第101話 きっと毎日会いたいんですよ

 私とミュウちゃんは二人と別れて家に戻る。

 すると庭のテーブルに四人の人物が集まってくつろいでいた。

 ……なんか増えてるな。


 雫さんと結乃さんは朝からいたけど、そこに芳乃ちゃんと杏蜜ちゃんが合流していた。

 だんだん私の家じゃなくなってきたんだけど。


「あ、苺さ~ん!」


 杏蜜ちゃんが私を見つけて大きく手を振っている。

 その隣で芳乃ちゃんがこちらを見て会釈していた。

 ふたりとも私が帰ってくるのを待ってたのかな?


「どうしたんですかふたりとも、私に用事ですか?」


 私が聞くと、杏蜜ちゃんがニヤニヤしながら答えてくれた。


「芳乃ちゃんが最近苺さんと会ってないから元気出ないって言うから」

「い、言ってないし!」

「言ってました~、鬱陶しいくらい言ってました~」

「ぐっ」


 どうやら本当に言ってたらしい。


「でも二日前に私たち会ってますよね?」

「きっと毎日会いたいんですよ」


 杏蜜ちゃんがやれやれといった大袈裟なポーズをとる。

 図星だったのか、芳乃ちゃんはまったく反論せずに顔を赤くして目をそらす。

 なんか芳乃ちゃんがすごいかわいいことになってますよ?


「あの、苺さん、この後時間があったら……」


 その芳乃ちゃんが何かを言いかけたその途中。


「そうだ苺さん! 私の育てた野菜とか果物見に来てくださいよ! おいしそうにできてるんですから!」


 思いっきりわざとかというくらいのタイミングで杏蜜ちゃんが話を割り込んでくる。

 これで悪意がなかったら逆にすごいな。

 絶対に芳乃ちゃんが話始めてたの聞こえてたはずなのに。


 何か恨みでもあるのかな?

 ……ありそうだな、このふたりの間なら。


「ありがとうございます杏蜜ちゃん、今度時間があるときに見に行きますね」

「え~、今日がよかったんですけどね~」

「ごめんなさい、それより芳乃ちゃん、さっき何か言いかけてましたよね?」

「あ、えっと、その……」


 私がちょっと強引に芳乃ちゃんに話しかけると、急だったせいか芳乃ちゃんが珍しい表情でもじもじとしている。

 しかし次の瞬間には覚悟を決めた顔をして私を見る。

 そして。


「な、何でもないです……」

「「「ええ~!?」」」


 その答えには私だけでなく、近くにいた雫さんや結乃さんも思わず声を出して驚いた。

 だってさっき、「この後時間があったら……」って言ってたのに、何でもないことないでしょう。


「あの、遠慮しなくてもいいんですよ?」

「いえ、本当に大丈夫だから……」


 芳乃ちゃんはちょっとやさぐれた表情で視線をそらした。


「あ、用事思い出したから帰るね、それじゃ……」


 そう言って突然芳乃ちゃんは帰っていってしまった。

 なんだか寂しそうな背中を見ていると、やってしまったなという気持ちになった。


「どうしたんでしょうね芳乃ちゃん」


 突然の出来事にキョトンとしている杏蜜ちゃん。


「はあぁ~、杏蜜ちゃん……」

「……え? 私のせいですか?」


 私たちは全員で頷く。


「ええええええええ!?」


 杏蜜ちゃんは本当に理由がわからないといった様子だった。

 本当にわざとやったんじゃなかったのか。


「私、ちょっと行ってきます」


 みんなにそう告げて、私は芳乃ちゃんを追いかけることにした。

 芳乃ちゃんは歩いて帰っていったから、そう遠くまでは行ってないはず。

 なのに、家の前に出てもその姿を見つけることができなかった。


 とりあえず芳乃ちゃんは雪ちゃんの家に住んでるはずだから、そこへむかうことにしよう。

 私は走って雪ちゃんの家への道を急ぐ。

 と、その途中でベンチに座る芳乃ちゃんを発見した。


「芳乃ちゃん!」


 私が声をかけると、芳乃ちゃんは急に立ち上がり、走って逃げて行く。


「な、なんで逃げるの……?」


 芳乃ちゃんは近くにあった大きな樹の裏に姿を消す。

 私もすぐに追いかけて樹の裏に回り込む。

 しかしそこにいるはずの芳乃ちゃんの姿がなかった。


 そんなバカな、いくら何でも逃げ場所なんてないはず。

 もしかして樹の上に飛んだ?

