第44話 大丈夫、恥ずかしいのは最初だけです

「それよりイチゴさん、この街のスタンプはもう手に入れたんですか?」

「あ、いえ、まだです」


「そうですか、まあ、ミュウちゃんがいれば大丈夫ですね」

「まかせて」


 そりゃ、ミュウちゃんが担当してるんだもんね。

 どうしようかな、先にスタンプをもらってきてから遊ぼうかな。


「そうだ、イチゴさんは泳いだりとかしないんですか?」


 ユーノさんは、未だにローブに包まれている私を見て聞いてくる。


「水着がないんですよ」


 全裸の人にこの気持ちがわかるかどうかは知りませんが。


「水着がなければ全裸で泳げばよろしいのに」


 ですよね、そういう反応ですよね!

 畜生!


 ユーノさんってこんな人だったっけ?

 確かに変人だけど、ちょっと見つめてただけで照れてるような人だったはず。


 なのにこんな人前で果実を揺らしてるなんて……。

 この海がそうさせているのか?


「あ、そうだ、水着がないなら代わりにいいものがありますよ」

「いいもの?」

「はい、どうぞ」


 手渡されたのはかわいらしい丸型の絆創膏のようなものだった。

 全裸なのにどこから出してきたんだ?

 というか、ナニコレ。


「そっちが上用で、こっちが下用です」


 そう言いながら、さらに大きいサイズのものを渡される。

 うん、大体わかった。


「無理です」

「大丈夫、恥ずかしいのは最初だけです、私もそうでした」

「そうなるのが嫌なんですよ!」


 おそらくこういうのは、恥ずかしがってる人の方が解放されたときに弾けるんだろうな。

 私はそれが怖い。


「仕方ありませんね、じゃあ魔法で水着を着せてあげます」

「わあ、ありがとうございま~す!」


 それができるんなら、なぜあんなの出してきたんだ……。

 ま、まさかユーノさん、私のあられもない姿を見たかったとか?

 それなら言ってくれればいいのに~。


 今度ふたりきりの時にね!


 そんな妄想をしている間に、私の体が光に包まれていく。

 そしてローブがなくなり、水着に変わる。


 一瞬だけ全裸になった気がした。

 魔法少女の変身シーンみたいな感じだ。


 着せてもらったのはフリフリの白いワンピース水着だった。

 天使をイメージしたようなかわいらしいもの。

 もっと過激なものにされると警戒していたのでちょっとびっくりした。


「ユーノさん、ありがとうございます、こんなかわいい水着にしてもらえるなんて」


 私は心からの感謝をユーノさんに伝える。

 やっぱり女神様、悪いことはしませんね。


「ふふふ、いいんですよ、では行きましょうか」


 ユーノさんが輝く笑顔で手を差し伸べてくる。

 これで全裸じゃなかったら完璧なんだけどなぁ。

 そうは思いつつもその手を握り、ミュウちゃんと3人で海へむかう。


 海に入るのっていつぶりだろうか。

 近くでボーっとしてることはあっても、なかなか泳いだりはしないんだよね。


 ほら、いろいろめんどくさいじゃないですか?

 着替えとかもそうだし、肌も痛くなるし。


 でもここは夢の世界。

 きっとそんなこととは無縁でいられるに違いない。


「ひゃ~!」


 ひさしぶりの海に、若い子みたいな声をあげてみる。

 そんなに感激するようなものではないな。

 心が老けているのかね……。


「えやっ!」

「ぶっ」


 ボーっとしていると、ミュウちゃんがいきなり水をかけてきた。

 うう、鼻が痛い。

 ここはあれだ、アニメとかでよく見る、水のかけ合いをする場面だな。


「おかえし」

「きゃあ」


 私が水をかけ返すと、ミュウちゃんは楽しそうに笑っている。


「えい」

「わわ」


 今度は真横からユーノさんが水をかけてきた。

 それに対し、私とミュウちゃんはふたりがかりでかけ返す。


「きゃあきゃあ」


 さらにユーノさんとの水のかけ合いが続く。

 こういうのって見てるだけだと、何が楽しいんだろうって思うんだよね。

 でも実際にやってみるとなぜか楽しいものだ。


 よし、どさくさに紛れてユーノさんの水着を……。

 と思ったら、全裸だったわ。


 なんだ、すでに裸だと見たいって気持ちが盛り上がらないね。

 やっぱり隠されると見たくなるものなのかな。

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