第75話 私はただの女子高生ですよ
放課後。
いつもなら雫さんと一緒に下校するのだが、いろいろと考えたいことがあるので、用事があると言って先に帰った。
別にどこかに行こうとかそういうわけでもないけど、今日1日ひさしぶりの学生生活を送ってみて思うことがある。
やっぱり単純に過去に戻ったわけではないということ。
ではここは何なのか、過去じゃないけど過去みたいな世界。
パラレルワールドというやつだろうか。
だとしたらここで何かして未来を変えたとしても、元の世界は変わらないはず。
いったい私はどんな理由でここにいるんだ。
夢の世界から元の世界に戻ってきただけのはずなのにな。
実際、あの温泉に浮いてたところを回収されてるから一応流れは変わってない。
でも時間だけが過去に戻っているし、みんなの記憶も過去のものだ。
今のところ私だけが夢の世界に行く前の記憶を持っていると思われる。
雪ちゃんの声が失われないことが何か影響しているのだろうか。
私はただ幸せになるために生きていていいのか。
なんだかしっくりこない気がする。
ふらふらボ~っと帰り道を歩いていると、社畜時代に一度お参りした不思議な神社を見つけた。
確かに位置は同じなんだけど、やっぱりこの場所、来るときにはなかったよね?
こんな石階段や鳥居を見逃すはずがない。
妙な感覚がする、これは行くしかないか。
私は覚悟を決めて階段をのぼっていく。
しばらくして境内に着いたけど、前と同じく誰もいない。
そして特に変なところもない、前来た時と変わってないように思う。
とりあえずお参りしていくか。
賽銭箱がないのは変わらずか、ガラガラはあるんだけどね。
「今の幸せが永遠に続いてくれますように」
女神様にあったことあるからね、きっとお願いも届くはず。
みんな、神様はいるんだよ。
お参りを終えて帰ろうとすると、拝殿の裏から物音がした。
誰かいるのだろうか。
なんとなく気になって裏に回ってみると、いきなり黒い霧のようなものがおそってくる。
「こいつら、まさか海底の街にいたやつと同じか」
なんでこんなところにいるんだ、普通の街中の神社なのに。
自然と体が反応し手をかざすと、あの時使っていた魔法銃が出てきた。
そのままトリガーを引くと、夢の世界と同じように魔法の光線が黒い霧を消滅させる。
なんとかなったか……。
でもなんで現実世界にこいつらが存在するんだ。
こんなのが街に出たら大変なことになるぞ……。
もしかしてこの神社から出られないのだろうか。
内側から結界が貼ってあって、ここに閉じ込めているとか?
だとしたら今は出られてしまうんじゃ……。
嫌な予想が頭に浮かぶ。
そんな時、再び大きな音がしてそちらにむかう。
そこにはなんと雪ちゃんがいて、さっきの黒い霧の仲間と思われるものに襲われていた。
雪ちゃんは神社の建物に追い詰められている。
助けなきゃ……!
そこそこ距離はあったけど、狙いを定めてトリガーを引く。
なんとか一撃で敵を撃ち抜き、消滅させることができた。
雪ちゃんは突然のことに驚いた様子でこちらを見る。
さらにそこにいたのが私だったからか、さらに目を丸くしていた。
「い、苺さん?」
「雪ちゃん、大丈夫だった?」
私は雪ちゃんのもとに駆け寄り、けがとかしてないか体を確認する。
見たところ何の異常もなさそうに見える。
「よかった、雪ちゃんが無事で」
「苺さん、その銃は……」
雪ちゃんの視線は私の持つ銃にむいていた。
おっと、そりゃこんなの持ってたら怖がって当然だよね。
「あ、これはね、そんな物騒なものじゃないんだよ、本物じゃないから」
一応説明というか言い訳のようなことを言ってみる。
魔法の銃です、なんていうわけにはいかないもんなぁ。
雪ちゃんは銃と私を交互に何度かみたあと、ようやく口を開いた。
「それ、魔法銃ですよね、なんで苺さんが……?」
「へ?」
なんで雪ちゃんがこれのこと知ってるんだ?
……あ、そうか、雪ちゃんは夢魔と戦っているんだっけ。
この世界でも声を失ってないだけで、戦いは存在してるってことか。
ということは……。
「もしかして、さっきの黒いのは夢魔なの?」
「苺さん、知らずに銃で吹き飛ばしちゃったの?」
「あはは……、似たようなものと戦ったことがあったから」
私の言葉に雪ちゃんは再び目を丸くする。
「苺さん何者なの?」
「私はただの女子高生ですよ」
……本当にそうならよかったんだけどね。
「ただの女子高生の苺さんはどこで夢魔のこと知ったんですか?」
ただの女子高生をあまり強調しないでほしいな……。
一度社会人まで経験してるから、なんか若作りして無理やり呼ばせてるみたいで心苦しい。
ここでは本物のぴちぴちの、今をトキメク、正真正銘、花の女子高生なんですけどね!
「ちょっと人から聞いたんですよ、詠ちゃんって知ってますか」
「詠ちゃん……? いえ、知らないですけど……」
「そっか……」
じゃあ、まだ詠ちゃんとは会ってもいないのか。
いや、会った時点であの未来が確定してしまうのかもしれない。
だったら会わない方がいいのかも。
「あの、苺さん、この後時間ありますか? できればこのことについて話をしておきたいんですけど……」
「うん、大丈夫だよ、私もいろいろ聞いておきたいことがあるから」
「じゃあ、私の家まで行きましょうか、芳乃さんに連絡しておきますね」
「は~い」
お互いの意見も一致したところで、いったんこの場を離れることにした。
雪ちゃんの家か、行ったことなかったよね。
別荘には連れて行ってもらったけど、お家の方はまだない。
それが学生時代で達成されるとは、これは雪ちゃんルート突入ですか? ですか?
雪ちゃんと並んで歩き、境内を抜けて石階段を降りる。
そして歩道まで出たところで後ろから変な気配がして振り返ると、そこから石階段が消えていた。
なんだ……?
神社ごと存在を隠してるのか?
だとしたら確かに私が普段気付かないのは当たり前だ。
すると雪ちゃんとかが中に入るために入り口を開いたりするのだろうか。
でもその間は出入り自由っていうのはあまりにも不用心だろう。
そんなに人通りが多くないとはいえ、少ないともいえない道だ。
実際私はこれで2回目なんだから。
しかもなぜか雪ちゃんがこれについてまったく気にしている様子がない。
何か変だな、私が変なのか?
「そういえば苺さん、たまに丁寧語じゃなくなりますよね、私はそっちのほうが好きですよ」
「え?」
そういえば、自然と話し方が変わってたな、あんまり意識してなかったけど。
「丁寧語、やめてみた方がいいですよ絶対に」
「そうですか?」
「はい、私はそう思いますよ」
でも、改めて言うとなるとなんだか恥ずかしいかも……。
「じゃあ、雪ちゃんも同じようにしてね、私もその方がうれしいよ」
「え? あはは、頑張ってみま~す」
……逃げたな。
でも確かに距離は近づくのかもしれない。
そもそも理由があってこんな話し方してるわけじゃないもんね。
なんでこうなったんだっけ?
まあいいか、徐々にでも変えていけるならやってみよう。
まずは雪ちゃん相手に練習してみるとしますか。
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