 まさかと思いつつ上を見るが、やはりいない。


 どうなってるんだろうと不思議に思っていると、いきなり後ろから樹に押しつけられる。

 私はとっさに回転し、相手の方をむく。

 目の前には芳乃ちゃんがいた。


「芳乃……ちゃん?」

「うん、そうだよ苺さん」


 そう言う芳乃ちゃんは不気味な笑みを浮かべていて、目には光がなかった。

 私はこの目に見覚えがあった。


「そうか、芳乃ちゃんの中にもう一人いるんですね」


 私は芳乃ちゃんの体の中に別の人格がいるのではないかと考えた。

 それに対して、芳乃ちゃんはおかしそうに笑いだす。


「あはは、惜しいけどハズレだよ。私はね他の夢魔の体を使ってその場に干渉できるの」

「やっぱり芳乃ちゃんじゃないんですね。あの時、洞窟の温泉にむかう私を見送ったのもあなたですよね」

「そうだよ、あはは」


 芳乃ちゃんよりもこどもっぽく笑っているはずなのに、私はなぜか恐怖を感じている。


「すべての夢魔は私の分身のようなもの、私は夢魔の女王であり、夢魔の頂点」

「夢魔の女王って、あなたが本物ってわけか……」


 つまり今まで女王だと言われていたのは、また別の存在ということか。

 私たちが探していたのは、この女王のことだろう。


 この女王の本体を倒すことができれば、雪ちゃんは今度こそ完全に救われる。

 そしてあの檻の外の世界も安全な場所になるかもしれない。

 世界を元の姿に戻す方法が見つかるかもしれない。


 でもいったい本体はどこにいるんだ?

 そもそもこの世界にいるかもわからない。

 もし、あの檻の外にいるんだとしたら、かなり厳しい状況だ。


「それで、今私の前に出てきたのはなぜですか? 何か私に用でも?」


 とりあえずこの夢魔の女王が何を目的にしているのか探ってみよう。

 そこに何か解決策があるかもしれない。


「ふふふ、私はね、あなたが欲しいの」

「え?」


 夢魔の女王は怪しげな笑みを浮かべながら、私の顎をくいっと持ち上げた。

 芳乃ちゃんの顔でそんなことをされると、かなりドキドキしてしまう。


 でも、私が欲しいってどういうこと?

 もしかして、あんなことやこんなことをしたいってこと?

 私はついに大人の階段をのぼってしまうのか。


「あなたの中にある無尽蔵の魔力、私はそれが欲しいの」

「私の魔力……?」


 夢魔の女王が欲しがるほど、私の魔力って特殊なのか?

 確かにいろんな魔法が簡単に使えるし、威力もかなり強いと聞いてはいたけど。


「さっきは雪のせいで逃がしちゃったけど、今度こそ私のものになってもらうよ」


 そう言いながら、なぜか顔を寄せてくる女王。

 ちょっと待って、何をするつもりだ。


「なんで私なんですか? 雪ちゃんの方が私よりもずっと強いはずですよ」


 私が言うと、女王は少し顔を離して不思議そうな表情をした。

 そして、「うふふ」とおかしそうに笑った。


「あなたはまだまだ自分の存在を理解できていないんだね。いいよ、それも含めて私がちゃんと教えてあげる」


 再び女王が顔を寄せてくる。

 体がうまく動かず、逃げることができない。

 何か魔法でもかかっているのだろうか。


 こんなところで私の大事なものを奪われるのか。

 悔しいけど、でも芳乃ちゃんの姿だし、ちょっといいかもなんて。


「それじゃあ、いただきま~す」

「やっぱりダメえええ!!」

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