのは、高そうな白い大きな車の中。今日はみんなで王子の家の車で遊園地に行くことになっているのだ。


「旬太くん、途中で会ったから拾ってきたよ」


 王子に言われて車の中を見ると、すでに旬太くんが座っている。


「ささ、みんな乗って!」


 王子にすすめられ、みんなで車に乗り込む。後部座席は前列と後列に別れていて、後ろの方にはすでに旬太くんが乗っている。


 私とユナは目配せをしあった。


「お願いしまーす」


 いよいよ遊園地に出発だ!

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