第20話 天然のお汁粉は世界でも珍しいですからね

 ユキちゃんとお別れをしてお汁粉汲みにむかう。

 方向的にはモモちゃんの家の方に戻っていっている。


 そうそう、ほらスイカが木に実っているところだ。

 よく落ちてこないなぁ……。


 この農作物のエリアを通り過ぎてさらに奥に進む。

 すると木の柵で区切られた別のエリアが現れる。

 その中にきれいで大きな木組みの建物が一つだけあった。


 入り口の門からその建物まで一本の道が伸びている。

 その周りには庭園があり、何かを飲みながらのんびりしている人たちの姿があった。


 もしかしてみんなお汁粉でも飲んでるのかな。


「ここですよ」

「なんか想像してたのと全然違う……」


 でも少しホッとしたよ。

 口に入れるものだから、そこら辺に湧かれてても困るし。


 さてさて、一体中はどうなっているのか。

 建物の中にあったとしてもまだ安心はできない。

 少々の不安を残したまま、扉までの道を歩く。


 そして中に入った私の目に飛び込んできたもの。

 それは壁の岩を削って作られた、女神様らしき女性の像だ。


 手でハートマークを作っていて、その間からお汁粉が流れてきている。

 さらにお隣ではコーンスープと思われるものが湧いていた。

 どちらかというと今はそっちが欲しいなぁ。


 まだ奥にもなにかあるのかな。

 仕切りで見えないので歩いて回り込んでみる。


「きゃああああああああ!?」


 そこにはとてもお見せできない光景があった。

 みんななんとも思ってないの?


 ちっちゃい子もいるけど、これアウトだと思うよ?

 いやこの世界ではセーフなのか?


「どうしたんですか? 変な声出して」

「あ、モモちゃん、あれは……何ですか?」

「ミルクですけど……?」


 やっぱりモモちゃんもこれをおかしいと思ってない……。


「大丈夫なんですか? その……あんなところから出てるのに」

「私たちだっていずれ出るじゃないですか、ちょっと違うものですけど」

「そ、そうですけど、こどもの前でこんな堂々と……」


 あれ?

 私の方がおかしいの?

 なんかそんな気がしてきた……。


 というか、みんなミルク目当てでここに来てるんだ。

 そうか、ずっとこれと一緒に育ってきたということか。


 むしろそのような目で見てしまう私の方が汚れてるんだな。


「一杯飲んでいきますか?」

「飲む~!」


 うん、牛乳。

 今までで一番美味しいミルクだよこれ。

 

 さて、そろそろお汁粉を汲みますか。


「天然のお汁粉は世界でも珍しいですからね」

「そうですね~」


 適当に受け流したけど、天然のお汁粉という言葉を初めて聞いたよ。

 もう目の前の事を受け入れていくのが正解かな。


 しかし何かおたまのようなものはないのだろうか。

 どうやって水筒に入れようかな。


「イチゴさん、この水筒のもう一つの機能をお見せしましょう!」

「うん?」


 モモちゃんは腕まくりをして水筒を構える。

 そしてそのまま水筒をお汁粉の中に突っ込んだ。

 え~……。


 しばらくして引き上げると、なんと綺麗なままの水筒が現れる。


「どうですか! この水筒は外側が汚れないようになってるんですよ!」

「すごいですね!」


 でも手は汚れちゃったね。

 ということで私は湧き出してるところから直接汲むことにした。


「お行儀悪いですよ、イチゴさん」

「え!? そうなの?」


 ごめんなさい、見逃してください。

 それから少しだけ待つと、水筒いっぱいにお汁粉がたまった。


「ちょっと味見してみたいですね」

「あ、イチゴさん、おたま使いますか?」


 持ってるんか~い!


「ありがたく使わせていただきますね」

「どうぞ~」


 おたま一杯分のお汁粉をすくい、ゆっくりと口に運ぶ。

 甘い。


 さすがこの辺りで一番甘いというだけあってかなりの甘さ。

 私の人生でも一番だ。


 今までお汁粉の甘さの具合なんて気にしたことなかった。

 でもこれははっきりと甘いとわかる。

 お餅が欲しいなぁ。


 これなら甘いものが好きと噂の女神様も大満足だろう。

 というか地元なんだし、多分口にしたことあるよね。


 まあいいか。


 何度食しても飽きない甘さ。

 きっとそうに違いない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る